三十一話「暴行(復讐)②」


 中里の父親が大企業の会長であり、そのお陰で彼が並みの中学生以上にお金を持っていることを知って、彼に媚を売ったことが、谷本が中里と親しくなったきっかけだった。実際中里からお金を貰ったことが何度もあり美味しい思いをし続けていた。

 故に谷本にとって中里はお金の面で利用価値が良かっただけの同級生で、そんなはりぼての友人関係に過ぎなかった中里が為す術無く陥落しようとしているのを見た谷本は、今までのシュートへの暴行の虐めは全て中里の命令で仕方なく、と言い逃れしようとする。許されはしなくても罰を少しでも軽くしようとのことだった。


 「だ、だからさ!俺も大東も、中里に言われてお前を虐めてたんだ!そうすればお金をくれてやるって言われたから!じゃなきゃ好き好んであんな酷い虐めなんてしないって!なぁ?」

 「そ、そうだよ!谷本の言う通りさ!俺だって本当は気が進まなかったんだけど、お金くれるって言われたから……仕方なく、さぁ!」


 大東も谷本の言葉に乗っかって、シュートによる復讐から必死に逃れようとしている。


 「そ、そうだ!顔面…顔面一発だけで許してくれねーか?今まで俺たちにやられてすげー腹が立ってるのは分かるけどさ!何も中里みたいにまでしなくたっていいじゃん?殴らせてあげるからその代わりに、手加減してくれたら―――

 (ドスッ)―――っか、あぁ……っ!?」


 谷本の提案が言い終える前に、シュートの地獄突きが谷本の喉元に炸裂し、発声が封じられた。


 「俺の復讐内容を、何お前らが勝手に決めてんだ?さっきも言ったよな?お前らが発して良いのは、苦痛に満ちた悲鳴と恐怖に震えた叫びだけだって」


 喉を押さえて苦痛にえずいている谷本の髪を上から掴み、もう片方の手は大東の首を掴んで軽々と持ち上げる。大東も首を絞められて苦しそうに両足をばたつかせる。


 「か……おぇ………っ」

 「~~っ~~~っ」

 「中里からお金を貰ってたのは本当そうだけど、あいつに言われて仕方なく…は完全に嘘だよな?

 つーか俺に嘘は通じないって、これもさっき言ったんだけど、馬鹿なの?話聞いてなかったの?脳みそに糞でも詰まってるのか?」


 掴む力がさらに入っていく。二人は激痛と苦しさに顔が赤紫色に染まっていく。


 「なぁ、俺は今までお前らに散々殴られたり蹴られたりされて、その際お前らの顔が見えたことあったんだけどさ、お前らはいつもいつも、俺を甚振ってるのを心底楽しそうにしてたじゃねーか!あれが嘘だと?そうは思えないんだけど!嫌々やってる奴が、あんな面白そうにしてるわけねーだろっっ」


 次第に感情が昂って顔が険しくなるシュートを目にした谷本と大東は揃って、顔を恐怖でくしゃくしゃにする。


 「あとさぁ、何が殴らせてあげる、だよ?あげるって何?お前は何上から目線でものを言ってんだよ?しかも顔面一発だけで許してくれ?お前今まで俺にどれだけ暴力振るって傷つけてきたか分かってねーのか?

 お前らが俺にしてきたことと俺がお前らに顔にたった一発だけって、それで釣り合うわけねーだろ」


 シュートは二人を掴んだまま「浮遊」で宙に浮かび上がっていく。その光景を見た後原や他の不良たちが信じられないものを見たと目を剥く。


 「あ………あっ」

 「や…や、め………」

 「とりあえずお前らも顔以外はぐちゃぐちゃにしてやるよ、チ〇カスどもが」


そう言ってシュートは谷本と大東を同時に下へ放り捨てて、地面に叩きつけた。


 グシャ×2 「「ぐぇあ……!」」


 そえぞれ背中や腹を強く打ちつけて一瞬窒息した苦しみを味わい、それからすぐ痛みに呻く。そこにシュートが降り立つと、再び二人を持ち上げたまま浮遊していく。そして高所から下へ勢いよく投げ落として地面に激突させる。腕が先に激突したことで谷本の腕が折れて、足が先に当たった大東のそれが歪に曲がってしまう。

 間髪入れずにシュートが降りるとまた二人を掴んで拾い上げて、空中へ浮遊していきある程度の高所からまた投げ落とす。

 降りてまた拾い上げて上へ飛ぶ。そしてまた投げ落とす。その無限ループをしばらく繰り返すのだった。


 「がへっ!ひぃ!?い、嫌だ―――あぐっ!ま、また―――かはぁ!もう止め―――えぐぅう…!」

 「ぎゃん!わ、わ…うわあああ――べぎぁ!あ…あああああ―――ごぅ…!あ”あ”あ”!いやあ”あ”あ”―――べうんっ」


 地面に激突した際に出る谷本と大東の悲痛な声と、持ち上げられて投げ落とされる恐怖に対して出る二人の悲鳴が屋上に響き続ける。その惨劇と二人の声に、後原たちはこれ以上無い恐怖にさらされて縮み上がったり小水を漏らしたり体を丸めたりしていた。

 何度繰り返したか分からない空中からの投げ落としのループを止めた頃には、谷本も大東も顔以外の全身がズタボロになっていた。腕と足が折れて歪に曲がって骨もとび出ており、内臓がいくつも損傷し、肋骨にひびが入っており、どちらも虫の息の重体だ。

 そんな二人に追い打ちをかけるように、シュートはそれぞれの腹につま先蹴りを入れる。何度も蹴りつけることで二人は痙攣を起こし、血が混じった涎を垂れ流すのだった。


 「あ、こいつらも気を失いやがった。まだ全然足りないのになぁ。んじゃ、こいつらもまた後でってことで」


 シュートは二人の髪を掴むとそれらを中里がいる方へ投げ捨てる。三人が無残な姿で倒れているのを見た後原たちは、次は自分たちが…と思うと全身を竦み上げて硬直してしまう。その後原をシュートは次に目をつける。


 「ひっ!?あ、あああああ……」


 次は自分だと察した後原は足をもつれさせて転倒する。そこへシュートが歩を進めたその時、昼休み終了のチャイムが校内に響いた。


 「あーあ、時間切れか。まぁあれだけじっくり痛めつけてたら、当然そうなるよな。こんなことなら時間の流れが遅い異空間ですればよかった」


 シュートが興冷めしている一方、後原たちは助かったと心底安堵していた。しかし彼らに救いなど全く存在しないことを、すぐ知ることになる。


 「じゃあまず、クラスメイト以外全員をここで壊しとくか」

 「え………?」


 後原が間抜けな声を漏らした直後、シュートは彼らの目にとまらないくらいの速度で駆けて、後原以外の不良たち全員を殴打・蹴りで壊したのだった。次々上がる彼らの絶叫を聞いた後原は再び絶望の淵に落とされるのだった。

 数秒後、屋上には後原以外の不良たちが壊れた姿となって這いつくばっていた。


 「時間がまた空いた時にこいつらもじっくり痛めつけるとするか。で、まだ終わってない奴がいるんだけど…」


 後原に目を向けたシュートは少し思案したのちあることを思いつく。中里谷本と大東のところへ行き、彼らの体に手を置くとあるスキルを発動した。


 “治療”


 異世界で体得したスキル「治療」 モンスターとの戦いで傷ついた体を自分で治していくうちに体得したスキルだ。その名の通り対象に手を置いて治す意識を集中させることで傷をある程度塞いで治すことが出来る。

 今のシュートの熟練度はまだ低く、折れた骨を完全に治すまでには至らずで、せいぜい痛みを無くすくらいのものだった。

 シュートに治療された中里たちは未だ意識を失ったままだが呼吸がまともに戻っている。

 後原にとってそれは超常現象として映っており、またも驚愕する中、シュートは彼にこう命じるのだった。


 「後原、午後の授業ちゃんと出ろよ。俺も出るから。中里たちの傷はある程度治した。死んだりはしない。それと、次の授業が終わった後…放課後前のホームルームでもいいや、その三人を俺たちの教室に連れてこい。もし従わなかったら、“殺してやる”って伝えとけ。もちろんお前もそうするからな?」


 最後の部分を聞いた後原は顔を青ざめて何度も頷いた。


 「あ~~~気分爽快っ!あいつらがズタボロになったの見れて、マジで最高の気分だっ!」


 シュートは大きな声で独り言を叫んで晴れ晴れとした顔で、扉の前にある土砂を消してから出て行くのだった。


 「お、俺だけ……助かった、のか……?何で?

 も、もしかして…俺だけ本当は中里に命令されて仕方なく三ツ木を虐めてたってことが分かった、から……?俺も同じ、少し前までは中里たちに虐められてたから、そのよしみで…とか?」


 シュートがいなくなった屋上で後原は一人、自分だけがシュートに復讐の暴力を振るわれなかった理由を考えて、自分だけが彼の復讐から逃れたのだと勝手に解釈していた。




 それが大きな勘違いであったことを、後原健は午後の授業が終わった後に思い知ることになる――





*PV数35万突破!(2022.6.4)

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