崔宏2  国号提議

拓跋珪たくばつけい慕容宝ぼようほうを討つため中山ちゅうざんに攻めかかった際、常山じょうざんに駐屯した。


それを聞いた崔宏さいこうは任地を放棄し、渤海ぼっかい沿岸にまで逃亡。しかし拓跋珪は崔宏の高名を知っていたため騎兵を派遣し、捕らえさせた。拓跋珪の元に引っ立てられる崔宏。拓跋珪は崔宏と会話するなりたちまち気に入り、いきなり黃門侍郎に任じ、張袞ちょうこんとともに国家制度の創立に従事させた。


この頃東晋とうしん安帝あんていよりの使者が拓跋珪の元にやってきていた。拓跋珪は返礼の使者を派遣するに当たり、自身の国の国号を正式に制定すべく命じた。ここで崔宏が言う。


「三皇五帝はそれぞれの王が立った地を国号となさっておいででした。それは例えば出身地であったり、先の王に封じられた地であったりしたのです。しゅんも、も、しょう湯王とうおうも、しゅう文王ぶんおうも、はじめは皆諸侯でございましたが、王たちの聖德が極限にまで高まり、万国を統べるに値するお方となったため、自らの起源の地を号となさり、改めて新たな国号はお立てにならなかったのです。

 ただし、商の人はしばしば都を移したため、改めていんと言う国号を設定致しました。とは言え旧国号も並行して用いられ、廃れることもございませんでした。例えば詩経しきょう大明だいめいには「殷商之旅いんしょうのりょ」なる言葉が見え、同じく詩経玄鳥げんちょうにも「天命玄鳥てんめいげんちょう降而生商こうじしょうしょう宅殷土茫茫たくいんどぼうぼう」と、どちらの国号をも用いて歌われております。これはまさしくふたつの国号が共に通用していた証と申せましょう。

 さて、昔かん高帝こうてい劉邦りゅうほう様は項羽こううより漢中王かんちゅうおうに封じられましたが、間もなく関中かんちゅうを手中に収め、最終的にはかの項羽をも攻め滅ぼされました。そして、改めて国号を漢と名乗っておられます。

 我らが国は元々北方の広漠なる地を統べておられましたが、陛下の代に至り、天運に導かれ龍飛致しました。詩経文王にはこのような詩句がございます、「雖曰すいえつ舊邦きゅうほう受命じゅめい惟新いしん」。古来より続いておる国でも、天命を新たに得ることとなった、というのは、まさしく我らが国にも申せることでございましょう。これらの理由からだいに改めたのではございませんでしたでしょうか。

 また陛下は、慕容永ぼようえいより魏の地の献上を受けておいでです。『魏』なる名はこの中華においても上國に位置づけられております。こうした符合は、まさしく陛下勇躍の徴にございましょう。

 故に臣は、魏に定めるべきと愚考致します」


拓跋珪は崔宏の進言に従った。以降四方の国々から、大魏と呼称されるようになった。





太祖征慕容寶,次於常山,玄伯棄郡,東走海濱。太祖素聞其名,遣騎追求,執送於軍門,引見與語,悅之,以為黃門侍郎,與張袞對總機要,草創制度。時司馬德宗遣使來朝,太祖將報之,詔有司博議國號。玄伯議曰:「三皇五帝之立號也,或因所生之土,或即封國之名。故虞夏商周始皆諸侯,及聖德既隆,萬國宗戴,稱號隨本,不復更立。唯商人屢徙,改號曰殷,然猶兼行,不廢始基之稱。故詩云『殷商之旅』,又云『天命玄鳥,降而生商,宅殷土茫茫』。此其義也。昔漢高祖以漢王定三秦,滅強楚,故遂以漢為號。國家雖統北方廣漠之土,逮于陛下,應運龍飛,雖曰舊邦,受命惟新,是以登國之初,改代曰魏。又慕容永亦奉進魏土。夫『魏』者大名,神州之上國,斯乃革命之徵驗,利見之玄符也。臣愚以為宜號為魏。」太祖從之。於是四方賓王之貢,咸稱大魏矣。


(魏書24-10)




ぎ逆ゥー! これ間違いなく順番が逆ゥー! なんか「元々魏と名乗ってて、そこに慕容永が魏の地(長子城とかは春秋の時代に言う魏の地)を献上してきた」みたいな書き方してますけど、これたぶんタイムラインきっちり整理したらまず慕容永の魏土献上が先にあったと思うんですよ。


この辺、魏書さん盛大にぼかしてんですよね。なんでなのかしらね。魏書の言う「曹魏との関係が深かったから魏を国号にした」を表に持ってきたかったからなんじゃないかしら。ていうか崔宏さんの理屈からして「魏の地が中原攻略の橋頭堡になります。これって漢の漢中獲得と同じノリです」って言ってるわけで、ただ北魏が実際に「魏土」を獲得できるのってこのタイミングじゃないはずなんですよね。


なので、これは完全に自分の妄想ですが、北魏の国号確定までには


・慕容永が慕容垂と戦うために拓跋珪に従属すると言いだし、現在自分たちが割拠している地を献上するので魏王と名乗ってくださいと申請。

・拓跋珪が生返事で「おっしゃ魏って名乗ったらんかい」と言いだす。ぜんぜん正統性もクソもない魏国名乗りがここで爆誕。

・とは言え「公式に名乗った」事に変わりはないわけで、そこで崔宏さんたちは東晋に対してよりハッタリの利く名前として魏をチョイスした。


……と言う流れがあったのではないでしょうか。


この辺の妄想については、拙作「誰ぞがための戦いか」にて開陳しております。

https://kakuyomu.jp/works/16816927861163034395

開陳ってか開珍かもねっ!?


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