4.

 綿貫は、どうやって冴子を説得しようか悩んでいた。


 どう説得しても、絶対に彼女は付いて来てくれないだろうという現状にしか辿り着かない。


 綿貫はその事に悩み過ぎて、講義中にも関わらず盛大に溜息を吐く。

 無論、その溜息は静まり返っていた教室に響き渡ってしまった。


「わたっち 溜息が盛大に漏れてる、溜息が!」

「え…、なに…?」


 キョトン、としたまま綿貫は教授とバッチリ目が合う。


『……えー、では話を聴くだけの講義では皆さん飽きてしまうでしょうから此処で問題を出させて頂きます』


 遠くの席に座っている生徒にも分かる様に、ピンマイクで声を大きくしている教授の一言に、教室内はどよめく。


 周りの騒めきとどよめきで、綿貫は状況を把握した。


「…あ、やべ……」


 その口の動きは、教授もはっきりと読み取れたのだろう。

 解答者として講義中にガッツリと問題を出されてしまった。


「どーしたんだよ わたっち、今日はなんか全然ないぞ」

「あー、少し悩みがあってね それでずっと悩んでたんだ」


 彼は中学からの同級生、武藤むとう一輝かずき

 見た目こそ、金髪に無数のピアスという 見た目が遊び人の様な感じだ。


 しかし、その見た目とは裏腹に中身は意外と誠実である。


 そもそも僕とは正反対そうに見える彼と、どうして友人になったのか。

 そこは、後々話す機会があれば話すとしよう。


「もしかして、わたっちに遂に春が!!?え、どんな子どんな子!?」

「いや そんなんじゃなくて、あの、えーっと……」


 盛大に勘違いしている友人を横目に、小鳥遊さんが歩いているのが見えた。

 小鳥遊さんの後ろには、これまた小鳥遊さんとは正反対そうに見える女性が何やら慌てた様子で歩いている。


 あ…小鳥遊さん、とボソリと言葉にしていたらしく、一輝が素早く反応して、何故かニヤニヤしていた。


……嫌な予感がする。


 一輝が小鳥遊さん達と同じ方向へと歩き出したのを見て、僕も慌ててその後を着いて行く。


 少しずつ人気が無くなって来たのと、距離が近くなって来て彼女達の話し声が聞こえる様になって来た。


「冴子 お願い~!本当これで最後だから!!」

「その台詞、もう24回目」

「ゔ…っ、でも!本当に本当の最後なの!」


 お願いだから助けて!!と何やら必死に頼み込んでいるが、

小鳥遊さんは、深く、深く溜息を吐いてから口を開いた。


「……私、ちゃんと忠告したわよね?絶対にには行くなって それなのに、したからって、私に頼むのは違うんじゃない?」

「今回は大丈夫だと思ったんだよぉ…でも、音凄いし、家の物荒らされるし、自分で出来る除霊対策もしたんだけど全然効果無いし…もうどうしていいのか分かんないんだよぉ……」


 半泣き状態で彼女は小鳥遊さんに助けを求めている。

 内容的には、その手の類の様だった。


「貴方のとか、とか、思えるその自信は一体どこから来るのか不思議だわ それに、次に同じ事したら何もしないって言った事も忘れる位のかしら?」

「そんな…、楽しい訳ないじゃない!!」


 声を荒らげたのは、小鳥遊さんに助けを求めた女性だった。

 大きな声に、思わず僕は肩をビクリと振るわせる。


「だったら、どうして断らないの?断っておけば、そんな事にはならなかったはずでしょう?…どうして貴方が断らなかったのか、当ててあげましょうか?」


 そう言いながら、小鳥遊さんは彼女を見ていた。


「どうせまた冴子が助けてくれるから大丈夫。危なくても今まで助けてくれたから、今回もまた助けてくれるに決まってる だから、私は大丈夫」


 心の何処かで、僕が思っていた言葉と似ていてドキリ、とした。


「祓える人間が近くにいるから、そう思ってるから貴方は断らなかったのよ。どうせ断るのは口だけで、また助けてくれるから、だって一応幼馴染だから今回もーーー、」


 そう言った所で小鳥遊さんの言葉は途絶えた。

 途絶えた、というより中断させられたと言った方がいいだろう。


 助けないで正論を言う小鳥遊さんが頭にきたのか、助けを求めた女性は、小鳥遊さんを思いっきり引っ叩いたのだ。


 叩かれた小鳥遊さんの右頬は、あっという間に赤みを帯びていく。


「……もういい、アンタになんか二度と頼まない!!」

「そう、それは良かったわ 学習能力もない人の為に、自分の体力使いたくないもの」

「嗚呼 余計なお世話かも知れないけど、も辞めた方がいいわよ いつか背負いきれなくなる」


 小鳥遊さんの言う、ソレが何なのかは分からなかったが、きっと悪い事なのだろう。

 何故だか分からないが、そう思ったのだ。


「五月蝿い!黙れ!!忌み子のくせに!!!」

、ねぇ……」


 彼女の言葉に、小鳥遊さんは何故だか笑っていた。

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