5. 必ず魔術皇帝になってみせるから
はっきり言って信じられなかった。
全ては魔神王の配下となった悪しき賢者たちによる、歴史の
僕の祖先は人類を守護した最高の英雄ではなく、最大の裏切り者ということになる。
いや、待てよ。
そうなるとマナシエル帝国は……。
予言にある『魔術皇帝』って。
「えぇ。恐らく封印から復活を遂げた『魔神王』のための国と玉座ね」
とても信じがたいが、エリシュナが嘘を話しているとも思えない。
そして僕は彼女の言葉が正しいと認識する。
極め付けはこの洞窟だった。
高度な土の魔術によって創造されたこの場所。
……もし『土の賢者』が『無の大賢者』の存在を隠すために創造したのであれば合点がいく。
属性検査に無属性がないのも、同じ理由なのだろう。
真実が紐解かれていくほど、自分まで邪悪な存在であるように感じる。
胃がムカムカして気持ち悪い。
エリシュナにとって、目の前にいる僕は仇そのものじゃないか……。
「だからエリシュナは、僕の名前を聞いて妙な反応をしたんだね」
「ごめんね……。でも本当はこの場所に来てくれた時点で、勘付いてた。その綺麗な金色の髪と大空のように澄んだ青い瞳は彼によく似ていたから」
彼——つまり『雷の賢者』ゼクシアに。
本来なら憎いはず。
悔しいはず。
何を賭けてでも制裁したいはず。
僕ならきっとそう思うに違いない。
でもエリシュナは違った。
彼女は最初に微笑みながら僕の心配をして、ギュッと抱きしめてくれた。
「……どうして?」
「アルスは、あの日の私と同じ目をしていたの。大切な人に裏切られて、誰も信用できなくなった悲しい目。その辛さは私にも分かるから。それにあなたは『雷の賢者』ゼクシアの子孫だけど、ゼクシア本人じゃないわ。そうでしょ、アルス!」
ドクン……ドクンッ。
心臓が痛いほど激しく高鳴る。
胸の奥が焦がれてしまうほど熱くなっているのを感じる。
エリシュナの言葉が僕を優しく包み込み、たまらなく愛おしい気持ちでいっぱいになる。
「エリシュナ、僕は決めたよ」
「え? 急にどうしたの?」
「これから一生懸命魔術が使えるように修行する」
「うん! 私もいっぱいお手伝いするから、頑張ろうね」
僕が決断したことは、魔術の修行に励むこと。
そしてもう一つ成すべきことを決めた。
真実の歴史を皆に伝え、認識を改めてもらうこと。
そのためには帝国の最強の存在、魔術師たちの頂点【魔術皇帝】になるしかない。
今まではゼクシア家の人間として憧れを抱いていただけだった。
でも今は違う。
自分の意思で、考えで、ならねばならない。
そう決意することで、僕の新たな人生の目標となった。
僕の瞳に再び輝きが宿る。
その様子を確認したエリシュナは、なぜかモジモジと恥ずかしそうにし始めた。
「そ、それはそうと、これからのこと決めていかないとだね。私たち、い、一緒に暮らすんだから」
一緒に……暮らす。
はわわぁぁぁぁ!?
確かに、そうなるのか!?
出会って間もないのに、それじゃまるで僕たち新婚夫婦みたいじゃないかぁぁぁぁぁ!
気持ち的に余裕が生まれたこともあり、つい年頃の考えが頭によぎる。
おっとヤバい。
顔を真っ赤にしていたら、よからぬ事を考えてることがバレてしまう。
「ねぇ……アルス、今えっちなこと考えてたでしょ?」
「か、きゃ、きゃんがえてないぉ」
しまった!
考えてましたと言わんばかりに噛んでしまった!!
◇
こうして、僕とエリシュナのイチャイチャパラダイス……ではなく、二人暮らしが始まった。
森林地帯なだけあって果実の木や川があり、食料調達には困らなかった。
自分で料理をしたことはなかったので、単純に炒めることしか出来ないがそこは我慢してもらう。
まずはエリシュナの体力回復に努める。
リハビリに真摯に向き合う彼女を時に手伝い、時に応援する。
二週間が経過した頃には、ゆっくりとだが一人で歩けるようになった。
「アルス、今の見てた? 私ちゃんと歩けたよ!」
「ばっちり見てたよ! やったね、エリシュナ!」
僕も自分のことのように嬉しくなり、ついつい喜びの余りギュッとハグしてしまった。
少しして恥ずかしくなり、パッと離れる。
「あ、ごめん。つい……」
「ううん。その……アルスがギュッてしてくれて嬉しかったし。もう少しして欲しかったかも——やっぱなんでもないっ!」
彼女のこういう反応は、可愛すぎてたまらない。
数日前に知ったことだが、エリシュナは十五歳らしい。
成人女性で大人びた雰囲気は漂うが、時々子供っぽい仕草が垣間見え、その度ドキドキさせられてしまう。
エリシュナが身体を動かせるようになってからは、二人で家を建てた。
リビングにダイニングにキッチン。
お風呂にトイレ、そして寝室。
もちろんベッドは二つ作っておいた。
ただ寝る時は必ず一緒のベッドに潜るようにしている。
お互い何を言うこともなく、自然と手を繋ぎながら眠りにつくのだ。
この気持ちはエリシュナも同じなのだろう。
もし起きた時に隣にいなかったら……。
時々そんな不安に駆られてしまうからだ。
「ねぇ、アルス」
「どうしたの?」
「私の体力もそこそこ戻ってきたし、いよいよ始めよっか。……魔術の訓練」
「……うん」
僕は小さくそれだけ答えておいた。
いよいよ始まる。
魔術が使えるよう、頑張るんだ。
そして絶対に【魔術皇帝】になってやるんだ。
僕をどん底から救ってくれた、大切なエリシュナのために。
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