1-5気になるあの人は


 結局昨日の夜はほとんど眠れなかった。


 

 だって女どうしで子作りだなんてあり得ない!



 悶々と一体どう言う事か想像していたら朝が来てしまった。


「ふわぁ~、お姉ちゃんお早う……」


 一緒のベッドで寝ているルラは起き上がりぼさぼさの頭のまま目を擦っている。


「お早う…… ふう、結局朝になっちゃった……」


「へ? なにしてたのお姉ちゃん?」


「うっ、そ、それはルラにはまだ早いわ。まだまだ先の話よ!!」


 思わず赤くなりながらルラにそう言うけどルラは首を傾げ頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

 

 デリケートな話だから今ははぐらかすけど、やっぱり気になる。

 私たちは起き上がり髪の毛を梳かしてルラは三つ編みに、私はツインテールに縛って着替える。



「相変わらずお姉ちゃんの胸ペタンコだね?」


「う、うるさい! これから大きく成るの!!」



 元女子高生としてこの問題は切実な問題だった。


 どうもエルフ族は胸が小さいのが当たり前。

 でもその中で元小学生で男の子だったルラに胸の大きさで負けると言うのがもの凄く納得いかない。


 しかも今は双子の姉妹。

 遺伝的には同じはずなのに今はルラに胸の大きさで負けている。



「あの駄女神、なんで男の子に負ける身体なのよ!?」



「あー、そう言えばエルハイミさんってあの女神様に似てたねぇ~」


 ルラを見るとそれでも私より膨らんでいてうらやましい。

 同じ双子の姉妹なのに……


 思わず自分の胸をペタペタと触る。

 生前は同じ年齢の頃にはもう少し大きかったと言うのに……



「くそぉ~」



 私はため息を吐いてリビングに向かうのだった。



 * * *



「今日はシャルさんの所に遊びに行ってくるね」

 

「あたしも~」


 リビングで朝食の果物を食べながらお母さんにそう言うと珍しく眉間にしわを寄せている。



「そう言えば昨日シェルが戻って来たって聞いたけど、大丈夫かしら?」


「ん? シェルが帰ってきているのかい?」



 お父さんもシェルさんが戻ってきていると聞いてお茶を飲むのを止める。

 一体どう言う事?



「ねえ、お母さんお父さん。シェルさんって何なの?」



 私がそう聞くと二人とも苦笑いして顔を見合わせる。

 そして頷いてから私たちに話始める。


「えーと、シェルはねぇ~、その、何と言うか……」


「まあ、本人が悪い訳じゃないのは分かるんだがな。シェルが村を出てちょうど千年くらいか。あの子は外の世界で『狂気の巨人』や『異界の神』、そして『魔王』と戦った英雄ではあるのだがな……」



「何それ!? お父さんその話もっと教えて!」



 ルラは流石に元男の子。

 こう言った話が大好きだ。

 特に英雄譚なんてお父さんに何度もお話してもらっている。


「うーん、話すと長くなるんだけどね、シェルはそれらとの戦いで生き残りこのエルフの村も救った事が有るんだけどね。何故か彼女が戻ってくるたびにエルフの村で騒ぎが起こるって言うのが多くてね。だから村ではシェルが戻って来るとみんな警戒するんだよ」


 そう言いながらお父さんは乾いた笑いをする。


 シェルさん、あなたって……


 思わずシャルさんの家の方を見てしまう。

 そしてもうひとつ思い出す。



「そうだ、お父さん昨日シェルさんともう一人一緒に人間の女の子がいた! あの子って誰?」



 あの駄女神そっくりなエルハイミさんとか言う少女の事がもの凄く気になっている。

 だってシェルさんと子作りとか……

 私がお父さんにそう問いかけるとお父さんは更に苦笑いをする。


「ああ、エルハイミさんも来ているのか…… なんか余計に心配になって来たな……」


「心配?」


「エルハイミさんもこのエルフの村を救ってくれた恩人ではあるのだけどね、その何と言うかもの凄い魔法を使うんだよ。それに彼女は……」


 あの子魔法使いだったの?

 私がお父さんに更にその辺の話をよく聞こうとするとルラが声をあげる。



「魔法使いだって! お姉ちゃん、あたし魔法見てみたい!! すぐにシャルさんの家に行こうよ!!」



 そう言ってお父さんとの話の途中に私の手を取って引っ張り出す。

 

「ちょ、ルラ! まだお父さんとの話が……」


「いいからいいから、じゃ、お父さんお母さん、シャルさんの家に行ってくるね~」


 強引に私の手を引っ張るルラ。

 お父さんもお母さんもだめとは言えず苦笑いをして手を振っている。


 仕方なしに私はルラと一緒にシャルさんの家に向かうのだった。



 * * * * *



「あら、リルにルラじゃない。どうしたのこんな朝から?」


「おはようございます、おばさん」


「おはようございます~」



 シャルさんの家に行くとおばさんが私たちを出迎えてくれた。

 私とルラは挨拶をしてからシャルさんの家に泊まっていると思われるシェルさんとエルハイミさんに会いたいと話をする。

 

 おばさんはにっこりと笑って家の中に入れてくれるけど、丁度朝食が終わった後のようだった。



「あら、リルとルラじゃない? どうしたのこんな朝から?」


「おはようございます。シャルさん、あの、実はお父さんから話を聞いてお姉さんのシェルさんとエルハイミさんにお話聞きたくてやってきました」


「おはようございます! ねぇねぇ、エルハイミさんって魔法使えるんでしょ? 見たい! 魔法見てみたい!!」


 私がここへ来た理由を話しているとルラは我慢できずにいきなりエルハイミさんにそう言う。


「あらあらあら~おはようございますですわ。えーと確かルラちゃんでしたわね? 魔法が見たいのですの?」


「うん、魔法って見た事が無いから見たい!」


 ルラは容赦なくそう言い放つ。

 なんかわがまま言ってる子供みたいでちょっと恥ずかしい。


 それでもエルハイミさんは笑って「いいですわよ~」とか言いながら目の前に手を出してその指先に水の玉を作り出す。



「うわぁ! 水の玉だ!!」



「これは魔法の基礎ですわ。【水生成魔法】は呪文を唱えて意識を集中すると誰でも出来ますわよ?」


「本当? あたしにも教えてよ!!」


「こらルラ! すいません、うちの妹がわがまま言って……」


「そう言えばリルもルラもまだ精霊魔法は使えないの?」


 エルハイミさんの隣に座っていたシャルさんのお姉さん、シェルさんが私たちに聞いてくる。

 私はちょっと驚きながらシェルさんにも挨拶しながら答える。


「えっと、シェルさん、おはようございます。実は私たちまだ精霊が見えないんです。お父さんもお母さんも私たちにはまだ早いって精霊魔法教えてくれないんですよ」


 私がそう答えるとシェルさんは笑って手のひらに光の精霊を召喚する。

 それは小さな光の玉。

 でもシェルさんの手のひらで泳ぐようにくるくると回っている。


「エルフ族は精霊との相性がいいからね。エルハイミに基礎の魔法を習っておけばそのうち精霊も見えるようになるわ。でもね、エルハイミの魔法と違って精霊は友達だから命令じゃなくてお願いをするのよ? それが精霊魔法をうまく使えるコツなんだからね」


 シェルさんはそう言って光の精霊にありがとうと言うとその光はふっと消えた。


 お母さんが火打石で火が付きにくい時に炎の精霊を呼び出しているってのは見た事あるけど、精霊の姿は見えなくていきなり薪に火が付いたのは覚えていた。


 でも今シェルさんが見せてくれた光の精霊は小さなフェアリーみたいなのが光の中心に見えた。



 あれが精霊……



「そう言えばエルフは精霊との相性が良かったのですわね? だとするとシェルから精霊魔法を教わった方が良いのかしらですわ?」


「え~、あたし普通の魔法も覚えたいよ。ね、エルハイミさん簡単なのでいいから教えてよ!」


 それでもルラはエルハイミさんにそう言う。

 エルハイミさんは笑いながら「では、日常によく使う簡単なものを教えますわ~」とか言いながら私とルラに光の魔法や水生成魔法なんかを教えてくれた。


 そして驚くのが本当に簡単なものは言われた呪文通りに唱えて意識を集中すると出来てしまうと言う事だ。



「出来た! 水の玉だ!! あっ!?」



 ぱしゃん!



 出来上がった水の玉はちょっとでも気を許すとすぐに落ちてしまって床を濡らしてしまった。


「ああっ! ごめんなさい!! ルラ!」


「ごめんなさぃ~!!」


「かまわないわよ、水の精霊よこの水溜まりをこちらのバケツに移して」


 それでもシャルさんが精霊魔法を使って床の濡れた水を全部バケツに移動させたのを見た時は驚いた。

 シャルさんが精霊魔法を使っているのは初めて見たからだ。



「でもよくリルもルラも魔法を使えたわね? シェルもシャルも精霊魔法使えるようになったのは百歳を過ぎた頃からだって言うのにねぇ?」


「レミンは昔から精霊魔法の使い手だからな。その娘たちだから魔法の素質は有るのだろう?」


 おばさんもおじさんも驚きながら私たちが魔法を使っているのを見ている。

 どうやら私たちの年齢で魔法を使えるのは珍しいらしい。



「でも精霊魔法はまだできないようね? まあエルハイミに基礎の魔法を教わったのなら魔力の流れも理解できたでしょう? 精霊魔法は魔力を代価に精霊に協力してもらうモノだからリルもルラもそのうち出来るようになるわよ」


「姉さん、あまりこの子たちにそう言う難しい事教えないでよ。この子たちまだ十五歳なんだから」


「あら、そんなに若いのですの? 若い割には随分としっかりとしているので驚きですわ~」


 シェルさんが私たちにそう話しているとシャルさんが私たちをまだまだ子供だと言う。

 そしてエルハイミさんも私たちの年齢を聞いて驚く。



「あの、エルハイミさんって人間族ですよね? その、もしかして私たちと同じくらいの歳なんですか?」


「あらあらあら~お恥ずかしいですわ、私シェルの『時の指輪』を受け取ってからもう千年にはなりますわね~」



「千年!?」



 エルフ族で千年生きている人はこの村ではごろごろいるけど、人間で千歳って!?


「姉さんはエルハイミさんに『時の指輪』を産んで渡しちゃうんだもの…… まあ、おかげでエルハイミさんとずっと一緒に居られるけどね~」


「な、何なんですかそれ? 『時の指輪』って何ですか?」


 聞いた事の無い話ばかり。

 私は思わずシャルさんに聞く。


「うーん、リルたちにはまだ早いんだけど、私たちエルフは『命の木』て言う別世界に自分たちの木を持っているの。その木が枯れない限り私たちは死ぬ事は無いわ。そしてエルフ族以外を愛してしまった者は『命の木』を使って『時の指輪』を生み出せるわ。これはそれを渡したものに自分の命を共有することで同じ時を生きる事が出来るものなの。そして忠誠と愛情の証でもあるのよ」


 シャルさんはそう言って首から指輪の付いたネックレスを引っ張り出す。


「これが『時の指輪』よ。エルフ族の女にしか生みだせないモノなのだけどね……」


「『時の指輪』……」


 初めて聞くそれは驚きの連続だった。

 私たちエルフにそんな能力があっただなんて。


 それに言われて何となく実感できた。

 いつも頭の中に鮮明に感じる小さな苗木。

 まだやっと人の背丈に近いくらいになったその苗木は何故かものすごく親近感があった。


 多分それが「命の木」なんだ。


 私たちエルフはその木が枯れない限り死なない。

 そう言う事だったんだ。

 だからみんな私やルラの事を「若木」とか言ってたんだ。



「まだリルやルラには早い話だけど、そのうちあなたたちのお母さんが教えてくれわよ。女の子はみんなその時が来るからね……」


 そう言うシャルさんの顔はやっぱり年上のお姉さんだった。




 私はしばしシャルさんの掲げる時の指輪を眺めるのだった。

 

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