張袞1  外人に語る

張袞ちょうこん、字は洪龍こうりゅう上谷じょうこく沮陽しょよう県の人だ。祖父は張翼ちょうよく遼東りょうとう太守。父は張卓ちょうたく昌黎しょうれい太守。張袞ははじめ上谷郡の五官掾に任じられた。純粋温厚篤実実直、学問を愛し、文才を示した。拓跋珪たくばつけいだい王となったとき、左長史に抜擢された。


拓跋珪の柔然じゅうぜん討伐に従軍したとき、退却する柔然軍を五、六百里ほど追撃。諸部の大人たちは疲労困憊し、拓跋珪に言う。


「もはや敵も遠くなり、こちらの食糧も尽きました。これ以上深入りすべきではございません。すみやかに帰還すべきでございましょう」


拓跋珪は張袞に諸部を回らせ、もし予備の馬を殺したら三日ぶんの食料になるかどうかを問わせた。誰もが「足りる」と答える。そこで拓跋珪は追撃をむしろ全速で掛け、広々とした赤茶けた大地、南床山なんしょうざんのふもとにて追いつき、大破する。


この戦いを終え、拓跋珪が張袞に問う。

「そなたら外人どのは、おれが何故三日保つかどうかを問わせたか分かるか?」

「みな見当もついてございませぬ」

「簡単なことよ。敵も既に数日を走り通しとなっており、飼い従える家畜どもにも水を与えねばならん。そこに至るまでの日にちが三日よ。そこに輕騎にていきなり襲いかかったのだ。実際、奴らはたちまち驚き散り散りとなったではないか。その勢いをつける必要があったのだ」


張袞は拓跋珪のもとを辞すと、諸部の大人らに拓跋珪の言葉を伝えた。すると彼らは口を揃えて言う。

「斯様な遠謀長遠なる策、愚臣らの近きに及ぶところではござらぬ」




張袞,字洪龍,上谷沮陽人也。祖翼,遼東太守。父卓,昌黎太守。袞初為郡五官掾,純厚篤實,好學,有文才。太祖為代王,選為左長史。

從太祖征蠕蠕。蠕蠕遁走,追之五六百里。諸部帥因袞言於太祖曰:「今賊遠糧盡,不宜深入,請速還軍。」太祖令袞問諸部帥,若殺副馬,足三日食否。皆言足也。太祖乃倍道追之,及於廣漠赤地南床山下,大破之。既而太祖問袞:「卿曹外人知我前問三日糧意乎?」對曰:「皆莫知也。」太祖曰:「此易知耳。蠕蠕奔走數日,畜產之餘,至水必留。計其道程,三日足及。輕騎卒至,出其不意,彼必驚散,其勢然矣。」袞以太祖言出告部帥,咸曰:「聖策長遠,非愚近所及也。」


(魏書24-5)




諸部大人「いや出来る出来ないでいや出来るに決まってんだろ、馬潰せとか気軽に言いやがるけどなテメエ」

拓跋珪くんがいきっててかわゆい。

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