魏書巻15 宗室伝2

昭成裔1  什翼犍殺害

ここからは昭成しょうせいえい、つまり拓跋什翼犍たくばつじゅうよくけんや子孫の話となる。


拓跋寔君たくばつしょくくんは拓跋什翼犍の長庶子だ。愚劣で短気、仁に悖る振る舞いを取る者だった。拓跋什翼犍の晩年、苻堅ふけん苻洛ふらくだいを攻撃させると、拓跋什翼犍は劉庫仁りゅうこじん石子嶺せきしれいにて迎撃をさせた。拓跋什翼犍自身はこのとき病に伏せっており、自ら軍を率いることが難しくなっていた。このため諸部を率いて陰山いんざんに逃れ、漠北ばくほくに抜けた。そこに高車こうしゃが襲撃をしてきたため、漠南ばくなんに戻らざるを得なくなった。苻洛の軍が退いたため、雲中うんちゅうに帰還した。


実のところ拓跋什翼犍は弟の拓跋孤たくばつこに代王位を譲ろうと考えており、既に国の半ばほどは譲渡していた。しかし拓跋孤が死亡、子の拓跋斤たくばつきんは手落ちがあり失職していたがそれに恨みを抱き、乱を企んでいた。このとき、拓跋珪の父である拓跋寔たくばつしょく拓跋翰たくばつかんも既に死亡しており、拓跋珪もまだ六歳であった。

拓跋什翼犍が病で昏睡すると、慕容后ぼようこうとの間の子である拓跋閼婆たくばつおばはもっとも年長であったが、後継者としては確定していなかった。拓跋斤はここに乗じるため、拓跋寔君をそそのかす。


「伯父上は拓跋閼婆を立てようと考えているだろう。このためお前の決起を恐れている。恐らく、お前を先んじて殺そうとするに違いない。既にそのタイミングを計って多くの子らが軍装を身にまとい、夜にも兵らと共にお前の幕舎を囲まんとしている。おれはな、そんなお前を哀れに思い、そのことを伝えに来てやったのだ」


この頃苻洛らの軍も近くの君子津くんししんに駐在しており、夜は常に警備が回り、諸皇子もまた確かに拓跋寔君の帷幕近くを巡回していた。拓跋寔君は周囲の状況を確認すると、確かに拓跋言の言葉通りであると納得する。そこですみやかに動き、拓跋什翼犍の諸皇子を殺害して回り、更には拓跋什翼犍自身も手にかけた。


同夜、諸皇子の妻や宦官たちはあわてて苻洛軍にこの凶行の報告に上がる。苻堅の部将である李柔りじゅう張蚝ちょうこうはすみやかに兵を引いて拓跋部を包囲。部民らは離散した。苻堅もこれを聞き、燕鳳えんほうを召喚して何が起こったのかを問う。その報告を聞くと、苻堅は呟いた。

「天下にこれ以上の惡がいるか?」

そうしてすみやかに拓跋寔君と拓跋斤を捕らえ、長安ちょうあん西市せいしにて車裂きに処した。


なお拓跋寔君の孫の拓跋勿期たくばつこつき定州ていしゅう刺史となり、林慮りんりょ侯に封じられた。




寔君者,昭成皇帝之庶長子也。性愚戇,安忍不仁。昭成季年,苻堅遣其行唐公苻洛等來寇南境,昭成遣劉庫仁逆戰於石子嶺。昭成時不勝,不能親勒眾軍,乃率諸部避難陰山,度漠北。高車四面寇抄,復度漠南。苻洛軍退,乃還雲中。

初,昭成以弟孤讓國,乃以半部授孤。孤卒,子斤失職懷怨,欲伺隙為亂。是時,獻明皇帝及秦明王翰皆先終,太祖年六歲,昭成不豫,慕容后子閼婆等雖長,而國統未定。斤因是說寔君曰:「帝將立慕容所生,而懼汝為變,欲先殺汝,是以頃日以來,諸子戎服,夜持兵仗,遶汝廬舍,伺便將發,吾愍而相告。」時苻洛等軍猶在君子津,夜常警備,諸皇子挾仗徬徨廬舍之間。寔君視察,以斤言為信,乃率其屬盡害諸皇子,昭成亦暴崩。其夜,諸皇子婦及宮人奔告苻洛軍,堅將李柔、張蚝勒兵內逼,部眾離散。苻堅聞之,召燕鳳問其故,以狀對。堅曰:「天下之惡一也。」乃執寔君及斤,轘之於長安西市。

寔君孫勿期,位定州刺史,賜爵林慮侯。卒。


(魏書15-1)




拓跋寔君の子供が皆殺しになっていないのがなかなかに興味深いです。この辺りは遊牧民ならではの措置なのかもしれませんね。中原人なら「子はいくらでも生まれる」から気軽に族滅できるけど、遊牧民はそうもいかない、的な。どのみち殺し殺されが常態みたいな世界ですし、恨み恨まれなんて変に抱えすぎても仕方がないのかもしれない。そう考えるとくっそ殺伐とした世界だよなぁ。絶対に生き延びられる気がしない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る