許謙1  参合陂援軍依頼

許謙きょけん、字は元遜げんそんだいの人だ。幼い頃から文才を示し、天文や占術にも通じていた。拓跋什翼犍が王として立つと、一門を挙げて帰属した。拓跋什翼犍は喜び、許謙を代王郎中令とし、さらに掌文記にも任じた。燕鳳えんほうとともに拓跋寔に経典の教授をした。劉衛辰討伐に従軍、功績から三十世帯ぶんの奴隷が与えられた。


拓跋什翼犍が死亡すると、長安ちょうあんに移された。苻堅ふけんのいとこである苻洛ふらく和龍わりゅう守護の任を負うと、許謙は同道を請われた。ただし間もなくして継母の老弱を理由に辞退、代に帰国した。


拓跋珪が立つと、許謙はすぐさま出向き、忠誠を誓う。拓跋珪は喜び、右司馬に任じ、張袞ちょうこんらとともに北魏草創の諸政務に参与させた。


慕容宝ぼようほうが攻め寄せてきたときには拓跋珪より命じられ、姚興ようこうに援軍を求めた。姚興は楊佛嵩ようふつすうに兵を与え派遣。ただしこのとき、後秦軍は緩慢な進軍をなした。そこで拓跋珪は許謙に書を与え、楊佛嵩のもとに派遣した。内容は以下の通りである。


「正しきに則り誤てるを討ち、初めて機運に乗り功績を明らかにできるものである。道義に基づき蒙昧の徒を攻めることにより、初めて時流に乗り業績を示すことができるのである。慕容は無道にも我が領地を犯してきた。我が将帥は老い兵は疲弊している。このままでは我らが天命が潰えてしまうと思い、使者を派し援軍を求め、慕容撃退を期待したのだ。楊將軍はもとより地方司令の任を請け負っておられる身。将軍が率いられる熊虎もかくやという兵らの強さを天下に示すはこたびがよい機会であろう。このような機会なぞ、千年に一度訪れるか否かであろう。一朝のもとにその大功を挙げたのちには、三魏までお越しになられよ。盃をかたむけ、ともに戦勝を祝おうではないか。ゆったりとなぞしてもおれまい」


テメエいつまでダラダラしてんだ、戦いが終わったら「かわいがる」ぞ、とでも言わんばかりの文面である。そこで楊佛嵩はすぐに全速進軍をし、拓跋珪に合流した。拓跋珪は許謙の仕事に喜び、關內侯に封じた。


拓跋珪は、あらためて許謙を楊佛嵩のもとに派遣させ、盟約を誓わせる。


「昔、いん湯王とうおうには鳴條めいじょうの誓いがあり、しゅう武王ぶおうには河陽かようの盟約があった。これらは神靈のみもとにて忠信をあきらかとした証である。善き隣と交友を深めるは古のよき規範である。血を捧げ生贄を供え、永きの友誼を厚くせん。この盟約が成立した今、喜びも憂いも分かち合うこと、同族であるがごとくせん。この盟に違わば、神祗よりの天罰が下るであろう」


慕容宝が撃退されると、楊佛嵩は帰還した。




許謙,字元遜,代人也。少有文才,善天文圖讖之學。建國時,將家歸附,昭成嘉之,擢為代王郎中令,兼掌文記。與燕鳳俱授獻明帝經。從征衞辰,以功賜僮隸三十戶。昭成崩後,謙徙長安。苻堅從弟行唐公洛鎮和龍,請謙之鎮。未幾,以繼母老辭還。

登國初,遂歸太祖。太祖悅,以為右司馬,與張袞等參贊初基。慕容寶來寇也,太祖使謙告難於姚興。興遣將楊佛嵩率眾來援,而佛嵩稽緩。太祖命謙為書以遺佛嵩曰:「夫杖順以翦遺,乘義而攻昧,未有非其運而顯功,無其時而著業。慕容無道,侵我疆埸,師老兵疲,天亡期至,是以遣使命軍,必望克赴。將軍據方邵之任,總熊虎之師,事與機會,今其時也。因此而舉,役不再駕,千載之勳,一朝可立。然後高會雲中,進師三魏,舉觴稱壽,不亦綽乎。」佛嵩乃倍道兼行。太祖大悅,賜謙爵關內侯。重遣謙與佛嵩盟曰:「昔殷湯有鳴條之誓,周武有河陽之盟,所以藉神靈,昭忠信,夫親仁善隣,古之令軌,歃血割牲,以敦永穆。今既盟之後,言歸其好,分災恤患,休戚是同。有違此盟,神祗斯殛。」寶敗,佛嵩乃還。


(魏書24-3)




拓跋珪のところでも見たやつですね。「おうおうオメー俺らと"仲良く"してえんだよな? このままゆったりしてんとゴリッゴリに"もてなして"やるからよ?」感があって最高です。たぶんこの文面は許謙さんによるものなんでしょうね。拓跋珪なんかこの辺ストレートに「このまま遅延するつもりならこのあとどのような目に遭うかを伝えろ」しか言ってなさそう。いやまぁあの人もなんだかんだで腹芸の化け物な気はしないでもないですが……。

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