第36話 引き抜き
独立を果たしバタニアと戦争状態となったからには、戦力を拡充させなければならない。俺の部隊ひとつでは広い領地を守り切れないからな。
そこで頼りになるのが配下を部隊長として編成した別部隊である。現在すでに丘野ネリックや学者のダシュワルを部隊長として部隊を率いさせている。部隊長としても彼らの専門スキルは役に立つ。
部隊を運営するには金がかかるが、経済的に余裕があるなら可能な限り別部隊を編成しておいたほうがいいだろう。
彼らを自分の軍団に組み入れるときは影響力を行使する必要などないし、彼らが戦場等で活躍すれば、それはタイラー家の功績となる。
領地を巡回して盗賊退治をしてくれたり、自部隊や拠点の駐留兵の補充のためにも使える。
戦力として存在するだけでもクランの戦力評価が高まり、新領主の候補の算出等に寄与することになる。
しかし、1クランの部隊だけでは、大軍団から領地を守るのも国を広げていくのも厳しいものとなるので、さらなる戦力拡充を行う必要がある。
戦力拡充の方法のひとつは、他国のクランを勧誘説得して引き抜くことである。
交渉に応じてくれるかどうかは相手との関係や相手の境遇、こちらの資金の状況等に左右される。特に領地を失った諸侯は引き抜きに応じやすい。
俺には以前やった脱獄行脚のおかげで、仲の良い諸侯が多い。バタニアに領地を奪われてた者もいる。勧誘対象の候補は多い。候補のクランのリーダーを訪ねてどんどん勧誘していくことにする。
アンプレラからさらに東のほうでは北帝国がフーザイトと激しく戦っていた。北帝国はバタニアに構う余裕はなさそうだ。
そのような中、俺は北帝国のヴァタツェス家のマリツィオスを訪ねた。マリツィオスは領地を失っており、俺との関係もかなり良好なので、勧誘に応じてギオン皇国に加わってくれる可能性が高いと見込んでいる。
そういえばルスティカの家族はこのクランにいるのだったか。いまだにホンジェロスに理由は不明だ。ホンジェロス家に嫁いだ後、未亡人になってしまったのか。……まあ詮索すまい。
「おお、ムジョーか! 本当に会えて良かった。それで、何の用だ?」
「相談したいことがある」
「ふむ。何だ?」
「正直に教えてくれ。あなたの主君ルーコンのことをどう思う?」
「何が言いたいんだ?」
「私がカルラディアの正式な支配者だ。あなたの力を借りたい」
「君は私の友人だ。だがそうであっても、これは危険な会話だ」
「あなたの友人として、誰であれ、この会話については一言も漏らさないことを誓う」
「それは信頼できるが……。私はルーコンに忠誠を誓った。それを破ることは、どんな理由があろうとも、私の名誉を大いに傷つけることになる」
「政治において誓約などいとも簡単に交わされ、同じくらい簡単に破られることはよく知っているだろう」
「……だめだ。簡単に誓約を破ることはできない。ルーコンは私の友人だ。彼を裏切ることなど考えられない」
「あなたの領地や利益を最優先で考えてみるべきだ。その選択はあまりに危険だ」
「だめだ。なぜ今寝返る? 一度反逆者を名乗った者は、後戻りできない」
「あなたは勇敢さで有名だ。運命は勇敢なものを好む。我々が共に戦えば、このカルラディアにおける戦争の勝利は目前だ」
「だめだ。私の誓いは絶対だ。それを破ることはできない」
マリツィオスの説得に失敗した。あともう少し、という手応えは感じていたのだが。
仕方ない。次行ってみよう。
同じく北帝国のアルゴロス家のマンテオスを訪ねる。やはりフーザイトを戦うために近くに来ていた。
マリツィオスと同様、引き抜きの説得交渉をした。
「なるほど……いいだろう。君の言う通り、一考の価値がありそうだ。だがこれは危険な行為で、私自身と民を危険にさらすことになる。忠義を尽くす相手を変えろと言うなら、何らかの援助をしてほしい」
引き抜きの際には金を渡す必要がある。だいたい数十万デナルかかることが多いようだが、マンテオスはお友達価格で応じてくれた。
ああいう風に言っていたが、すでにルーコンを見限り、領地の余っていそうな俺の側に付きたかったようだ。
マンテオスはエピクロテアの元領主だ。俺に付いてバタニアに勝てればカラドグからエピクロテアを取り戻すこともできるかもしれないしな。
この調子でさらに勧誘を続ける。
北帝国のドレントス家のギフォールを勧誘成功。彼には22万デナル支払うことで引き抜くことができた。
セラパイトのフォーファリオスも勧誘する。
俺がまだ南帝国の傭兵だったとき、初めて戦った貴族がフォーファリオスだった。チュートリアルの舞台だったテヴェア村を彼は襲撃して焼いていたんだよな。それを打ち破ってフォーファリオスを捕縛し、すぐに放免してやったらすごく感謝されたっけ。
そのおかげか、彼もお友達価格でギオンの傘下に入ってくれた。
さらに戦力を高めるため傭兵を雇うことにした。
傭兵を雇うには傭兵クランのリーダーと交渉して契約を結ばなければならない。居場所を見つけて訪ねていかなければいけないのは多少面倒ではある。それでも国の立ち上げたばかりなので戦力が欲しい。そういうとき傭兵は有用なのだ。
近くにいたエレフセロイとウルフスキンと契約できた。
エレフセロイは帝国の端の草原地帯に住む遊牧民の傭兵だ。傭兵として雇われていないときは野盗のようなこともしているらしい。
ウルフスキンは蛮族的な生活を楽しむ集団でバタニアと敵対していたはず。バタニア人らしく弓が強い。初めて脱獄チャレンジしたときに団員を死なせてしまったことがあったな。死んだ団員分のメンバーはすでに補充してあるようだった。
傭兵クランはすぐにメンバーをできるようだが、貴族クランはそうはいかない。人員の補充は次の世代が成長するのを待つしかない。構成人数の少ない貴族クランに戦死者が出たら、大幅な戦力ダウンになってしまう。
だから攻城戦など、激しい戦闘が予想される場合、貴族クランより傭兵クランを優先して召集して戦うようにする。傭兵はすり減らしてなんぼだ。
ただ、傭兵は寝返りやすいし、いきなり契約を打ち切ることもある。俺も傭兵時代に脱獄修行のために散々やってきたしな。そういうことがあるということには留意しておくべきだろう。
とにかく、これで一気に3つの貴族クランと2つの傭兵クランを戦力とすることができた。独立建国から短時間でこの結果はかなり順調だ。
これだけの戦力があれば、バタニアに対して攻勢に出ることもできるぞ。
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