張袞2  楽毅と荀攸

張袞ちょうこんは常に北魏ほくぎの重大な作戦会議に参与しており、多くの策を提議。拓跋珪たくばつけいもその才覚を重んじ、深く礼遇した。


張袞は常に人に言っていた。

「昔、樂毅がくきえん昭王しょうおうに策を授けた。荀攸じゅんゆう曹操そうそうに身を委ねた。およそ多苦の時代を打破せんと心しようにも、仕えるべき名君に出会うのは容易きことではない。そこを行けば主上のお姿はまさしく英雄と呼ぶべきであり、そのお志は天をも貫かれんばかり。あのお方であれば天下を平らぐことも叶おう。勇躍の風雲に出会っておきながら功も立てられぬようでは、到底人豪となぞ呼ばれまいよ」

こうして拓跋珪よりの信任を受け、与えられた任務を全力でこなした。


この頃劉顯りゅうけんの勢力が高まっており、朔方さくほうの民を占有しつつあった。ただし兄弟間での対立が起こり、ともに疑いあうようになった。その情勢を見通した張袞が拓跋珪に言う。

「劉顯は身の丈に合わぬ高望みをしており、あれでは天も地も味方はせず、むしろ奴をがんじがらめと致しましょう。春秋の昔、夫差ふさえつ勾践こうせんにとどめを刺さなかったがために攻め滅ぼされました。ならば奴めが内輪もめに忙しいいまに乗じ、すみやかに攻め滅ぼされませ。とは言えただ軽騎のみを飛ばしたところで、勇み足となってしまいかねません。ここは慕容垂ぼようすいにも渡りをつけ、ともに補佐し合っての進軍をなすのがよいでしょう。東西どちらからも攻撃を仕掛ければ、必ずや劉顕も捕らえること叶いましょう。しかるのちに英雄たちの活躍ぶりを調査のうえ讃え、遠近となく民たちを大いに慰撫なさいませ。此度は千載一遇と申すべき機会、取り損ねるわけには参りませぬぞ」

拓跋珪は張袞の建言に従い、劉顕を撃破した。


その後賀訥がとつを破ったとき、拓跋珪は群臣とともに勿居山こつきょざんに登り、一日を通し祝宴をひらいた。このとき官僚や諸部の大人が石を持ち寄ってきていた。そこに拓跋珪の功績を刻みたい、と言うのである。そのときの文章は張袞が担当した。




袞常參大謀,決策幃幄,太祖器之,禮遇優厚。袞每告人曰:「昔樂毅杖策於燕昭,公達委身於魏武,蓋命世難可期,千載不易遇。主上天姿傑邁,逸志凌霄,必能囊括六合,混一四海。夫遭風雲之會,不建騰躍之功者,非人豪也。」遂策名委質,竭誠伏事。

時劉顯地廣兵強,跨有朔裔,會其兄弟乖離,共相疑阻。袞言於太祖曰:「顯志大意高,希冀非望,乃有參天貳地,籠罩宇宙之規。吳不并越,將為後患。今因其內釁,宜速乘之。若輕師獨進,或恐越逸。可遣使告慕容垂,共相聲援,東西俱舉,勢必擒之。然後總括英雄,撫懷遐邇,此千載一時,不可失也。」太祖從之,遂破走顯。又從破賀訥,遂命羣官登勿居山,遊宴終日。從官及諸部大人請聚石為峰,以記功德,命袞為文。


(魏書24-6)




張袞さんが、どのくらい漢語で拓跋珪に語りかけてたか、だよなあ。なんとなくこの辺って張袞が鮮卑語で拓跋珪に語ったのを漢語化してる気がする。いやまぁ拓跋珪って鮮卑拓跋部のド貴種も貴種、最近の物語だったら主人公の当て馬にしかならんよーなひとだし、漢語に対しても通暁してはいそうなんですけどね……このへんに対するヒント、どっかで手に入れらんないかなあ。まぁ小説では自分の好きなほうでやりゃいいんだけど。

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