昭成裔8  拓跋虔

陳留ちんりゅう王、拓跋虔たくばつけん拓跋什翼犍たくばつじゅうよくけんの子の拓跋紇根たくばつきっこんの子だ。幼い頃からその勇壮さで名を知られていた。拓跋珪たくばつけい王を名乗って間もなくの頃、陳留公に封爵された。


拓跋儀たくばつぎとともに黜弗ちゅつふつ部を破り、劉衛辰りゅうえいしんの撃破に従軍した。慕容宝ぼようほうが攻め寄せてきたときにはその左翼を封じ込めた。慕容宝を打ち破ったのち、慕容垂ぼようすいが怒り、桑乾そうかんにまで攻め寄せてきた。拓跋虔は果敢に迎撃に出たが敵を軽んじたため、戦死した。


拓跋虔は容貌魁偉、圧倒的な武力を擁していた。愛用している武器「矟」は概して細くて短く作られるものだが、仮に大きく作ってみたとしても、拓跋虔にとってはどうしても軽すぎて扱いづらかった。そこで刃に鈴をぶら下げることで、重さを追加させた。拓跋虔の引く弓の弦は硬く、常人の倍の膂力がなければ満足に引けないものだった。拓跋虔の異能に応えるため、代だいの武庫には常に拓跋虔専用の武具が保管されていた。ひとたび戦陣に出れば矟にて人を刺し貫き、そのまま高く掲げた。


あるとき矟を戦地にあえて取り落とし、馬を馳せて偽装撤退を行った。残された矟を敵たちが我先にと手に入れようとしたが、その重さのあまり、誰も持ち帰ることができなかった。そこに拓跋虔がひとたび矢を放てば、一本の矢で二、三人を軽く貫通する。矟を回収しようと思った者たちはその強襲に驚きふためき、逃亡。拓跋虔は悠然と矟を回収、撤収した。


拓跋珪の征討に従軍するごと、常に先陣を切って敵陣を陥落させた。その武勇は当時でも随一であり、敵が多かろうと少なかろうと、ひとたび拓跋虔が出陣すれば抵抗できるものなどいなかった。


そんな拓跋虔が慕容垂によって殺されると、国を挙げてみなが慟哭に暮れた。拓跋珪が追悼の辞を読み上げたときにも、多くの者が改めて慟哭した。陳留かん王を追贈し、のちには拓跋珪の霊廟に列食された。子の拓跋悅たくばつえつを朱提王に封じた。




陳留王虔,昭成子紇根之子也。少以壯勇知名。登國初,賜爵陳留公。與衞王儀破黜弗部。從攻衞辰。慕容寶來寇,虔絕其左翼。寶敗,垂恚憤來桑乾。虔勇而輕敵,於陳戰沒。

虔姿貌魁傑,武力絕倫。每以常矟細短,大作之猶患其輕,復綴鈴於刃下。其弓力倍加常人。以其殊異於世,代京武庫常存而志之。虔常臨陣,以矟剌人,遂貫而高舉。又嘗以一手頓矟於地,馳馬偽退,敵人爭取,引不能出,虔引弓射之,一箭殺二三人,搖矟之徒亡魂而散,徐乃令人取矟而去。每從征討,常先登陷陳,勇冠當時,敵無眾寡,莫敢抗其前者。及薨,舉國悲歎,為之流涕。太祖追惜,傷慟者數焉。追諡陳留桓王,配饗廟庭,封其子悅為朱提王。


(魏書15-8)




後半部はこれ、たぶん拓跋珪が読み上げた追討の辞なんでしょうね。いかに拓跋虔が強力無双とは言っても、さすがに書き方がファンタジーに過ぎる。もっともそういう言葉がきっちり史書に掲載されるってことはそれだけ拓跋珪に重んじられていた、ってことでもあるわけでしょうけど。

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