2.
彼が次に目を覚ますのに、数分しか掛からなかった。
「……っ!?」
ガバッと勢いよく起き上がる彼。
「あら もう目が覚めたの?早いわね」
「……それって、嫌味ですか……?」
「そう聞こえたならごめんなさい 特に深い意味はないの」
そう言って、冴子は飲んでいたコーヒーをテーブルに置く。
「教授、彼起きましたよ」
冴子は声をかけるが、教授は全然反応しない。
何やらブツブツと言いながら、事件のファイルと睨めっこをしている。
「あ、あのぉ……宮部教授……?」
彼が声をかけても、やはり反応がなかった。
集中している教授を現実に引き戻すには、ひとつ。
「教授、ポルターガイストが――…」
「どこ!?」
冴子が棒読みしているのにも関わらず、俊敏に言葉を被せ気味に反応する教授。
先程まで反応しなかったのが嘘かのようだ。
「嘘です 教授が声を掛けても反応が無かったので仕方なく」
そう言うと教授はしょんぼりとしていたが、ようやく話を聞く体勢になった。
「ところで君は、なんて名前なんだい?」
教授の言葉に、彼は思い出したかの様に口を開いた。
「すみません自己紹介もしないで…僕は
宜しくお願いします、と彼は礼儀正しく頭を下げる。
「宜しくね、ところで綿貫くんは、どうしてここに?」
「え、あ!そうだ……!あの…っ!」
本来の目的を思い出した綿貫は堰を切った様に話を始めた。
「実は僕が専攻したのは心霊現象専攻学部学科ではなく考古学専攻学科なんですが…」
大学側の手違いで、と言葉を続け項垂れる綿貫。
「考古学専門学科の定員が既に上限を超えてるらしく…そのままでお願いします、と」
「あー……それはなんと言うか……」
綿貫の心情を察してか、教授は言葉を濁していた。
「……手違い、ね」
冴子がポツリと呟く。
「手違いで入学させられたのに、どうして抗議しないの?」
そう言われて、綿貫はキョトンとしていた。
「本来であれば貴方は大学に抗議する事が出来るのにあえてしないのには何か理由があるのかしら?」
「この際だから学んでみようかな……って」
苦笑いしながら、綿貫は言葉を続ける。
「僕、子供の頃から普通の人には視えないものが視えてたんです」
その言葉を聞いて、目を輝かせたのは教授だった。
「両親にも友人にも言ってみても信じて貰えなくて気味悪がられてしまっていたので、言わない様にしてたんですが…ある日祖父に言われたんです」
『これからもずっと怖い事から逃げて生きるのか?
「そう言われて、怖い気持ちが嘘みたいに無くなって…でも、それからも僕はずっと全部視えないフリをしてた…けど」
意を決したかのように綿貫は、ぐっと拳に力を入れた。
「今日の事があってから、やっぱり識らないのはダメだと思ったんです だから、学びたいんです!」
「知識 了悟に至りてー…か」
「へ…?」
冴子の言葉に、綿貫は再びキョトンとしていた。
彼女が言った言葉は、サミュエル=スマイルズの著書『自助論』の一部の翻訳された部分だ。
「心理を明らかに悟る事は悪い事では無いわ 心霊現象専攻学部学科…略して心霊部」
そう言いながら冴子は、綿貫に手を差し出した。
「ようこそ、心霊部へ」
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