第30話 妹アイシーン

 俺は領地を持たぬまま武功を重ねていく。


 カラドグの軍団が城を包囲中に、より有力な敵軍団に迫られピンチとなっていたところを救援したりもした。カラドグは憎たらしいが戦争で負けるわけにはいかないからな。


 そのときの戦力比は、我が軍が約900、カラドグ軍が500、ガリオス軍が1000。狭い谷あいでの衝突となり、戦術を活かせず消耗戦となった。数で大きく上回っているので普通にこちらが勝ったが400ほどの戦力喪失となった。理想としてはもっと損害なく勝ちたい。


 この消耗戦で厭戦感情が高まったのか、西帝国とは和平が成立した。西帝国からバタニアへ結構な額の献上金が継続的に支払われることになる。期限はない。

 西帝国にとってかなりの負担であるし、屈辱的なものであるから、また遠からず約定を反故にし戦争になるだろう。




「ニア兄、ムジョ兄……久しぶり」


 転生からちょうど4年後の夏の日、18歳となり成人した妹――アイシーンを部隊に加えた。


 アイシーンは成人しているが昔と同じようにちっちゃくて可愛かった。あまり身長が伸びなかったようだ。ひいき目に見ても顔は美人という感じではない。髪はもじゃもじゃだ。まあ俺もニアセンも天パだからな。


 ガルターからの救出後、アイシーンと弟ファロクには部隊の運営や貴族としての教育を受けさせている。アイシーンには攻城兵器の組立や都市建設に必要な工学を学んでもらった。工学にほぼ全振りだ。おかげで極めて知的能力が高い子に育った。


 今後は部隊の技術者担当として頑張ってもらうことになる。知識だけでは即戦力とはならないだろうが、実戦で鍛えられればすぐに伸びるだろうし、最終的に工学を極めることもできるだろう。そうなれば攻城戦も効率よく素早く攻略できるようになるはずだ。期待しかない。


 他に技術者として目ぼしい者が在野で見つからなかったので、技術者はアイシーン頼みとも言える。抜けられると非常に困るので、アイシーンを嫁に出すことはありえない。シスコンだからではない。……いや、そんな気持ちが全く無いわけでもないかもしれない。とにかく妹は嫁にやらん。




 数日後、ウランジアへの宣戦の提案がなされ、賛成多数で議決し、カラドグが宣戦布告を出した。

 俺は宣戦布告直後、サーゴットの近くにいた敵部隊を攻撃する。その後、事前の軍隊召集は間に合わなかったが、すぐにサーゴット攻略のための軍団を編成する。

 召集をかけておいて、先に俺の部隊単独でサーゴットの包囲を開始した。包囲している間に他の部隊も集まってくる。



「ムジョーよ、アセライがバタニアに宣戦布告したという知らせが入ったぞ」


「そうか。……おそらく落としたばかりのラゲタが奪いやすいと見込んだのだろう」


「ウランジアと二正面になってしまうな」


「ムジョ兄、このままサーゴットを包囲してていいの?」


 サーゴット包囲は技術者アイシーンのデビュー戦だな。いろいろ初めてのことが多く、不安もあるのだろうな。


「ああ、問題ないよ、アイシーン。そのまま続けてくれ」


 バタニアとアセライとの間にはオルティシアなどの西帝国領がある。アセライの大軍勢がやってくる可能性もあるが、兵站の問題もあるし、仮にラゲタが落とされたとしてもアセライが維持できる見込みは低い。

 バタニア本領はラゲタの隣だが、アセライ本領は海峡を越えて遥か彼方。多少負けてもバタニアのほうが兵の補充が容易なので、すぐに巻き返せるはずだ。


 だからあまりアセライにかかずらわず、ウランジアに注力すべきだろう。地道にお隣さんから併呑していくのが正解なのだ。



「ムジョーよ、議会にウランジアとの和平の提案が出されたようだぞ。賛否を知らせよとのことだ」


「対アセライに専念しろと? 日和った奴がいるようだな。サーゴットを落とすまで返答を出すな」


 こういった議会の議決は、俺の投票である程度タイミングを左右することができる。48時間以内という期限はあるが。



「旦那! スタルジアからも宣戦された!」


 サーゴットの包囲中さらに北方のスタルジアからも宣戦布告を受けた。こちらはエピクロテアを狙っているのだろう。

 バタニアとスタルジアは国境を接し、土地を取ったり取られたりしていたが、それは辺境地帯の話だった。

 しかし、今までの紛争とは違い、エピクロテアは帝国の大都市である。雪深い北方の国であるスタルジアにとって南下政策はの悲願である。その南下を防波堤となって妨げていたのがエピクロテアだった。


「エピクロテアもウチが落としたばかりで防備が整っていない。スタルジアにとって念願のエピクロテアを征服できるまたとない機会か。スタルジアも攻めてくるはずだな」


「これで西のウランジア、南のアセライ、北のスタルジアと、三正面であるな」


「ムジョ兄……」


「ここまで来たんだ。サーゴットは落とす」


 兵も十分に集まり、アイシーンが組み立てた攻城兵器で敵方の兵器も一掃できた。攻城戦の準備は整っている。サーゴット攻略を始めるとしよう。

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