3.

 綿貫達は、教授室から出て中庭を歩いていた。


「さっきは、ありがとうございました」

「気にしなくていいわ 」


 そう言いながら、チラリと綿貫を見やると冴子はすぐに視線を戻した。


「……ところで、どうして着いてくるのかしら?」

「へ?あ、すみません つい…」


 なんとなく、本当になんとなく、綿貫は冴子に着いて来ていた。

 周りから見れば、完全に金魚のフン状態だ。


「そう言えば のどうやったんですか?」


 さっきの、とは恐らく冴子が浮遊霊を除霊、若しくは消した事を意味しているのだろう。


「……知った所で貴方には出来ないわよ」

「いえ、やりたいとかではなく、ただの興味本位です アレって除霊…ってやつですか?」


 霊をこの世から消すヤツですよね?と綿貫は言った。


 その言葉に冴子は少し険しい顔をし、口を薄ら開くが言葉は出さない。

 どうやらこの話をしていいのか、口籠もりながら考えている様だ。


「……、……」

「えっ?」


 ボソッ、彼女が誰かと話をした様な気がして耳を澄ませたが、その言葉や内容は全く聞き取れなかった。


「アレは完全に消した訳ではないわ」

「でも、ちゃんとあの霊は消えて…」

「私がしたのは〝除霊〟であって、貴方の言っているのは〝浄霊〟読み方は同じでも全然違うものよ」


 簡単に〝除霊〟と〝浄霊〟の違いについての説明をすると、〝除霊〟は憑いてる人間から無理矢理引き剥がして元の場所に戻す方法であり、〝浄霊〟は霊と対話して感情や傷を癒したり天に還す方法だ。


 だが、双方にもデメリットはある


 〝除霊〟は問答無用で幽霊と人間を引き剥がすだけなので、同じ道や場所に行けば、また同じ人物にとり憑く可能性がある。


 一方〝浄霊〟は体力の消費も激しい事に加え、強い霊能力も必要とする。

 そして、浄霊をする側やされる側にも命に関わる危険が伴う可能性があるのが最大のデメリットだ。


「つまり…さっきの女性が、また憑く可能性があるって事ですか?」

「そうね 彼女自身をどうにかしないと憑く可能性のが高いわね」


 冴子の言葉に本日何度目か分からない位、綿貫は絶句していた。


「だから、出来るだけ早めにどうにかした方がいいわよ」

「どうにかしてくれないんですか!?」


 シレッと言う冴子に思わず声を荒らげてしまった。


「…あの場では、私に危害を加えようとしたから追い払っただけで、別に貴方の為にやった訳ではないわ」


 冴子の言葉に金槌で殴られたかの様な衝撃を受ける綿貫。


「で、でも…また憑いて襲ったりするんじゃ…」

「それこそお祓いに行ったらいいんじゃない?」


 なんて無責任なんだ、という言葉は飲み込む。

 こんな事言ったら、本当に見捨てられそうな感じがした。


「…そう思うのであれば、少しは自分で考えてみたら?」


 綿貫の考えなんてお見通しとでも言いたげな感じで、呆れた様に冴子は言った。

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