拓跋珪46 史臣評

史臣、魏収ぎしゅうが申し上げる。


西晉せいしんの崩壊後、前後趙ぜんこうちょうが華北の擾乱に便乗した。結果正統性のまるでなきものがその爪牙の鋭さのみを根拠としてのさばらんとし、結果けだものどもが相い喰らわんと闘いを繰り広げた。


その中にあり、拓跋珪たくばつけい様は群狼の饗宴に迂闊に近付こうとはされず、父祖がお築きになったコネクションを着実に回収され、ひとたび決起されるやその靈武を奮われ、各所にはびこる艱難辛苦を振り払い、ついには中原にまでその武威を示し、天下の主となられた。そのことを天帝に報告された上で、帝位に就かれた。


即位後も天下平定のためいとまなく各地に行幸されるも、さりとて国内向けの文治のための制度策定に意を砕かれ、結果民は陛下の庇護のもと、夭逝の苦難を受けることもなく過ごせている。


易経えききょうの「けん」第二爻には「見龍在田、利見大人。」という句がある。また繫辭伝けいじでん下には、乾を語るに当たり「百姓與能」という語句がある。大人の異能に、百姓が恩恵にあずかるのだ。まさしく陛下のことではないか。


不世出の神武、それこそが陛下のお示しになったものである。しかしそんな陛下であっても、不慮の災いを避けることは叶わなかった。さても人事をなし切ることが出来ていなかったのであろうか、それともまさか、あれが天意だとでも言うのだろうか。だとすれば、なんとも天は残酷なのか、あぁ!




史臣曰:晉氏崩離,戎羯乘釁,僭偽紛糾,犲狼競馳。太祖顯晦安危之中,屈伸潛躍之際,驅率遺黎,奮其靈武,克剪方難,遂啟中原,朝拱人神,顯登皇極。雖冠履不暇,栖遑外土,而制作經謨,咸存長世。所謂大人利見,百姓與能,抑不世之神武也。而屯厄有期,禍生非慮,將人事不足,豈天實為之。嗚呼!

 

(魏書2-46)




魏収さんはどのツラ提げてこれを書いたんだろうね……ふっつーにインガオホーやんすけ。わかっていながらなおこれを書いたってことなんでしょうけど、いやはや。


なかなかに香ばしい史臣評を読んでニコニコし、続いて拓跋嗣たくばつしに移るのです。

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