1-6シェルさんてやっぱり
私たちはお父さんやお母さんが教えてくれていない話をシャルさんやシェルさん、そしてエルハイミさんからいろいろ聞いた。
もうね、自分がこの世界でエルフであると言う事だけでも驚きだと言うのに、更にその長寿の秘密や「時の指輪」なんてもの凄くレアなアイテムまでお話聞けて驚きの連続。
そしてエルハイミさんから習った基本の魔法。
生活にもの凄く役立つ【水生成魔法】とか、エルフは夜目が効くからあまり必要ないけど明るく照らす光の魔法とか、覚えていて決して損のないものばかりだった。
「それで、エルフ族が開発したこの魔法のポーチなんかはとてもすごいのよ!」
シャルさんは腰についているポーチを叩く。
見た目は腰のベルトにちょこんとついたポーチ。
せいぜいリンゴが二つ入ればいっぱいになりそうなそれを外し、手を突っ込むと肘くらいまでその中に入る。
そしてシャルさんはごそごそと手探りで中身を引っ張り出すけど、弓矢とか寝袋とかが出て来て驚いたものだ。
「以前私が外の世界で使っていた道具だけど、久しぶりだなぁ~。状態はあの時のままね。これに入れておくと果物とかはずっと新鮮なままなのよ」
「シャル、あんたまだこの弓矢使っていたの? ミスリルのあげたじゃない?」
「あ、あれはその、だってこの弓矢にはあの人と一緒に過ごした時の思い出が……」
「シャルさん、それって昨日の話のあの人ですか!? 今どうなってるんですか!!!?」
シャルさんがポーチから色々出すのを見せてくれているとシェルさんがあきれながら聞く。
するとシャルさんは思い出の品だからと少し嬉しそうに頬を染めるけど、きっと昨日のシャルさんが好きな人の話だ!!
私は目をらんらんとさせ、シャルさんに聞いてみる。
「え、えーと確か今は二十代後半の姿のはずだけど、最初の彼よりなんか線が細くってちょっと寂しい感じがするのよね//////」
「最初?」
外の世界にいるって言うからてっきりエルフ族かと思ったらなんか違う。
「アインなら村の連中に今は稽古をつけている頃ね? あの子たちもだいぶ大きく成ったから実戦紛いの稽古をつけておくって言ってたわよ?」
「え? 姉さんまたアインに会ったの!? わ、私の事なんか話してなかった? このあいだ風のメッセンジャーで見た時はいつも通りの話ばかりだったけど……」
シャルさんは乗り出しシェルさんに聞く。
どう言う事か私も首をかしげているとそれに気づいたシャルさんは苦笑いをしながら私に話してくれる。
「アインて言うのはね、私の大切な人なんだけど人間族でもう何度も転生を重ねている人なの。今はジルの村で先生をやっていて、その村の子供たちを導いているの」
「人間族で何度も転生って、そんな事出来るんですか!?」
「あ~、あの村に転生するのは特別な人ばかりなのよね。でもよく理解できるわね、リルって本当に頭いいわね?」
シャルさんの説明に驚いているとシェルさんがそう言いながら私をじっと見ている。
そして深い緑色の瞳の色をうっすらと光る金色に変えると首をかしげる。
「うーん、魂の色は普通だけど、なんか普通のエルフの魂とちょっと違うような……」
「あらあらあら~もしかしてリルちゃんは転生者なのですかしら? どれどれですわ」
言いながらエルハイミさんも碧眼を金色にうっすらと輝かせて私を見る。
どきっ!?
なんか私の中、凄く深い所まで見られているようで恥ずかしい。
私の事もしかして転生者とかって気付いた?
「うーん、確かに普通のエルフの魂と違いますわね? それに器としてはなんか大きいですわね?」
「どちらにせよ覚醒していないのならたまたまここへ生まれただけだから問題は無いのだけどね。エルハイミに関係するって感じでもなさそうだし。でもねリル、もし何か色々と思い出して困っているなら私たちに相談しなさい。きっと力になれるわ」
「は、はぁ。なんか良く分かりませんがわかりました……」
やばいやばい!
もしかして転生者とかってばれたらやっぱりシェルさんとかエルハイミさんにここから連れ去られちゃうのかな?
右も左も分からないのになんかやばそうなこの人たちにどこかへ連れて行かれちゃうのって嫌だし、変化がないこのエルフの村の生活も嫌いって程じゃない。
とにかく今はごまかそう。
「そ、それでそのアインて人がシャルさんの思い人なんですか?」
私がそう聞くとたまたま向こうからこちらに来たおじさんの耳にそれが入ったようで、急に叫び出す。
「シャルぅぅぅぅっ!? お、お前も誰か好きなやつがいるのかぁ? 何処のどいつだ? 私の可愛いシャルに手を出そうとするやつはぁ!?」
「あらぁ、これはシェルより先にシャルの方が子供できちゃうかもしれないわね? それで、お相手はどんな人なの?」
おばさんまで話に混じって来た。
でもおじさんが必死にシャルさんにくっつく虫は自分が排除してやるぅとか言っているとおばさんにまた殴られて沈黙させられる。
ばきっ!
「お、おじさん! 大丈夫なんですかシャルさん!?」
「まあ何時もの事よ。お父さんってほんと子離れできないんだから」
「そうね、私にもエルハイミなんか見切りつけて帰って来いってうるさいけど、私がエルハイミから離れる訳無いじゃない!」
ばっ!
「うわっきゃぁ! シェルっ! ですからみんなの前で抱き着かないでって言っているでしょうにですわ!」
驚いた事にシェルさんはエルハイミさんに抱き着きその頬にキスしまくっている。
「ええぇっ!? お、女どうしなのになんなんです!?」
「あ~シェルさんもうちのお母さんみたいにキス魔なの?」
「あー、姉さんリルとルラの前なんだから少しは自重してよ。この子たちにはまだ早いんだから」
呆れてそう言うシャルさんだけど、そう言えばシェルさんってエルハイミさんと子作りとかなんとか……
「お、女どうしで子供なんて出来ちゃうんですか!?」
思わず恥ずかしいことを口走ってしまった。
「落ち着きなさいリル、あなたにはその話はまだ早いわ。全く姉さんったら…… って、風のメッセンジャーにメールが届いている?」
シェルさんとエルハイミさんがじゃれているのを尻目にシャルさんは居間の奥にある貝殻みたいな物がうっすらと光っているのに気付く。
そしてうきうきとそこへ行ってそれを開き中のオーブに手をかざして呪文を唱えると、オーブの上に小さな男性の上半身が映しだされる。
『彼女が覚醒した。そちらに行っているだろうからこの事を伝えて欲しい』
それだけ言ってその男性は消えてしまった。
「もう、アインの馬鹿! 本当に最低限の事しか伝えないんだから。少しは近況報告とか私の事気にしてよ!!」
「え、えっと、シャルさんもしかして今のが……」
「え? ま、まあそうね//////」
シャルさんは赤くなってはにかむ。
覗き見るつもりはなかったけど、映し出された男性はそこそこのイケメンですらりとした感じのする人だった。
あれがシャルさんの思い人かぁ。
私がそんなこと思っていると、赤い顔のままシャルさんはシェルさんにさっきの事を伝える。
「姉さん、残念なお話よ。彼女が覚醒したってアインから連絡があったわ」
「覚醒ですって!? それは本当ですの!?」
「ちっ! なんでこのタイミングで!! ちょっとエルハイミ、落ち着きなさいよ」
なんかエルハイミさんが興奮している。
一体どう言う事なの?
「今すぐに転移いたしますわ! シェル、行きますわよ!!」
「ちょ、ちょと待ちなさいって。まだメル長老たちにも挨拶もしていないって言うのに」
「でも、やっと覚醒したのですわよ? 転生してもう二十年近くも経つのですわよ!?」
エルハイミさんの興奮は収まらない。
なににそんなに興奮しているのだろう?
「あ~姉さん、もしジルの村に行くならちょっと待ってよ。アインに渡したいものが有るから」
言いながらシャルさんはあの魔法のポーチを私に渡して来る。
「ごめんねリル、これちょっと持っていてね」
「はい、いいですけど?」
「お姉ちゃん、このポーチって面白いよね? シャルさんこの中って他に何が入ってるんです?」
「あーごめんルラ、ちょっと待っててね……」
ポーチを持っていてくれと言われて私はそれを持たされる。
ルラも興味を持ってそのポーチをすぐ隣で見ているけど、エルハイミさんとシェルさんがなんか大騒ぎ始める。
「行かせてくださいですわ、シェル!!」
「だから落ち着きなさいって言うのよ、行くにしてもシャルの預かりものもらうまで待ちなさいって!」
「もう我慢できませんわ、お義母様、しばし失礼しますわ!!」
「こ、こらぁ! エルハイミぃっ!!」
言いながらエルハイミさんは手を振ると目の前に真っ暗な異空間が開く。
そしてシェルさんの手を取ってその中に飛び込もうとする。
「あ、姉さん待ってよ、まだ渡す物が!」
シャルさんはそれに気づきシェルさんの手を引っ張る。
すると半分暗闇に入ったシェルさんがこちらに引き戻される。
「リル、ルラ手伝って! 姉さんを引っ張って!!」
「は、はい!」
「うんっ!」
シャルさんにそう言われ私たちはシェルさんを引っ張ってこちらに戻すとエルハイミさんも一緒に半分ほどこちらに引っ張り出される。
「こら、エルハイミ落ち着け!!」
「行くのですのぉー!」
と、エルハイミさんはものすごい力で一気にその異空間にまた飛び込むと、シェルさんを掴んでいた私とルラもその異空間に一気に引っ張られる。
「ちょっとエルハイミ! リルとルラもくっついて来てる!!」
「行くのですのぉー!!」
「うわっ!」
「うひゃぁ!」
短い叫び声を発して私とルラもその異空間へと入ってしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます