三十話「暴行(復讐)①」


 シュートが放ったただの蹴りで、ありえない距離まで吹っ飛んだ中里のありさまを目にした不良たちは唖然とする。最初から唯一攻撃に参加していなかった後原は身の危険を察して屋上から逃げ出そうとする。それに目ざとく気付いたシュートは「空間転移術」で屋上の扉へ移動して、後原を谷本たちがいるところへ強制的に戻らせた。


 「えーと、昼休みはまだ三十分近く残ってるな」


 時間を確認しながら屋上の扉の前に移動すると、そこに土の魔術で土砂を大量に積もらせた。これで屋上から唯一の脱出口が塞がれた。

 突然の土砂の出現に狼狽する不良たち。そんな中シュートは中里のように谷本、大東、後原と順番に一発ずつ攻撃を入れて、彼らにシュートの力がどんなものかを思い知らせる。


 「う、動けな……っ」「お、重い……っ」「三ツ木に、こんな、力……っ」


 残りの不良たちにも一撃を入れて悶絶させる。誰もがシュートのデタラメな力を受けて苦痛に呻き、その脅威を理解し始める。


 「な、なぁ……ヤバくね?」「ああ、今の三ツ木…バケモンだ」「に、逃げた方がいいって!」「で、でも扉が土砂で塞がっちまって……」「は、早く逃げねーと殺される……!」「だ、誰か助け呼んでこいよぉ…!」


 口々に話している不良たちを見回したのち、シュートは不良グループのリーダーであり虐めの主犯でもある、中里優太のもとに移動する。最初に「壊す」のは中里だと決めていたシュートである。腹を蹴られて未だ地面にうずくまっている中里の脚に足を乗せて、一気に力を入れてその骨にひびを入れる。


 メキミシィ…… 「~~~~~っっ」

 

 声にならない悲鳴を上げ続ける中里を見るシュートは内心ほくそ笑む一方、今の力の振るい方について思考してもいた。


 (今…こいつの脚を踏み砕いた時、スキル“怪力”を発動した状態だった。その前の蹴りはスキルを発動しないで蹴ったけど、素の力だけでも人をあんなに吹っ飛ばすことができてたな。だったらここからはスキルを使わないでこいつらを痛めつけよう。それだけでも十分痛めつけられる)


 スキルを使ってうっかり殺さないようそれらをあまり使わないで甚振ることにしようと決めたシュートは、痛みに喚いている中里を見て笑い出す。


 「その脚じゃあしばらくサッカーできないだろうな?いい気味だ」


 シュートが次の攻撃に移ることを察した中里は、どうにか起き上がろうとするが立つことすらままならない。上体だけ起こして長座体勢のまま後ずさるが全くの無意味である。


 「わ、分かった!俺の負けだ!もう三ツ木のこと虐めたりしないから!みんなで暴力振るうようなことしないから……!」


 中里はなりふり構わずといった様子で降参を宣言した。谷本や大東に目を向けると意図を察した彼らも首を縦に振って同意を示す。全員が自分たちの負けを認め、シュートをもう虐めないと誓おうとする。

 シュートは無言で中里の腕を掴んで立ち上がらせるように引き上げる。許してもらえると思った中里は顔は安堵の表情を見せつつも、内心では上手く騙せたとシュートを嘲笑っていた。


 「……………」

 (ミシ……ッ)「………え?ちょ、痛い。痛いって?強く握り過ぎ……っ!?いたっ、痛いっつってんだろ!?」


 スキル「怪力」―――


 ベキャアア! 「うぎぇあああああああ!?」

 

 シュートは中里たちの命乞いなど、初めから聞く耳持たずだった。彼らがどれだけ許しを乞うても懺悔の言葉を述べても関係無い。

 逆襲を、復讐を、裁きを、制裁を、処刑をすることは、揺るがない決定事項となっている。

またうっかりスキルを使ってしまったシュートの腕力は、掴んだまま力を入れるだけで人腕の骨を割りばしのようにへし折ることも出来る。実際中里の前腕部分はシュートの掴み技によって嫌な音を立てながらへし折れている。


 「もう虐めはしない?それが嘘だってことバレバレだから。内心こいつまた騙されてやんの、とか思ってたんだろ?」


 スキル「看破」で中里の言葉が嘘であることを見破っていた。


 「あと…自分の負けだとか何とか言ってたけど……これってそもそも勝負とかじゃないから。

 俺が、お前ら全員を、徹底的に壊すだけの時間、だから。勘違いしないでほしいんだけど。最初から勝ちとか負けとか無いから。お前らはこれから俺に蹂躙されて壊されるの。分かったか馬鹿が」


 ヒュン――ベキバキィ!「うあ”あ”あ”あ”あ”……っっ」


 続いてローキックを放って中里の両大腿骨を完全に砕いて(折れた骨が皮膚から突き出て丸見えとなった)、再び地面に這いつくばらせる。それから仰向け状態で倒れた中里に馬乗りになると、シュートは両の拳で中里の顔面以外の全身を殴り始めた。


 ガッ、ゴッ、ゴリッ、バキィ、ベゴッ、メキャ、ガキッ、バグンッ、ゴチャッ


 「がっ、ちょ、や、やめ”……やめろ”っ、ごぇ、やめて……っ」


 殴って殴り殴りつけ殴る。ひたすら殴っていく。肩、腕、胸、腹、腰、脚と、全身余すことなく殴打を浴びせていく。その間シュートは中里の顔面には一発も入れなかった。谷本や大東、後原たちはそんなシュートの暴行を見て恐怖で顔を引きつらせている。


 「“顔面を殴っちゃうと傷が目立つからそこだけは狙うな”……お前が俺を暴行するとき仲間たちにずっと言い続けてたことだったよな?俺もお前らに倣うことにするぜ。

 何より、顔をぶん殴ったらお前すぐに落ちちゃうだろうからな。他の急所も狙わない。

 俺の今までの痛みを存分に思い知れ。俺を虐めたことを存分に後悔しながら、俺に甚振られろ」


 怒りを、恨みを、憎しみを動力源にして、シュートは飽きることなく中里をひたすら殴り続けていく。


「ごめ……ごめ”、んなざっ………っ」

「はぁ?謝罪の言葉なんて今更要らねーよ。つーかどうせ本気でごめんなさいとか思ってねーだろ?この地獄から早く逃れたいからそう言ってるだけなんだろ、それ。そうなんだろ」

「ほっ、本当だ!本当にっ、悪かったと思ってる!反省しでる!」


 スキル「看破」を発動して中里の言葉を審議するシュート。予想通り、中里は恐怖しているものの心からの反省などしていなかった。


 「半分嘘をついてるってことで、さぁ続けようか」

 「ひっ、うあああああ……っ」


 嘘を悉く見破られて説き伏せることも出来ないと悟った中里はさらなる地獄を想像して恐怖し、ズボンを自身の小水で湿らせる。ばっちぃ!とシュートは愚痴りながら馬乗りを解除して今度は踏みつけで甚振ろうとする。


 「や、止めてくれ!もう止めてくれえええ!!」


 中里への暴行を止めるよう、他の不良たちが呼び掛ける。シュートは不愉快そうに彼らに振り向く。シュートに睨まれた彼らは射竦められて身動き一つとれなくなっている。


 「止めてくれ…?じゃあ聞くけど、お前らは俺が同じようなことを言った時、虐めを止めたことあった?なぁ?

 俺が止めろと言ってもお前らはその後どうしてたっけ?ボロボロの俺を嘲笑いながらもっと甚振ってなかったっけ?」

 「あ………」

 「ひ、ぃ………」


 シュートから途轍もないプレッシャーが放たれて、全員それに圧し潰されるような感覚を味わう。スキル「威嚇」による精神攻撃だ。


 「お前らが俺を甚振りまくるのは良くて、俺がお前らを甚振るのはダメと?する側になるのは良くて、される側になるのは嫌、と?そんなことが通ると思ってんのか、お前ら、なぁ?」

 「う、うう……」

 「思ってもなかったんだろ、自分たちが弱者側に、甚振られる側に回るなんてことをさぁ」


 ドスッ 「ぐ、ぶぐおぇ……っ」


 胃がある腹の箇所を踏みつけると、中里は口から血が混じった胃液を吐き出して苦しそうに呻く。


 「都合良く、止めてあげるわけねーだろ。同じだよ。お前らが俺にやったことを、今度は俺がお前らにしてやるんだよ。だからもう喋るな。お前らが発していいのは苦痛に満ちた悲鳴と恐怖に震えた叫び声だけだ」


 再び胃や大腸が位置する腹の箇所を次々踏みつけて中里を壊していく。顔以外の全ての箇所を踏みつけたところで、今度は中里の手指を一本ずつ壊す「作業」を始める。骨を折り、爪を乱暴に剥がすという鬼畜極まりない行為を、シュートは一本一本実行していく。その間中里は激痛にのたうち回ろうにも脚が壊されている為それすら出来ずにいた。


 「どうだ、絶対的な強者だと思ってた自分がこんな目に遭った気分は?常に自分がカースト上位の人間で支配する側だと思ってたんだろうな?これからも、それが続くと思ってたはずが、弱いと思ってた人間に一方的に嬲られて、ゴミのように這いつくばされた気分は、どうだ?」

 「………っ、ぅあ……………」


 シュートの煽り文句に、中里は憤ることすら出来ないでいた。それどころか今は絶対的な強者となったシュートに対する絶望と恐怖しかない状態だった。

 シュートが指摘した通り、中里自身は今まで自分は強い…力も金も家の地位もある強者だと確信していた。自分はこの世の勝ち組で、絶対的な強者だと信じて疑わなかった。この学校では自分は強い者であり、弱い者を蹂躙して虐げる立場にあるのだと確信していて、それは中学を卒業した後もずっと続くのだ、と酔いしれていた。

 しかしそんな確信と理想は、突如牙を向けてきたシュートによってボロボロに打ち砕かれたのだった。絶対強者だと思った自分が、異次元で未知で強大過ぎる暴力を前に、為す術なく蹂躙されて地に這いつくばる様となっている。

 そしてその強大な暴力の権化であるシュートは、今も自分を徹底的に壊そうとしている。そのことに中里の心は既にボロボロに折れていた。


 (あァ……楽しい!ずっと復讐したいと思ってた奴を、自分の手で痛めつけて…痛めつけて痛めつけて痛めつけて痛めつけて痛めつけて、壊していくの、すっごく楽しいなぁ!!)


 シュートは心から笑っていた。普通ならこれだけの暴行をしたらどれだけ憎んでいようと気が引けるようなもの。しかし彼からそんな躊躇いは一切表れなかった。彼の中には線引きなど存在していない。殺しさえしなければどんな目に遭わせても良いのだ、と本気でそう思っている。

 こんなことしたら痛い、苦しい、惨い。自分がこうされたら堪ったものではない。だから止めておこう、という自制はもうはたらいてなどなかった。特に、自分を今まで虐めてきた中里たちに対してはそのような自制はとっくにぶっ壊れていた。


 「………あ、白目剥いてら。耐久性が低過ぎるおもちゃだなー。じゃあこいつへの復讐はいったん終わっとこ」


 白目を剥いて涙を流して気絶した中里を解放するシュート。しかし彼の復讐はこれで終わりにはならない。


 「んじゃ次…中里の次に俺を散々暴行しやがった谷本と大東!お前らな」






*作品フォロワー数4000人突破、星評価数1500突破、PV数32万突破!(2022.6.2) 感謝しております!

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