2.

 鶺鴒さんに小鳥遊さんを頼むと言われたが、むしろ、お世話になってるのは僕の方なのだが……。


「…本題に入るわね」


 小鳥遊さんが咳払いをして、ようやく本題に入る事となった。

 本題というのは、僕に憑いている浮遊霊の件だ。


「一応僕なりに調べたんですが、どうやらここ最近の事件じゃないみたいです」


 そう言いながら、ネットで調べた事件を印刷した紙を小鳥遊さんに渡す。


 そこには、29年前の轢き逃げ事件が書かれていた。




音切町おとぎりちょう轢き逃げ事件


 1992年7月14日 日曜日 未明。

帰宅途中と思われる女性が、何者かに轢き逃げされた。


 破裂音の様な騒音によって目を覚ました近隣住民が、外に様子を見に行った際に、被害者である女性を発見した。


 直ぐに救急車を呼んだが、被害者女性は助からなかった。


 また、被害者女性は身元が分かる物を所持していなかった為、被害者の知り合いの犯行ではないかと、調査は進められていた。


 しかし事件は深夜に行われた為、目撃情報も無く事件は未解決となった。


ーー…30年近く経った今でも犯人は捕まっていない。


 2010年に時効は撤廃されたものの、当時の轢き逃げ事件の時効は最長でも7年であり、未解決のまま時効を迎えてしまった。


 未だに、被害者女性が何処の誰なのか分かっていない……。




「29年前、ね…確かに彼女の格好を見てもそれぐらいの服装だったものね」

「そうでしたっけ…?変貌した時の姿が衝撃的過ぎて全然覚えてないです」


 ハハハ、と苦笑いしながら綿貫は頭を掻く。


「生前の姿をしていたのは、確かに一瞬だったものね」


 そんな話をしていると、宮部教授が研究室にやって来た。


「2人でなんの話をしているんだい?」


 宮部教授は、音切町轢き逃げ事件の記事を手に取って見る。


 そんな教授を見た小鳥遊さんは、あ…。と小さな声を上げる。

 どうしたのだろうと、小鳥遊さんを見ると小さく溜息を吐いた。


 何故だろう、なんだか僕も嫌な予感がしてきた……。


 暫くの間、記事を見て唸っていた教授が突然、そうだ!と大きな声を出した。


「今日は初回の講義だし、フィールドワークにしようか!」


 心なしか凄く嬉しそうにしているのは気のせいだと思いたい。


「…宮部教授、これフィールドワークにして良いんですか…?」

「勿論!だって小鳥遊くんが関わっているんだから〝怪異〟が関わっているんだろう!?」


 そう言った宮部教授の目はランランと輝いていた。


「それに、怪異を研究している人間としてはまたとないチャンスだからね!」



 そうだった……。


 宮部教授って、心霊現象専攻の専門教授で、こういう話は大好物というか、得意分野だ。…すっかり忘れていた。



「そうと決まれば、早速準備に取り掛からなければ…!」

「あ、あの…宮部教授 ちょっと……」


 ここから先は、教授は聞こえていないようで、何度声を掛けても無駄だった。


「こうなったら教授は何がなんでも行くわ…」


 小鳥遊さんは、再び溜息を吐いた。今度はさっきよりも大きくて、深く、そして長い溜息だった。

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