第32話 ともあれサナーラは滅ぶべきである

 リシア海峡を渡るアセライの軍団はガロントール城を目標としているようだ。ガロントール城はオルティシアの西に位置する西帝国領だった城だ。カルラディア本土側でリシア海峡に最も近い拠点である。俺は関与していないが、俺がラゲタを落としたあとに、別のバタニア軍が西帝国から城を奪っていた。


 俺の部隊はアセライ軍をやり過ごして避け、海峡へ向かう。アセライの軍団に合流しようとする後続部隊を各個撃破できるかもしれないと考えたからだ。


 リシア海峡と言えば隊商狩り。後続部隊は現れなかったが、アセライの隊商を発見したので、久しぶりに海峡を利用して隊商を狩った。



 その後、海峡を渡りアセライの領土に侵入し、部隊の兵の補充のため村々で兵を供出させる。その最中にアセライの単独部隊を発見、追跡する。



「速いな……いや、こちらが遅いのか。砂漠は厄介だな」


 敵部隊に追いつけず逃げられてしまった。


 アセライはペラシック海の南岸全域を領土としている。その地の大半はナハサ砂漠だ。その砂漠に不慣れな者たちでは行軍速度が落ちてしまう。砂漠の原住民であるアセライの戦士たちはそうはならない。

 さらにアセライは馬の産地も多く、部隊の騎兵と弓騎兵の構成割合が高いため、その辺の国の軍よりも行軍速度が速い。

 よってアセライ軍にとってナハサ砂漠での外国勢力相手の防衛戦は非常に有利なものとなる。『ナハサは軍隊をも飲み込む』といわれ、最盛期の帝国でさえ手を出すことを躊躇していたという。



 その後オルティシアに戦利品の売却と休息のため向かったところ、アセライ軍に海峡近くにあるガロントール城を落とされていた。そしてそれをバタニア軍が攻めようとしている。


「ムジョーよ、まずいのではないか? まだ近くに城を落としたアセライ軍がいるはずだ」


「ああ、援護できるように俺たちも兵を集めよう」



 オルティシアで兵の集結を待ちつつ休息をとっているとアセライ軍にガロントール城を包囲していたバタニアの軍団が負けたという知らせが入った。


「間に合わなかったな」


 オルティシアを出てガロントール城方面を探ってみると、すぐにアセライの軍団を発見することができた。その戦力は950。アセライ軍は次にラゲタ攻略に向かうようだ。


「ラゲタ防衛には間に合うはずだ。兵を追加で召集しよう」


 敵の規模はわかっているから、それを十分打ち破れるだけの兵を集める。


 

 兵が集結し戦力1200となりアセライ軍を追う。するとラゲタの北からカドラグが率いる戦力850バタニアの軍団がアセライ軍の迎撃に来ていることがわかった。


「アセライ軍を北と南から挟撃するぞ!」


 アセライ軍を捕捉し、都市ラゲタの目前での会戦となった。バタニアは二個軍が合わさり戦力的にアセライの2倍以上になった。これはもう勝ち戦である。あとはいかに兵の損耗を抑えて勝つかということになってくる。

 戦場でカラドグとうまく連携しなければいけない。とは言え、こちらはお構いなしにカラドグは勝手に動く。我が軍はそれに合わせて動くべきだろう。


 戦争続きで練度の低い兵の比率が高い我が軍に対し、アセライ軍は兵の質が高そうだった。騎兵も多い。


 カラドグ軍が右翼、我が軍は左翼に並び、敵軍に向かっていく。アセライ軍からは騎兵が向かってくる。敵騎兵に対処しようと部隊を向けた。だが敵騎兵は弓矢とジャベリンで攻撃してきて深くは突っ込んで来ない。思うように敵騎兵を減らせなかった。


 先行するカラドグ軍とアセライ軍の歩兵同士が激突。すぐに我が軍の部隊をそこにぶつけたかったが、敵騎兵に翻弄され陣形を崩していたため間に合わず。カラドグ軍の歩兵第一陣が瓦解。その後は乱戦となっていく。仕方がないので数で押すしかない。混沌とした戦場となり消耗戦となった。アセライの兵は精強で、個々の局面ではやられてしまうバタニアの兵も多い。


 結果を見るとアセライ軍は半数以上が戦死して壊滅したが、バタニア軍の戦死者はそれを上回った。苦い勝利となった。

 やはり指揮系統が違う二個軍での共同作戦は難しい。俺が国の指導者として全軍の指揮を握っていればもっとマシな戦いができたと思う。やはりカラドグの下をいつかは離れなければいけないな。


「ちょうどいいところに来てくれたな、ムジョー」


 カラドグからは感謝された。まあカラドグ軍だけでは勝てなかったからな。我が軍だけで戦っていても損害はもっと大きいものになっていたかもしれない。


 ともあれ、この勝利でアセライの有力諸侯を捕虜にできたし、アセライの戦力を大きく減らせたのは間違いない。バタニアがアセライに逆侵攻をかけることもできそうだ。


 その後ラゲタに入り、勝利で得た戦利品と捕虜を売却した。大規模な戦いだと、その利益は大きなものとなる。

 ちなみに請負人に売却したのは一般兵の捕虜で、諸侯の捕虜は戦争が終わるまで捕らえておく。まあすぐに逃げ出されることも多いが……。それでも敵の将は少ないほど敵の動員できる兵力も少なくなるため、なるべく捕らえておく。



 ラゲタで軍団を解散し、アセライ領の西の玄関口である都市クヤーズ近辺で威力偵察を行う。またアセライが何かしようとするならここで軍を集結させるはずだからな。


 クヤーズ近辺には盗賊が蔓延していた。大規模戦闘が起こるとその後盗賊が増える。脱走兵や敗残兵が賊に身を落とすのだろう。アセライは戦争で治安維持に手が回っていないようだ。


 賊退治をしようとするアセライの部隊を発見した。

 戦闘後はすばやく部隊を動かせなくなる。敵部隊が賊退治で戦闘を始めたら、そこに近づき、賊との戦闘を終えた部隊に接敵する。

 この方法で砂漠で速いアセライの部隊でも捕捉することができた。


 こうして敵単独部隊をサーチ&デストロイしていると、アセライの指導者ウンキッドの部隊も倒すことができ、ウンキッドを捕虜とした。その勝利で、先の大規模戦闘よりも俺の名声が上がったようだ。


 アセライが再び軍団を組もうとしているという情報をキャッチすればこちらも部隊を集めて撃破する。そのような感じで俺が主導権を握る形で敵を撃破していく。

 そうしているとバタニア軍がガロントール城を再奪取した。


 そのままバタニア軍はアセライへ逆侵攻を開始。クヤーズをカラドグが攻め始めたので俺も加勢し一緒に落とした。


 その後もアセライの部隊を狩りまくり。数十人単位で敵将を捕虜にした。アセライの出してくる戦力が目に見えて乏しくなった。この状態になれば切り取り放題である。

 どんどん侵攻し、ウンキッドの本領、アセライの首都とも言える大都市サナーラをも包囲する。


 ペラシック海に流れ込む大河の河口に位置するサナーラは、穀物の生産が旺盛で商業的にも栄えている。アセライの国力の源泉だ。ここを叩けばアセライにとって大きな打撃となるだろう。


 サナーラの包囲に対して、さすがにアセライの防衛の軍団がやってきたが、我が軍の戦力のほうが上のため、手を出してこない。攻城戦に失敗しない限り問題とならない。

 

 サナーラの抵抗は激しかったが、それでも十分な兵力で圧倒し攻略に成功した。


「思う存分略奪しろ」


 サナーラは、バタニアの支配下に置かれることになったが、バタニア本領からペラシックを越えて遠く離れた地。どうせ維持できないので壊滅させることにした。

 なんだかカルタゴみたいだな。そういえばカルラディアと地球を比べてみると、サナーラとカルタゴは地理的にも似た位置だ。


 兵たちに好き放題略奪をさせ、あとは焼き払わせた。都市の攻略後は、住民には危害を加えない程度に略奪させるのがスタンダードだが、今回は住民も建物もどうなっていいから根こそぎ奪ってしまえという感じだ。

 これで兵たちの懐も潤って士気が上がる。部隊の資金的にもまとまったデナルが獲得できる。元の領主だったウンキッドやサナーラの名士たちからは大変嫌われ、味方の軍団内でも壊滅に反対していた慈悲深い諸侯との関係が悪くなる。逆に賛成派の冷酷な諸侯との関係は良くなった。


 壊滅させるといっても、めいっぱい略奪させるだけだ。カルタゴを征服したローマは塩をまいて人が住めなくしたらしいが、今回はそこまでするわけではない。この後一応バタニアが統治を始めるしな。


 だが、サナーラはいずれアセライに奪還され、その繁栄力でアセライの戦力を復活させるだろう。そのようになるのは目に見えているため、個人的にはローマがやったように徹底的に滅ぼしてしまいたい。

 うん、しばらく演説の締めはこうしよう。


『ともあれサナーラは滅ぶべきである』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る