二十二話「異世界マイホーム」

*おまけ有りなので長め

2022.5.19追記:スキル一覧に一つ追加




 夜、シュートたちが村で就寝している頃…森の中では―――


 「う、うわあああああ!?」

 「く、来るんじゃねぇえええ………!!」


 シュートが再起不能にさせた盗賊たちが、夜になったことで通常よりも強くなったモンスターたちに襲われているところだった。足を欠損している為逃げるどころか立ち上がることすら出来ない彼らは、レッドドッグに捕食され、スライムに飲み込まれて溶かされてしまうのだった。


 「ち、ちくしょう!あの傭兵野郎からの頼みなんか断れば良かったんだ………。こんな、ことになるなんて――――(グチャ………)」


 最後の盗賊もそんな言葉を漏らす途中、オーガに踏み砕かれたのだった。


 盗賊集団が最初に襲った村から遠く離れたトッド村へ襲いに行こうとしたのには理由があった。それは傭兵ダンデ(シュートが村で返り討ちにした傭兵)に頼まれたからだ。

 ダンデと盗賊は実は裏で商売仲間として繋がっていた。ダンデは元は盗賊出の傭兵である。先日シュートによって苦汁を舐めさせられたダンデは、盗賊を使って彼とトッド村に復讐するべく動いていた。

 その盗賊が為す術無く全滅したことをダンデが知るのは、彼らと連絡が取れなくなってからのことである。





 盗賊たちを全滅させた日から数日後、約束していた用心棒を務める期間が終わる日が訪れた。シュートにとっては待ちに待っていた日であり、今日の彼は幾分か機嫌が良い。


 「村を守ってくれてありがとうね、シュート君!色々あったけど、この一週間楽しかったよ!」

 「いえ、どういたしまして」

 「何だか嬉しそうね?用心棒の仕事が終わったことがそんなに嬉しいんだ?私たちからやっと解放されたーって思ってたり?」

 「い、いやそんなことは……」

 「ふふふ、なんてね!」


 からかいに成功したサニィは楽しそうに笑う。そんな彼女にシュートは微かに胸をときめかせていた。この一週間でサニィとはほぼ毎日一緒にいることが多く、親しい感情も当然芽生えている。


 (誰かとこんなに楽しくおしゃべりしたのはいつ以来だろう。学校で虐められる前は、花宮やクラスの男子たちともこんな風に仲良くしてたんだっけ。今はあいつら全員敵にしか思ってないけど)


 現実世界ではシュートは友達と楽しく会話などしていない。誰とも親しい交流などしていない。そうなったのは中里たちによる虐めが当然原因となっており、学校での孤立はかれこれ一か月以上も続いている。


 (もしここに新しい学校ができたら、そこに通うのも良いかも。ここの村の人間たちが集う学校なら元の学校よりは楽しめるんじゃないか?友達になれるかどうかは別として)


 そんな妄想をしながら身支度をして、仮家を出て村の入り口まで移動していく。サニィやテムジがシュートを見送りに来ていた。他の村民も何人かはいたが遠目に見ているだけだった。他の村民たちが距離を置いているのは、盗賊の件が関係していた。保護した子どもたちから事情を聞いたことで彼らはシュートのことを冷酷な人間だと評価して、近づきがたく思うようになった。


 「それで、シュート君は村を出てからもこの世界の探検?それとも君が住んでいる世界へ帰るの?」


 シュートに近づいたサニィが誰にも聞かれないよう小声でそう尋ねた。


 「そうですねー、少し探検しつつやってみたいことをやってから、元いた世界に帰る予定です」

 「やってみたいこと?」

 「まぁ、成功したらまたここに来て教えます」


 それからテムジともお礼と別れの挨拶を済ませて、シュートはトッド村を発った。


 「また村に来てね!シュート君ならいつでもどこからでも来られるってこと知ってるんだから!」


 最後にサニィはそんな言葉を大声で言った。それくらいなら異世界転移のことはバレないから大丈夫か、とシュートは苦笑して手を振ったのだった。




 村を発って森を抜けて、最初に訪れた時と同じようなだだっ広い無人の草原まで移動したところでシュートは一旦歩を止める。


 「………よし。この辺で良いかな」


 シュートが村でぽつりと言っていた「やってみたいこと」、それは異世界での自分の「家」を建てることである。異世界で自分が使う家…拠点が欲しいな、とシュートは村にいる間ずっと考えていた。それも、なるべく現実世界の自宅と似た家を欲していた。間取りはもちろん電気やガス、水道もちゃんと使える現代の家を再現させたいと考えていた。


 「魔術を工夫すればさ、本当にあっちの世界の家を建てられると思うんだよなー。やってみよう」


 そう決めると背負っているリュックを足元に置く。ここを転移先の仮ポイントと見立てる為だ。


 「まずは土台、木材の調達から」


 「空間転移術」で先程通過した森林へワープして、片っ端から木を伐採していった。シュートは木造の家を建てるつもりだ。家を建てるのに十分な量の木を用意し終えると再び「空間転移術」でリュックがある地点へ繋げると木をせっせと運んでいった。

 全ての木を運び終えたところで草原へ戻り、家の土台の創造に取り掛かる。


 「おおおおお……!」


 土の魔術でコンクリートを量産させるところから始める。強くイメージし続けているうちにコンクリートが出来上がるようになり、それを大量に生産することで家の土台を完成させた。


 「(ぜぇ、はぁ)………ま、魔術の使い過ぎで体力が……」


 魔術の使い過ぎで疲労してしまい一時間程休憩。それから再び作業にかかる。用意した木に「作製」を発動して、家を建てる木材を造り上げていく。二階建てにする気はない為、大したサイズではない。

 完成した木材で家の骨組みを造り、家の外壁・外装も造っていく。それから中からコンクリートや木の壁を上手く使って内装も仕上げていく。


 (なんか……ところどころ間違った工程かもしれないけど、今は現実世界のちゃんとした家の完全再現までいこうとは考えてないから、こんなもんでいいか)


 外壁工事と床や内壁、天井といった内装工事、そして屋根工事も尋常じゃないスピードで仕上げていく。普通なら二~三ヶ月かかる工程を、シュートはわずか半日で完成させたのだった。もちろんプロの大工と比べれば不安定が残る出来となっているのだが、シュートにとっては満足いく出来だった。

 それから少し休んでから中の造作工事に取り掛かる。トイレ、キッチン、風呂、ベッド、照明具…今回は生活に最低限必要な物だけを製造した。

 土の魔術をフル稼働させていた為、いつの間にか土の魔術だけ高レベルなものへと進化していた。今のシュートなら錬金術を実行するレベルにまで進化したのだった。


 「(はぁ、はぁ、はぁ……)で、できた……!とりあえず、は……………(どさり)」


 夜が更ける前には中の様相もほぼ完成させるところまで進めたシュートは、疲労困憊の状態で木造のベッドに倒れ込んだ。


 「弱いモンスターと戦った時よりも疲れ、た………。寝具とかはまた今度、大都会とやらで調達しよ………zzz」


 そう呟いてから眠りにつくのだった。簡素で不安定さもあるが、シュートのマイホームが異世界の無人草原に建った。魔術さえあれば水道も電気も火・ガスも生成出来る為、生活費が全くかからない究極の自給自足の家が完成したのだった。



 翌日、家具を揃えるべく、大都市「コロッサン」にある店を回って寝具や食器、食卓に衣類などを購入した。それらを買う為のお金は今まで貯めていた使わないモンスターの素材と怪鉱石で余裕で工面出来たのだった。特にオーガの素材を見せた時は周りの人たちから大層驚かれたのだった。

 家の様相の完成も見えてきたシュートはご満悦といった様子で大都会からすぐ出て行った。


 「今日からまたモンスターと戦いまくって、力をつけよう。そろそろ元の現実世界での時間を過ごさないといけないし。

 何より、復讐したいしな……!」


 シュートが異世界に来て十日近く経っている。あまりこの世界に長く居過ぎると中学生で成長期であるシュートの見た目がまた変わる恐れがある。これ以上中学生離れした見た目になるのは元の世界では不便だろう、とシュートはそう考えている。



 家を建ててから約二日間、シュートは別の森や小さな洞窟などへ足を運んで多くのモンスターを討伐して、自身をさらに鍛え込んだ。

 

 あっという間に二日以上経ち、三度目の異世界転移から十日後、シュートは現実世界への帰還と元の世界での暮らしをしばらく続けることも決めた。出来たばかりのマイホームにしばらくの別れを告げて黒い渦巻きのところへ行こうとする。


 「今回はトッド村辺りに出現してたんだっけ。出来ればこの家から元いた自宅へ行き来したいんだけどな」


 そう独り言を呟いたその時、家の外から妙な音が聞こえてきた。不審に思って外に出ると、


 「いぃ……!?あの渦巻きじゃねーか!」


 異世界転移する為の黒い渦巻きが家の前に出現していたのだった。


 「もしかして俺がさっきあんなことを言ったから?それともただの偶然?まぁ今後もここを定位置にしてもらえばありがたいけど」


 そんな願望を口に出してから、シュートは現実世界へ帰還していく。


 「さぁ、準備は整った。明日から始まるんだ」


 「 今まで散々虐めをはたらいてきたクラスメイトどもへの 復讐が 」


 虐めの主犯である中里たちを復讐で壊すことを思い浮かべては、シュートは目を爛々とギラつかせるのだった―――






 大都市コロッサン。その中心地に存在する王城―――


 「………して、その村に凄腕のフリー戦士が滞在していたと、おぬしはそう言いたいのだな?」

 「はい。剣に長けており、杖を使うことなく魔術を放つことも」


 大きな椅子に座っている男は目の前で自身に畏まっている傭兵の言葉にピクリと反応する。


 「魔術を素手で放つ剣士だと…?そんな戦士がこの世に存在するというのか?」

 「この目で見た私自身ですら信じ難いことですが、今の言葉に嘘偽りはありません」


 傭兵…カロナは先日のことを思い出して汗を滲ませる。彼の態度を見た男は何か考える仕草をする。


 「トッド村と言ったな?そこに例のフリー戦士はまだ滞在しておるか?」

 「いえ…恐らくですが長くは滞在していないかと。既に別のどこかへ移動しているかと思われます」

 「行方は把握出来ず、か。まぁよい。そのような希少な戦士こそ、我が国の兵士に迎え入れたい。至急、トッド村に捜索隊を向かわせるよう指示を」

 「国王メテロ様の意のままに」


 男…メテロの後方に控えていた兵士が恭しい態度で応じた。彼こそがここシガネ王国の国王である。髪は短めの銀色、太い眉で鋭い目をしている。体は大きい割に体脂肪は少ない。若い頃は兵士だった時もあった身だ。


 「おぬしも大変興味深い情報の提供、大儀であった。カロナとやら」

 「恐縮です」


 カロナはメテロに一礼すると即座に退室していった。傭兵ダンデが盗賊にコンタクトを取っていた一方で、兵士の一人と繋がりを持つカロナはこうして国王たちにシュートのことをバラしたのだった。


 (あのガキの力は未知数……。奴がどうなろうが知ったことではないがあのまま自由に野放しさせておくのは癪に障る。王国に鎖で縛ってもらえれば少しは溜飲を下げられそうだ……)


 カロナはそんな考えを抱きながら王城を出て行った。



 自分の復讐を果たすべく元の現実世界へ帰ったシュートがいない異世界では、彼の思いもよらない事態が発生しようとしていたのだった―――




         **************


現時点での三ツ木柊人が体得しているスキル一覧

怪力 発動すれば強力な力を発揮する

瞬足 発動すればもの凄く速く走れる

剛体 発動すれば体が鋼のように頑丈になる

浮遊 

格闘術 現在中級

剣術 現在中級

空間転移術 自分と自分以外の人間を最大十人まで転移可能

解体 

作製 

識別 

乗馬

威嚇(モンスター相手に何度も殺意を向けたりオラついた態度をとっているうちに、スキルの気付きが生じて体得した)発動すれば格下の相手を萎縮させる 

治療(モンスターとの戦いで傷ついた体を自分で応急処置を何度もしたことでスキルの気付きが生じて体得した) 「治す」という意識を手に集中させて発揮すると対象の傷を治す。

全言語理解 

近未来予知 現在一秒先までの事象が予知可能

魔術:炎、風、電撃、水、土 *土魔術のみ五位階(世界最高)








*序盤の章はここまで。異世界寄りのエピソードがほとんどでしたが、次回からは現実世界でのストーリー進行が主体となります。



*PV数15万突破!(2022.5.17)ここまで到達したのは、自分の中では史上最速!

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