第31話 サーゴット

 我が軍の戦力とサーゴットの守備兵との戦力比は900対450といったところ。サーゴットは以前に攻撃を受けたことがあったようで、破損した城壁の構築が間に合っておらず、城壁の高さがあまりなかった。こちらの砲撃でさらに損壊している。城壁の突破は易そうだ。


「者共、かかれ!」


 人数差が大きく、こちらの投石機による砲撃の援護もあり、歩兵が城壁に取り付く前の射撃戦から我が軍が大きく優勢だった。


 敵には破城槌を抑える手段もなく、城門もすんなり破壊することができた。

 城門を突破した後の歩兵戦もやはりこちらが優勢に進んだ。俺も敵歩兵集団の背後に回り込むことに成功し、リーパーで敵を背中から切りまくった。


 左右の城壁を乗り越えてきた味方歩兵も城門の敵歩兵集団の後ろに回り込んできた。包囲され始めた敵歩兵は瓦解し潰走した。


「逃がすな! 追え!」


 天守に逃げ込む敵を可能な限り追撃した。


 最後に天守まで逃げ込んだ残存兵が抵抗するも、問題なく殲滅終了し、サーゴットの攻略が成った。

 終始優勢に進んだため兵の損害も少なかった。



 サーゴット攻略後、ウランジアとの和平について賛成の意を返す。三正面作戦など避けられるなら避けるべきだろう。


 次いでサーゴットの新しい所有者の選定も行われた。今回はカラドグは候補に挙がらず、俺は候補に挙がった。結果、サーゴットは俺の所領となることに決まった。これで俺も土地持ち貴族だ。貴族を名乗り始めてから4年かかったな。


「ムジョーよ、ようやくタイラー家の領地が手に入ったな」


「おめでとう、ムジョ兄」


「ああ、ケチなカラドグには辟易したが、サーゴットを領地とできたのは悪くないな」


「そうなのか?」


「ここからさらにウランジア領を切り取っていけば、我々の領地にできる可能性が高い。大陸西岸のウランジア領を領地とできれば前線を東側に限定し、安全な後方の地を確保することができる」


「なるほどな。そうなればサーゴットは重要な拠点となるな」


「まあ、それは今もそうなんだが」


 ウランジアからすればサーゴットを落とされたことで、東部への経路を完全にバタニアに塞がれた形になったからな。和平こそしたが、ウランジアはすぐにでもサーゴットを取り返したいだろう。


「クランから誰か代官を置くのか?」


「そうだな。統治者はウランジア人のレオソルドがいいだろう」


 レオソルドは修道院に入れられ薬草医として学んだとか。だが修道院の生活を好まず野に下ったらしい。そして酒場で飲んだくれていたところを、学者のダシュワルに何かあった時のための軍医の補欠として俺が雇っていた。

 レオソルドは家令として能力も多少あった。これは都市運営においても有用だ。


「そうだ、アイシーン。お前も将来統治者となるかもしれないからな、都市の統治について教授してやろう」


「うん」


 統治者の持つスキルによって治政にも優位な効果をもたらす。武力の高い人物なら守備兵も強くなるし、工学に秀でているなら都市建設が早く進められたりする。


「アイシーンが統治者になったら街の復興も早まることだろうな」


「わたし、もっと勉強する!」


「頼みにしてるぞ、アイシーン」


「えへへ」


 スキルで判断するのもいいが、征服したばかりの都市は領主への忠誠が低いため、統治者と都市の文化の一致も重要視したほうがいい。異文化の統治者だと反発が大きいものとなるのだ。ウランジア文化のサーゴットはウランジア人を統治者にするといい。


 住民の反発が大きく忠誠度が低いと都市が機能せず、都市の発展も税収も見込めない。最悪反乱されてしまう可能性もある。都市を手に入れた場合は、まず忠誠と治安に気を配らなければならない。


 忠誠や治安は、統治者の文化以外にも様々ことが関係する。


 まず、国の政策方針として、忠誠や治安の向上を見込める施策を提案して通すことはかなり効果的だ。例えば、債務免除なんかを行うと民衆にかなり喜ばれるはず。日本的に言うと徳政令だな。


「ニホン? トクセーレー?」


「あ、ええと、フーザイトよりももっとはるか東の島国の話だよ」


「そうなんだ! ムジョ兄は何でも知ってるね」


 地元の名士と良好な関係を築くことも大切だろう。

 駐留兵の戦力は治安に直結しているし、近辺に盗賊のアジトがあると治安が悪化するので潰したほうがいい。


 周辺の村が焼き討ちされたり、都市が食糧不足に陥ってしまうと、民心が離れ、治安も悪くなり、最悪反乱が起きて領地を失ってしまうことになる。


 食糧不足の場合は都市や村の市場に穀物を大量に卸してやるといい。侵略するときは、軍団の分の糧食だけではなく、攻略後の都市の分の食糧も前もって用意しておくのが理想的だ。


 領主になれば都市機能を充実させるための都市建設やプロジェクトの指示できる。

 忠誠や治安を高めることもできるが、そもそも忠誠や治安が低すぎると指示が実行されない。

 都市が危険水域を脱して安定していれば建設が進められるようになる。忠誠や治安の他にも食糧、守備兵、税収などの向上を見込める建造物を造ることも可能だ。

 クランの資金を領地に投入して建設を早めさせることもできる。


 食糧供給、建設資金の投入、駐留兵の賃金と落としたばかりの都市は金がかかる。税収で黒字化するのは時間もかかるし、いいことばかりではないな。


「ムジョ兄に反発するやつらなんてどうなってもいいのに」


「まあそう言うなよ。手懐ければどんどん金を貢いでくれるわけだからな」


 サーゴットは開戦後あっさり攻略したし、すぐにウランジアと和平したこともあって村が焼き討ちされりこともなかった。周辺が戦争状態にないので村人も隊商もどんどん出入りでき、物流が円滑に行われ、物資の不足も解消されていっている。

 だからサーゴットは陥落直後でも安定していた。差し当たってレオソルドに任せておいて問題ないだろう。

 これからサーゴットはタイラー家に安定した収入を与えてくれるはずだ。



「北のスタルジアと南のアセライ、戦場が全く反対側だな。ムジョー、どうする?」


「サーゴットを得た以上、スタルジア方面で戦ってもうまみが少ない。それにアセライがラゲタではなく、サーゴットを狙ってくる可能性もある」


「そうか。ならばタイラー家は対アセライに専念するか」


「ああ。だがスタルジアとの戦況も気になるな。バタニアに負けてもらっては困る」


 アセライは戦力充実している可能性が高く、それに対抗するための戦力をスタルジアでいたずらに消費されるのはまずいのだ。



 アセライ軍の動向を探りつつ戦果を得るため、サーゴットを発ち、南へ向かう。

 するとアセライの軍団がリシア海峡を渡ろうとしているところを発見した。そのとき、スタルジア方面でバタニアの軍が劣勢にあるとの情報も入った。

 詳細は不明だが、こういうときは大概そのまま軍団は壊滅してしまうのだ。


 俺はすぐさまスタルジアとの和平を提案した。バタニアがスタルジアに献上金を支払うもので、反対の声もあったが、影響力を行使して議決させ和平を成立させた。


「よし、これでアセライに専念できるな」

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