二十六話「ウォーミングアップ、そして登校」


 シュートと不良高校生集団が異空間へ転移してから数十分が経過。その空間に閉じ込められている十人近くもの不良たち全員が、悲惨な目に遭っていた。


 「いた、いよぉ……ぇぐ」「腕が、足が……動かねぇ………」「指が、全部……変な、方向にぃ……」「助けて、くれぇ……っ」「あ、悪魔だよ、あいつは、ぁああ」


 ある者の足指は全てへし折れており、ある者の手指は全て粉砕しており、ある者の脚の腱は全て断裂されており、ある者の腕や脚からは折れた骨が飛び出しており、ある者の手は腱が断裂されている為開閉すら行えなくなっていた。

 シュートは不良たち全員の手足を完全に使い物にならなくなるまで徹底的に壊した。これだけやられているにも関わらず、不良たちには意識があった。否…不運にも、と言うべきか。実際彼ら全員、手足や背中の傷による激痛で苦しんでいる。


 「ふぃ~~~。十人くらいいるから、時間かかったなぁ。とりあえず全員壊すことができたかな」


 満足そうに頷いたシュートは遠くに倒れている大柄の不良のところに移動する。彼がこの集団のリーダーであることは、以前の不良三人から聞いている。


 「………!……!」

 「あー喋れないんだ?まぁいいや。とりあえず殺したりはしないから。別にお前らのこと殺したいくらい憎くはないし。ただ目障りで要らない人間だなーってしか思ってないだけだから」

 「…………!」


 大柄の不良は身動きがとれない状態のまま、シュートに化け物を見るような目を向けて怯えている。


 「安心しろよ。このままずっと閉じ込めたりなんかしないから。全員ちゃんと、病院の前へ捨てといてあげるから。その状態だと全員、数か月間は車椅子生活になると思うからよろしく」


 あと最後に…とシュートは全員に聞こえるようにこう告げた。


 「次どこかで俺の前に、傷が治ったお前らが現れたら…また今と同じ目に遭わせるから。お前らがカツアゲとか誰かを理由なく傷つけたとかしてた・してない関係無く、壊すことにするから。

 それが嫌なら、退院した後は家にずっと引きこもってなよ。そうしてればもうこんな目に遭わなくて済むからさぁ」


 シュートの言葉の宣告を聞いた不良たちは絶望した表情を浮かべる。地獄はまだ終わってなどいないのだ、と思い知らされる。


 「今日俺がお前らにしたこと、誰かに言っても良いよ?病院の人とか警察とかにさ。

 まぁ、お前ら社会のクズ・人間のゴミどもの言葉が信じてもらえれば、だけど」


 鉄パイプでいくら殴られても平然としていた人間、男子高校生を片手で楽々と持ち上げてそれを槍投げのように投げ飛ばした人間、自分たちを異空間へ拉致した、など。そのどれもが当事者以外の者にしてみれば荒唐無稽な出来事だ。

 加えてそれらを証言するのがシュートが言う社会のクズ…不良高校生たちであることも信用に値されない要素として挙げられる。証言者が十人近くいようとが彼らが不良である以上、大人たちはそう簡単に信じようとはしないのが現実である。


 「もし信じてもらえなかったら、それはそれは……“理不尽”ってやつだよなぁ?」


 そう言ってシュートは不良高校生たちを見下して嗤うのだった。


 ―――

 ――――

 ―――――

 

 報復にきた不良高校生たちの返り打ちおよび破壊を済ませたシュートは、彼らを自分が知る病院の前へ転移させて、そこに全員放り捨てた。


 「よし。中里たちへの復讐前の良いウォーミングアップになった。力加減とかもばっちり覚えたし。これならあいつらを殺さない範囲で甚振れそうだ」


 満足げに頷いて元の通学路へ戻っていく。シュートに徹底的に壊された不良高校生たちはこの後病院に運ばれて入院。全員しばらく車椅子生活を余儀なくされ、全治半年間以上もの診断を受けた。

 そして退院して歩けるようになってからも、彼らはシュートの言った通り家へ引きこもる生活を送ったのだった。彼らの家族・知り合いが言うには、全員毎日怯えた様子で暮らしていたとか。

 そして警察も誰も、不良高校生たちの証言を信じる者はいなかったそうだ。



                


 異空間で長い間過ごしていたことでこれは遅刻確定かなと思っていたシュートだったが、彼が持つ携帯電話が示す時刻は異空間へ転移する直前のそれとあまり変わりなかった。異世界だけでなく異空間にいる間も時間の流れは止まるものだと、また一つ学んだ。ただし異空間では完全に時間が止まるわけではなく、時間の流れが遅くなるだけ、であり、時間はあれから十分前後は経っていたのだった。

 そんなに時間は経っていなかったにせよこのままだと始業時間ギリギリになってしまうこともあり、シュートは寄り道することなく電車に乗って行った。「空間転移術」を使えば学校までひとっ飛びなのだが、あえて普通の登校をしておこうと思うシュートだった。理由は今のシュートを目にした人々の反応を改めて確認したいからである。


 「わ……凄いイケメンがいる」「制服着てるから高校生かな?」「待って、あの制服ってあの名門私立中学のだったような?」「え!?あの子中学生なの?全然見えないよ~」「というか服のサイズ合ってないよね、発注ミスしちゃった転校生なのかな?」


 電車の中でもシュートのもとに好奇的な視線が集中していた。その大半が女性のものであり、彼の容姿にドキドキしている者もいる。


 (注目されてる……。やっぱり今の俺ってイケメンに見えてるんだなー)


 電車通いを始めてから一度もこのような注目を浴びたことなどなかったシュートにとって新鮮であり、どこかむずがゆくも思ったのだった。

 そして周りのそういった反応は、学校の最寄り駅に近づくにつれて大きくなっていく。シュートと同じ学校へ通う中学生たちが乗車した途端、誰もがシュートを見て驚愕するからだ。


 「え、誰こいつ?」「こんな奴今まで乗ってたっけ?」「転校生、としか思えないよね?」「それにしても服のサイズ合わなすぎだろ」「でも、カッコいいよね?」


 同じ学校の生徒たちによる好奇や不審の視線は電車を降りた後も、駅から出て学校へ行く途中も、校門を通過してからも続いた。校門前に立っている生徒指導の教師もシュートを目にすると「こんな生徒いたかな?」といった反応を見せた。


 (知ってる奴…というかクラスメイトはまだ見ないな。始業時間まで少しだから教室にいるのがほとんどなんだろうな。ふ…あいつら俺を見てどんな反応するんだろうな)


 これから起ころうとしていることにわくわくさせながら校舎に入って上履きに変えようとするシュートだったが、自分の下駄箱に何か入ってることに気付く。中には丸められた紙屑がいくつか、そしてお菓子の包装紙や吐き捨てられたガムなどのゴミが詰めこまれていた。


 「………ほんっと、この学校には死んだ方が良いゴミクズがたくさんいるよな」


 上履きには画鋲らしき物で空けられた穴がいくつかあり、シュートを貶める落書きが書かれてもいた。その中に「ストーカー野郎」といった落書きが目に入った。


 「そういうことか。板倉の言ったことを真に受けて、それで俺にこんなふざけたことをしたクソ野郎が何人かいるみたいだな」


 シュートにとっては二週間近く前のことに思えるが、現実世界ではまだ三日前のことである。三日前から、板倉が中里たちとグルになって、シュートが彼女をストーカーしていた挙句告白してきた…という嘘を広めている。それはクラスだけに止まるはずもなく学年全体が周知することとなり、特に男子生徒たちがシュートが許せない、という風潮を形成していた。


 「見てもしないくせに、俺がストーカーだとか何とかだと決めつけやがって……っ」


 人間の醜さを思い知ってさらに憤るシュート。人は噂や何かを信じる際、「内容」よりも「誰が発信源か」を材料に判断するものである。この場合発信源は学年カーストトップであり人気ナンバーワンの女子…板倉ねねであった為、誰もが彼女の嘘を信じたのだった。


 そんな人間の信じることの心理など知る由もないシュートはますます怒りのボルテージを上げながら、下駄箱に詰められていたゴミを捨てて、使えなくなった上履きの代わりに体育館シューズ(偶然鞄に入っていた)を代用して教室へ向かった。


 「さぁ、今日は“俺だけ”がスカッとする一日にしてやる」







*PV数23万突破!(2022.5.25) 

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