勃勃2  姚邕の見識

劉勃勃りゅうぼつぼつは2メートル近くの身長、腰回りも十圍ほどあり、弁舌に長け、見事な風采をも備えた。姚興ようこうはひと目見てただものではないと思い、深く礼節と敬意を表し、驍騎将軍、奉車都尉とし、また重要な軍議にも参列させた。その寵愛は旧臣以上のものであった。しかしそこに姚興の弟、姚邕ようようが進言する。


「アレに仁の心は望めません。決してなつくことはございますまい。陛下の行き過ぎたご寵遇に、いささか戸惑いを隠しきれません」


姚興が尋ねる。


「勃勃の武才は抜群、私はやつを用いることで、その大業を果さん、と考えているのだ。どこに良くないところがあるというのだ」


そう言ってさらに劉勃勃を昇進させ安遠將軍、陽川侯に任じて沒奕于の高平鎮守の補佐とし、三城、朔方に住まう諸胡族や、もと劉衛辰りゅうえいしん配下の部族三万を劉勃勃につけ、対北魏ほくぎ戦のための偵察に当たらせようとした。すると姚邕、なおも劉勃勃を外すべきと固く諌める。勃勃の何を貴様が知っているのだと姚興が問えば、姚邕は答える。


「勃勃は陛下に対しても傲慢、その統率は無惨。貪欲にして粗暴な上、親密なものもなく、進退すら気軽に決める男です。やつをいち武将の分を越えて愛寵なされば、ついには辺土における災いとなりましょう!」


これを聞き姚興、いちど人事を差し止めた。ただし間もなく持節、安北將軍、五原ごげん公とし、三交の五部の鮮卑せんぴ、及びいくつかの部族総勢二万世帯を与え、朔方さくほうを守らせた。


それから間もなくして、姚興が拓跋珪たくばつけいと和親を結ぶ。劉勃勃はこれに激怒した。


この頃、柔然じゅうぜん王の杜崘とろんが姚興に馬八千頭を献上すべく長安ちょうあんに向かっていた。使節団が黄河こうがを渡り大城に至ったところで、劉勃勃に食い止められる。そして彼らと狩りがしたいと高平川こうへいせんにおびき寄せ、別働隊で高平こうへいにいた沒奕于ぼつえきうを襲撃、殺害。配下兵を強奪し、その兵力は数万に及んだ。




勃勃身長八尺五寸,腰帶十圍,性辯慧,美風儀。興見而奇之,深加禮敬,拜驍騎將軍,加奉車都尉,常參軍國大議,寵遇逾於勳舊。興弟邕言于興曰:「勃勃天性不仁,難以親近。陛下寵遇太甚,臣竊惑之。」興曰:「勃勃有濟世之才,吾方收其藝用,與之共平天下,有何不可!」乃以勃勃為安遠將軍,封陽川侯,使助沒奕于鎮高平,以三城、朔方雜夷及衛辰部眾三萬配之,使為伐魏偵候。姚邕固諫以為不可。興曰:「卿何以知其性氣?」邕曰:「勃勃奉上慢,禦眾殘,貪暴無親,輕為去就,寵之逾分,終為邊害。」興乃止。頃之,以勃勃為持節、安北將軍、五原公,配以三交五部鮮卑及雜虜二萬餘落,鎮朔方。時河西鮮卑杜崘獻馬八千匹于姚興,濟河,至大城,勃勃留之,召其眾三萬餘人偽獵高平川,襲殺沒奕於而並其眾,眾至數萬。


(晋書130-2_識鑒)




赫連勃勃載記だけ読むと、見事に「ただのキチガイ」にしか見えないあたりがすごいですね。これ、夏の歴史書編んだ人って北魏時代に編纂したんだろうな。でないと「絶対に殺したいと思っていた拓跋珪が、よりによって姚興と手を組んだ」みたいな「あー、まぁそれならこのキチガイ怒るやろね」と納得できる理由を飛ばしてキチガイの意味不明キチガイ度を一段階上げるなんて暴挙には出ますまい。


この辺も、晋書がなんだかんだで参照元の史書を尊重していたっぽいことが伺われます。正直「なら典拠一覧も残しとけや」とも思うのですが、まぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る