3.

 部屋で悪い問題は無かったので、僕達はアパートの外に出る事にした。


「ここも、ねぇ……どうにかしたいんだけど、いやでも、ここだけで使い果たしそうだし、なんなら、足りないかも……」


 アパートを出て早々に、小鳥遊さんはブツブツとまた何かを言っている。

 声を掛けてみようか迷ったが、何となく声を掛けたら怒られそうな気がしたので、声を掛けるのを止めた。


「……よし、やっぱりここからにしよう」


 その言葉を聞いて、僕は思わず〝え…っ〟と言ってしまった。


「小鳥遊さん?ここから、って…?」

「貴方に付いてきた彼女より、ここを少しでも良くした方がいいと思ってね、だから悪いけど今日はここからやらせて欲しいの」


 小鳥遊さんの言っているここから、と言うのはアパートの周りだ。

 正直、小鳥遊さんが言う程あちこちに何かがいる様には、僕には見えないのだが…。


 なんて考えていると、貴方に付いてきた彼女もちゃんとどうにかするから、と小鳥遊さんに言われた。


 恐らく、僕について来た幽霊について何もしないのでは?と僕がそう思っている様に感じたのだろう。

 そんな事は全く考えていなかったのだが、ある意味怪我の功名というやつだろう。


 僕はすぐにではなくとも、どうにかなるのであれば……そういう思いで、首を縦に振った。


「じゃあ、皆の話を聞かないとね」


 そう言って、小鳥遊さんは霊へと近付いて普通に話をし始めた。


「こんにちは、ここでなにをしているの?」


 何も視えない人からすれば、小鳥遊さんがとても不審者に見えそうだ。


 だって、何もいない所に話しかけているのだから


 話し掛けたのは、僕が集中しないと視えそうにない程に薄い…というかとても視えにくい。

 小鳥遊さんの目の前にいた視えにくい幽霊は、子供だった。


 小鳥遊さんに話し掛けられた子供の幽霊は、驚いた様に目をしばたたかせる。


『……、……』

「ごめんなさい もう一度いいかしら?」

『みえる、の?声、聞こえる…の?』

「ええ、ちゃんと視えるし、聞こえるわ」

『ぼく…帰りたいの、のとこ…でも、まいごになっちゃって、帰れないの』


 幽霊の男の子は、そう言って泣き出してしまった。

 そんな少年をあやすかの様に、小鳥遊さんは少年の頭を撫でる。


 その子の姿は、どう見てもの姿ではなかった。


 恐らく、戦時中の子供だろうか?


 髪は丸坊主で、服は長年着ている着物だろうか、あちこちがボロボロで、泥で汚れていた。


 それに、自分の親を〝おっかあ〟〝おっとう〟なんて、今時の子供は呼ばないだろう。


 多分〝ママ〟〝パパ〟や〝お母さん〟〝お父さん〟呼びが主流ではないだろうか。


 彼の様に呼ぶのは昔のドラマの中でのイメージだ。


 そんな事を考えていると少年がこちらを見てきた。


『あのお兄ちゃんもみえるの…?』

「どうして?」

『いつもこっちをみて、なんだかいやそうな顔してたから…』


 少年の言葉に、とても心当たりがあった。


 視えていなくても、なんだか嫌な感じがすると思って、いつも怪訝そうな顔をしていた。


 小鳥遊さんがこちらを見ると、僕は苦笑いをすると、そんな僕を見て、小鳥遊さんは溜息を一つ零していた。

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