2.

「僕にはお札かお守りが全く身に覚えがないんですが…」

「密教がさっき教えてくれたんだけれど、」


 そう言いながら小鳥遊さんは押し入れの扉を開ける。


「この、ダンボールの中に入ってるみたいよ」


 小鳥遊さんは下から二番目に入っていたダンボールを指差した。


 それは、祖父が僕に渡してくれたダンボールだった。

 なんで渡してくれたのか、忘れてしまったのだけど…。


「祖父が持って行けって僕に渡してくれたものなんです」


 中身が何なのかは全然確認出来てないです、と付け加える。


「…お爺様は御守りとか作る職種の方なの?」

「いえ、普通の大工だったって聞いてます」


 ふぅん、と何故かあまり納得していない小鳥遊さん。

 何か気になる事でもあるのだろうか…。


「このダンボール開けてもいいかしら?」


 その言葉に僕は承諾したのを確認してから、小鳥遊さんはダンボールを開ける。

 中には缶詰だったり、何故か滋養強壮のドリンクだったりが入っていて、特に変なモノは入ってなかった。


 まあ、滋養強壮のドリンクが入ってる時点で、色んな意味で変なモノに入るのかもしれないけど…。


「小鳥遊さん、何か気になる物ありましたか?」

「んー、…あ、コレだ」


 それは、じいちゃんがこの中にはこれが入ってるぞ、と書いてくれていた封筒の中に入っていた。


 封筒の奥からコロン、と出てきたのは……


「これは……?」

、ね」


 そう言って、小鳥遊さんはそれを手に取りマジマジと見ている。


「凄い念が入ってるわ 〝ここに入るな、近付くな〟って」

「え、」

「幽霊に対してのお爺様の念、がね」

「どうしてですか…?」

「恐らく、貴方が幽霊が視えるって言ったからでしょうね」


 孫の為にしてあげたいって相当強く想いながらこの木彫の魔除札を造られたのね、だから想いが念として篭ったのね、と小鳥遊さんは言った。


「そう言えば、大学入る少し前に、じいちゃんがもう少し我慢しろって言ってたアレが…」


 木彫の魔除札が出来る、という事だったのだろう。


「でも、素人がそんなこと出来るんですか?」

「普通は出来ないわ でも、丑の刻参りなんかの藁人形、あれは相当な怨みを篭めて相手を呪うでしょう?篭める想いが違うだけであの類と同じね」


 ただ、と小鳥遊さんは言葉を続ける。


「こんなに強い念だと、本人にも少なからず影響はありそうなものなのだけれど…貴方のお爺様が体調崩された、なんて話は無いのかしら?」

「いえ、じいちゃんは元気だけが取柄って位頑丈で…特に倒れたとか病気したとかは一切聞いてないです」


 綿貫の言葉を聞いて、少し考える冴子。


 影響を受けない?いやでも…、特殊体質?、等とブツブツ言いながら何か考えている様だった。


「取り敢えず、この木彫の魔除札は絶対に捨てない事」

「はい」

「それから、もしその御札が可笑しい気がしたら、私の所に持って来て」


 物理的ではないけど直してあげれるから、と冴子は付け足した。


「その御札は、見える所の高い所に置いておいて、神棚みたいのがあればーーー…」


 そう言いかけて、冴子は、じっと上を見ていた。


「小鳥遊さん?そこに何が……あ、神棚」


 くるりと方向転換して小鳥遊さんが見ている場所を見ると、僕が設置した覚えのない神棚があった。


「前の人が作ったんでしょうか…?」

「貴方が作ったわけじゃないのね、少し待ってて」


 そう言って小鳥遊さんは何か取り出して、何かをスッと撒いて、呪文の様な言葉を小さな声で言っている。


「……これで、大丈夫よ この上に御札を置いて」

「分かりました」


 そうして僕が御札を置くと、小鳥遊さんは満足そうに頷いた。


「この上には何も置かないで、神殿とかお神酒とか色々」

「ダメなんですか?」

「ここだと位置が悪いからね 置くのであれば……そうね、こっち側でこの上かしら」


 小鳥遊さんが指差したのは、南向きで他より明るい場所だった。


 まぁ、特に更に神棚を設置して、何かを置く予定とかも無いのだが……。


「さて、と…じゃあ、この場所はそれで良いとして、貴方に付いてきた浮遊霊をどうにかしないとね」

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