二十四話「今まで人を殺したこともないくせに」


 その集団はシュートの姿を視認すると彼のもとへ近づいていく。誰もがシュートを探るようにまじまじと凝視している。同性からねめつけるような視線を浴びる趣味が無いシュートにとっては不愉快なものだった。


 (ん?あいつらは……)


 その集団の中に数人、数日前の夜時間、コンビニでシュートをカツアゲしてきた不良高校生たちがいた。それらを見てこの集団があの時と同じ不良集団であることに気付く。


 「おい、このムカつくくらいイケメン野郎がそうか?お前らをボコしたガキってのは」

 「え……?い、いや…あの時俺たちをボコったのはこんな奴じゃなかったような……」


 シュートにつけられた傷を包帯で隠している金髪の不良は戸惑いながら大柄の不良に答える。


 (ああ。急成長しちゃったからこいつらにも当然分からなくなってんだな。それにしても、こうして仲間を増やして連れてきたってことはもちろん……そういうことだよな)


 シュートはニヤリと微笑んだ。そして自ら不良集団のところへ近づいていった。


 「ふーん?わざわざ壊されにきたんだ?捜す手間が省けたな。しかもこんなにも同じクズの仲間を連れてきてさぁ」


 見下した態度と声音でそう話しかけると大柄の不良が苛立った顔でシュートを睨みつける。


 「なんだこのクソイケメン野郎、自分から近づいてきやがって」

 「おいそこの金髪と、ピアスに派手シャツの奴も。俺を捜してたんだろ?以前夜のここで、カツアゲしてきたお前らが、中学生一人に無様に壊されかけたんだよな?この、お れ に さ」

 「な、何言って………いや待て。よく見たらこいつどこかで………」

 「お、おい!こいつじゃねーのか!?夜だったからあまり覚えてねーけどこんな顔してなかったか!?」

 「そうだこいつだ!このガキに俺たちは………ガキ?」


 シュートが煽るように話しかけていくうちに、以前の不良たちはあの日の夜シュートに悲惨な目を遭わせられたこと、その張本人が目の前にいる彼であることを思い出して、震え上がる。しかし彼らはその顔に余裕をすぐに取り戻す。彼らの周りには以前よりも多くの仲間が付いているからだ。


 「ほーお?じゃあこいつが例の中学生ってことで良いんだな?どう見ても中学生には見えねぇけど」

 「そ、そうッす!確かになんかデカくなってるけど、こいつが俺たちをこんな姿にしたガキです!」


 金髪は大柄の不良に畏まった態度でそう答える。後者がこの集団のリーダー格なのだとシュートは確信する。


 「おいテメェ、可愛い後輩たちを随分甚振ってくれたみたいじゃねーか」

 「で?こんな朝早くから仲間を揃えてこんなところで俺を待ち伏せしてたってこと?どんだけ暇人なのお前ら」

 「昨日の夜もここで張ってたんだよ!いつまで経っても来ねぇってんで、こうして登校の時間に合わせて来たんだよ!このガキ、本当に舐めた口利いてきやがるなぁ」


 他の不良たちもかなり気が立った様子でいる。昨日の夜と今日の朝とでシュートがここを通るのをコンビニ付近でずっと待っていたのだから。その間とばっちりを受けた中学生・高校生は少なくなかったとか。


 「落とし前つけてやる」「こいつらがやられた分、倍にして返してやる」「救急車くらい呼んでやるぜ?」「霊柩車も呼んでおこうぜ?」


 他の不良たちが口々に何か言いながらバットや鉄パイプ、メリケンサックを用意して武装する。シュートを徹底的に潰すつもりでいる。

 

 「要するにお礼参りとかいうやつ?いやー助かるわ!自分たちから来てくれたんだから。なぁおい、言ったよな?必ず捜し出して、手足を完全に壊して二度と外に出られなくしてやる、って」

 「は、何を強がってんだ!?」

 「そ、そうだぜ!これだけの数を前にして粋がってられんのも今のうちだ、へへへ…!」


 シュートに睨まれた以前の不良たちはビクついた反応をするが仲間たちを目にしてすぐに強気になる。コンビニ付近で乱闘の気配を察した他の人達はわざと見ないふりして通り過ぎたのだった。そしてコンビニの店員…以前夜にシフトを入れていたアルバイトも同じように知らないフリをしていた。内心「せっかく時間変えたのに何でまたいるんだよ……」と嘆いてもいた。


 「丁度良いや。今日の復讐の前のウォーミングアップとして、お前らが二度とこんなふざけたことができなくなるまで壊してやる」

 「カッコつけてんじゃねーぞガキが!壊れるのはテメェの方だ!!」


 大柄の不良の怒声と同時に不良たちが拳・蹴り・武器を繰り出してシュートを襲いにかかった。


 (もう避ける必要も無いよな………“剛体”)


 あくびをしながらシュートは体を硬化させる意識をはたらかせる。その直後不良たちの攻撃をその身に受ける。しかし結果は、


 「ぎゃあああ、痛ぇ!?」「硬い、硬すぎるぅうう!!」「こ、こいつ、鋼か何かでできてんのか!?」「俺の手がお、折れちまったぁ!」「あああああ…っ」


 素手で攻撃した不良たちが拳や足を押さえながら口々に絶叫して、バットや鉄パイプで殴った不良たちの腕はジーンとした痛みに呻くというさまだった。そして攻撃をくらったシュートは、何事もなかったかのように伸びをしていた。


 「ば、バカな!?どうなってんだよこいつ……っ」 


 一斉攻撃が全く通用しなかったことに、残りの不良たちは早くも狼狽え始める。


 「あ、あの時と同じだ……っ」

 「あれは、夢じゃなかったのかよぉ」


 シュートに以前負傷させられた不良たちはあの夜のことを思い出して恐怖にかられていた。


 「うーん、これだけの数とやり合ってたらさすがに騒がしいよな。こんな朝早くだとなおさら。かといって一撃で終わらせてもしばらく経ったらまた同じことをするだろうし……」


 数秒黙考したのち、シュートは妙案を思いついた。


 「そうだ!これなら誰にも邪魔されないし、見られることもないじゃん!」


 一人で納得して勝手にはしゃぐシュートを、不良たちは不気味に思う。しかしその反応をしていたのも束の間、突然シュートが彼らを同じ箇所に無理矢理集めた。


 (“空間転移術”―――)


 そしてシュートは自分と不良たち全員を対象に空間転移させた。その行き先は……


 「は…?」「あ、あれ…?」「ここ、どこだ!?」「さっきコンビニ前にいたよな!?」「空が…!?さっきまでは明るかったのに……っ」


 今までのようなどこかの街や村などではなく、何も無い謎の空間となっていた。


 「ここが“異空間”か。初めて来たな」


 シュートが転移させた先は異空間。スキル「空間転移術」は本来、自身や対象のものをこの異空間へ転移させるものでもある。今まで対象の地へワープすることしか使っていなかったシュートにとって初めての異空間への訪れであった。


 「ど、どこだよここは――(ガン!)っぱあ!?」

 「うるせーな。ここは、お前らを絶対に逃がさない為の空間だってことだけ分かってれば良いんだよ」


 大柄の不良の顎を蹴り上げながらめんどくさそうに説明するシュート。手加減されていた為大したダメージを負わずに済んだ大柄の不良はすぐに起き上がって、シュートに殺意を込めた視線を飛ばす。


 「逃がさないって、それはこっちのセリフだろうがぁ!クソガキが、ぶっ殺してやる!!」

 「ぶっ殺す……?」


 大柄の不良が言い放った言葉にシュートは思わず反応してしまった。異世界へ転移する前のシュートなら、今の言葉を聞いても気にはしなかったであろう。しかし、異世界で既に十日以上も過ごしてきたシュートにとって、「その言葉」を聞いた途端、何故か不愉快な気持ちになったのだった。


 「 、何が“ぶっ殺す”だよ 」

 「「「「「っ!?!?」」」」」


 シュートがたった二言口に出しただけで、不良たちは得体の知れないプレッシャーに圧し潰されそうになった。これまでシュートは異世界で何度も、モンスターや盗賊などを相手に命のやり取りをしてきた。人や生物を殺すことがどういうことなのか、殺し合いの経験がまだ浅いシュートでも少しは分かるようになった。

 なのにシュートと違ってそんな経験を、誰かの命を奪ったことがない不良たちの先程の言葉は、酷く滑稽で、何も知らない奴が何言ってんだ、と思わされたのだった。同時に無性に腹も立っていた。


 「いいか、その言葉にはなぁ、そういうことをしたことがある奴にこそ、使う資格があるんだよ。こんな風に――」


 直後、スキル「威嚇」が発動され―――






 「    殺すぞ こら    」






 「――――――」


 ドンッッッ「っがぁ……っ」


 大柄の不良はシュートの「その一言」を聞いた瞬間、全身に刃物を突き付けられた錯覚が生じて、全身を硬直させた。そしてその直後に、その顔面にシュートの拳が入って思い切り吹き飛ばされたのだった。






*PV数19万突破・作品フォロワー数3000人突破・星評価数1000突破!(2022.5.21)

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