二十五話「これは去勢だ」


 「あ”………っがぁ」


 シュートに殴り飛ばされた大柄の不良は、顎が外れて喋れなくなっていた。


 (な、何だこの力…!?いやそれ以前に、あのガキが“殺すぞ”って言った瞬間、マジで死ぬかと、思った……っ 何だよあれ、絶対誰か殺したことあるだろ……!?)


 殴られる直前に襲ってきた未知の力を思い出して体を恐怖で震わせる。まるで首元に死神の鎌を突き付けられていたかのよう。自分たちが報復しようとしている相手がとんでもない化け物であると、今さら気付くが、彼らはシュートが許さない限りもう逃げることが出来ない身となっている。


 「あ、あの先輩がぶっ飛ばされたぞ!?」

 「嘘だろ!?体重100kgはある巨漢なのに……っ」

 「つーかあいつ本当に中坊なのかよ!?」


 集団のリーダー格の不良が簡単にぶっ飛ばされたことに浮き足立つ不良たちだが、手にしている武器がある限りまだ有利だと思い直す。


 「調子に乗るんじゃねぇええ!!」


 一人の不良がバットを振り回してシュートに突撃しようとする。それを見たシュートはつまらなそうに溜め息をついていたが、接近間近まで来たところで不良が手にしていたバットを突如投げつけてくるのを目にした途端おっ、と目の色を変える。躱せる速度であり躱せるだけの反射反応を持つシュートだが、これもあえて受けてあげた。


 「おらぁ、この、クソガキがっ!!」


 不意を突いたつもりの不良たちがここぞとばかりにバットや鉄パイプでシュートを滅多打ちしにかかる。5秒、10秒とリンチが続くがシュートが苦悶の叫びを上げることはもちろん、苦痛に顔を歪めることすらなかった。それどころか殴りつけている不良たちが徐々にスタミナ切れを起こそうとしていた。


 「喧嘩慣れしてるな?投げつけてくるのは予想できなかった」


 まぁしようと思ったらできたんだけど、とシュートは心の中で呟く。スキル「近未来予知」で今の行動も予測できたシュートだが、そんなものを使うまでもないと高を括り、あえてスキルは使わなかった。完全に舐めプ状態である。

 やがて何もしないことに飽きたシュートは鉄パイプを一つ片手で受け止めて、一人の不良の動きを止めた。


 「………(ヒュ――――ッ)」


 そして空いている方の拳を鉄パイプに叩き込んだ。


 ――――ッ!!


 激しい炸裂音。次の瞬間、不良が持っていた鉄パイプの半分から先が折れて無くなっていた。それを目の当たりにした不良たちは顔を凍り付かせる。速過ぎるあまり誰もシュートが今放った拳など視認出来ていなかった。もし今の拳が鉄パイプではなくそれを持っていた不良の手首だったら、ぐしゃぐしゃに粉砕していたことだろう。


 ガッ 「ぐごぇ……!?」


 シュートは鉄パイプを持っていた不良の胸ぐらを掴んで軽々と持ち上げると、それを陸上競技の槍投げのように投げ飛ばした。


 「ぎ、ゃああああぁぁぁ―――(ドキャッッ)っが、あ”あ”………っ」


 受け身がとれないまま地面に激突した不良は、全身を痙攣させて藻掻き苦しむ。それを目にした不良全員が、恐怖に震えるのだった。


 「に、人間業じゃねぇよ……っ」

 「ひ、人をあんな風に投げるとか、化け物じゃねぇか……!」


 ある者は後ずさり、ある者は腰を抜かしてへたり込み、ある者は震える手で武器を持つのもやっと……など様々だが、誰もが最初に見せていた威勢など消失していた。


 「や、やってられるかよ!逃げるしかねぇよ!!」

 「逃げるってどこに!?ここはどこなんだよ!?」

 「で、出口を探せぇ!」


 次第に蜘蛛の子を散らすようにシュートから逃げ出そうとする不良を、シュートは逃がさないとばかりに電撃の魔術(スタンガンレベルの出力)を全員に放って、麻痺させた。


 「「「「「うごぇえ!?(し、痺れ……)(い、痛ぇ!?)(動けねぇよ!?)(た、助け……)」」」」」


 その光景はゲームで例えるならば、パラライズ(麻痺呪文)で動きを封じられたモンスターたちのようだった。シュートはゴミを見る目を向けたまま、近くに倒れている不良の前に立つ。


 「あ、あ………?」


 無言で見下ろされて何をされるのか分からないでいるドレットヘアの不良は、怯えた目でシュートを見上げる。次の瞬間シュートはその不良の襟を掴むと、頭上に高々と持ち上げ、そこから不良を地面に向かって勢いよく叩きつけた。


 ダァン!「ぐふぉ……!?」


 その際シュートはこの不良が後頭部を強く打って即死しないよう、背中が激突するように叩きつけた。それでもやられた側にとっては深刻なダメージで、肺から空気が出る苦しみを味わわされた。


 ダァン! ぐぃ、ダァン! 「ぐぼぉ!」「おげぇ!」


 それは一回では終わらなかった。倒れているドレットヘア不良の襟首を掴んで引きずり起こすと同じように頭上に持ち上げ、同じように地面におもい切り叩きつけたのだった。それを二度、三度と繰り返す。

 ドレットヘア不良は苦しそうな呼吸を繰り返し、地面に叩きつけられた時の挙動は殺虫剤を噴射されて足掻く虫のようだった。それから何度も宙を舞っては地面に叩きつけられる。


 「く、ふははははは……!」


 その間シュートは微かに笑っていた。自分がクズだと思う人間を、自分のこの手で存分に痛めつけて苦しめていることが、堪らなく爽快だと感じていたのだった。


 「も”、もぉ、許じで……ぇ」


何度目かの地面の激突でとうとう体が耐えきれなくなり、ドレットヘアの不良は痙攣し、血が混じった泡を吹いて気を失った。


 「これだよこれ!俺はお前らみたいなクズどもを、ゲームの雑魚敵みたいにこうしたかったんだ!良いな、良いなぁ!!」


 堪え切れなくなって笑い声を上げるシュート。不良たちにとってそれは悪魔の哄笑にしか聞こえなかった。失神しているドレットヘアの不良の状態は、背骨と肋骨が数本折れており、意識を戻したとしても自分で起き上がることは不可能だ。

 死んでいないのを確認したシュートはこれくらいの加減で大丈夫かと判断して、次の獲物を仕留めるべく歩き始めた。

 地面に転がっている不良達を一人ずつ、つまみ上げては地面に叩きつけていくシュート。何度も何度も地面に叩きつけられる不良達は全員、骨が折れて血の泡を吹いて失神するまでその仕打ちを受け続けたのだった。

 一人、また一人、地面叩きつけ地獄をくらっていく仲間を見て、不良たちは次は自分もああなると想像して全身をガタガタ震わせた。


 「た、助けてくれぇ!」「俺が悪かったぁ!」「もう逆らわないから!」「こ、殺さないでくれぇ!」「嫌だ、嫌だぁ!!」


 今まで何度も大人たちに反発して、色んな学生たちをいびり続けて威張り散らしていた、巷で悪名高い不良集団が、たった一人の少年を相手に命乞いをしている。


 「う、あああ……!」

 「だ、だから止めておこうって言ったんだよぉ!」

 「仕方ねーだろ!傷だらけの俺たちを見たリーダーがあいつを潰すって言い張ってたんだから……!」


 一度シュートにボコされている不良たちは、前回の惨劇のことも合わさった恐怖にかられている。シュートが自分たちに目を向けた瞬間、さらにガクガク震えだす。


 「お仲間をたくさん連れてきたから、俺に存分に仕返しができるって、思ってた?あんなにいた仲間たちがみんなやられちゃったんだけど、それについてどう思ってる?ねぇ、どう思ってんの?」


 三人の不良たちを見下ろして歪んだ笑みを浮かべて煽るように問いかけるシュートに対しても、彼らは怒るどころか恐怖に震えることしか出来なかった。


 「俺たちが悪かった……。もうしない、何もしないから、許してくれ、下さい!」

 「はぁ?あんなに仲間を連れて、しかも俺に対して嫌な笑みまで浮かべといてさぁ。それって明らかに俺を今のあいつらみたいにする気満々だったよな?初めから俺を潰すつもりだったよな?」

 「ち、違う、違います!先輩たちがあ、あんたを締めるって言ったんだ!ボコされた俺たちを見て、舐められてたまるかって!」


 金髪の不良が必死の形相で言い訳をまくしたてる。他の二人もそれに乗っかってしきりに頷く。


 「 嘘だろ、それ 」


 しかしシュートはそれを嘘であると斬り捨てようとする。


 「い、いや嘘じゃねー、じゃないですよ!?」

 「ほら。またどもったじゃん」


 指差して嘘を指摘するシュートだが、彼は別に確信してそう指摘してるわけではない。むしろ完全に当てずっぽうである。彼はいわゆる魔女裁判にかけようとしている。この不良たちが不良である以上、彼らが言うこと全てが嘘でありその場しのぎの言い訳に過ぎない、と完全に決めつけているのだ。


 「し、信じてくださいよぉ!!」

 「そう、それ!俺もさぁ、学校で虐められててさぁ。そのことをいくら先生どもに言っても誰も信じてくれないんだよな。あーこれが理不尽なんだって、いつも思い知らされるんだよ。で、お前らも今さぁ、そんな理不尽な目に遭ってるんだけど、分かる?」

 

 シュートは指差したまま少しおかしなテンションでそんな話をした。彼のペースについていけない不良たちは完全に放心していた。因みにこの不良たちの言ったことは実際嘘であり、シュートが指摘した通り彼らからシュートを潰すよう先輩たちに頼み込んでたのだ。


 (ん?……スキル“看破” “嘘を見破れる”だって?)


 不良たちの嘘を偶然見破ったことが引き金となって、新しいスキルを体得した。しかしここは異世界ではない。それなのにスキルを体得したことを、シュートは疑問に思った。


 (異空間のここでも何かアクションすればスキルがまた得られるのかな?まぁラッキー)


 気を取り直して三人の不良に向き直り、金髪の不良の腕をつかみ取った。


 「え……な、何を?」

 「だから何度も言ってんじゃん。手足を完全に壊して二度と外に出られなくしてやるってさぁ―――」


 ベキャ……ッ「~~~~~~~っっっ!!」


 有無を言わさず、掴んだ腕を捻じって骨を粉砕したのだった。金髪不良の口から声にならない絶叫が上がった。


 「あああ!あああああ!!」


 しかし金髪不良への惨劇は終わらない。シュートは続いて不良の脚に容赦の無いスタンピング踏みつけをして、同じく骨を砕いたのだった。


 「いぎゃああああ”あ”っっ」


 片腕と片脚それぞれから骨が飛び出して複雑骨折を負った金髪の不良を、シュートはゴミを見る目て見下している。ピアスと派手シャツの二人は「どうしてこんなことを」と疑問を呈する。


 「どうしてって、これは“去勢”ってやつだよ。お前らクズどもが今までみたいに誰かを傷つけないよう、手足を完全に壊して、自分の足で歩けなくしたり何も持てなくさせたりして、外を自分で出歩けないようにしてやるんだよ」


 シュートが言い放った悪魔の提案を聞いた異空間にいる不良たち全員が、顔を凍りつかせるのだった。





*PV数21万突破!というか20万超え達成!(2022.5.23)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る