第29話 領主選定会議
「くそ、カラドグめ!」
都市エピクロテアの新しい領主を選定する会議が行われた。
こういった選定は候補者三人の中から議会で多数の支持を受けたものが選ばれる。通常、王は議決を追認することになる。ただし、最終的な決定権は王にあるので、多数決の結果を覆すこともできる。そのぶん王は影響力が必要となるし、無下にされた者からは反感を買うことにもなる。
エピクロテアの領主の候補者は、俺と、カラドグと、もう一人貴族が挙げられた。俺は諸侯へ根回しを行い、ほぼ半数の投票を受けることができた。残りはカラドグともう一人に分かれ、俺への投票が最多となった。これで俺がエピクロテアの領主として任じられると疑っていなかった。
だがしかし、カラドグは王の権限でエピクロテアを自身の物とした。
「カラドグめ、覚えておけ」
エピクロテアから北帝国領を東に侵攻し、カラドグの軍団がレソース城を包囲した。うちの部隊もその包囲に加勢する。
すると北帝国は和平を申し出たようで、カラドグはそれを受け入れ、和平が結ばれた。
結局この戦争でタイラー家は領地を獲得することができずに終わった。
せめてレーソス城を落としてから和平すれば領地を手に入れられただろうに。
タイラー家は戦利品で金を稼いでる状態であるから、平和な状態だと困る。
「カラドグめ……」
次なる戦争を求めて行動を起こした。バタニアには戦争を望む者が結構いるようで、南帝国やウランジアとは開戦してもいいという声が多かった。
俺は次なる戦争相手をウランジアと見定め、部隊を集めた。そして自分でウランジアへの宣戦を提案し、それが議決された直後にウランジアの都市サーゴットを攻めようという算段だ。宣戦布告同時攻撃である。
先の戦争でバタニアにおける俺の存在感は高まっていた。
俺は勝てる戦いしかしない。はたから見れば連戦連勝負け知らずの猛者だ。好感度稼ぎで友軍のピンチも幾度となく救ってきた。そういえば、エピクロテアで捕虜となっていた諸侯を解放したことでも感謝されていたな。
そうした好感度稼ぎの甲斐もあって強い影響力を持った俺は、諸侯の部隊を集める軍団編成を問題なく進められた。
だがサーゴットへの宣戦布告同時攻撃は見送られた。軍団の集結を待つ最中に西帝国がバタニアに宣戦布告してきたのだ。
ウランジアとの戦争を中止した俺は喜び勇んで西帝国へ向かう。宣戦布告の提案もタダではないからな。向こうから宣戦してくれてありがたくすらある。
サーゴットで集結しつつあった軍勢を西帝国の都市ラゲタへ向かわせる。ラゲタはバタニアの南東の山脈を越えたところにある。
サーゴットからだとアセライの隊商狩りの拠点にしようとしたオルティシアのほうが近いかもしれないが、オルティシアを落とすとアセライと国境を接することになる。それは現段階では避けたい。
山脈を挟むとはいえ、ラゲタはカラドグの本領マルナスから近い。バタニアから帝国領へ侵攻するなら、まずはラゲタを攻略目標とするのが妥当だろう。
ラゲタに到着し包囲する。西帝国の防衛の軍団がいつ来るとも知れないので攻城兵器にまずは破城槌を用意する。もし有力な西の防衛軍が見えたらラゲタを強攻する。そのとき破城槌があるとなしとでは兵の損害が格段に変わってくる。
攻城兵器の組立が進み、破城槌とカタパルトが3機完成した。カタパルトで敵方の兵器や城壁に砲撃を加える。
そしてもう1機カタパルトを準備していたところ、西の防衛軍がやって来ていることがわかった。
我が軍とラゲタ守備兵との戦力比は1600対400といったところだったが、防衛に来た敵軍戦力は2000。おそらくガリオスも宣戦直後にこの軍団でどこかに攻め込もうとしていたのだろう。兵の数も質も向こうが上、野戦で勝つのは非常に難しい。
「よし、速やかにラゲタを奪取しろ! 総員かかれ!」
準備は万全ではないが確実にラゲタは落とせる。まだ時間的にも問題ない。攻略後そのままラゲタに入り防御に回れば西の防衛軍も手を出せないはずだ。
破城槌で城門を破ることに成功し、想定よりも少なめの損害でラゲタを攻略することができた。上々だ。
丘野ネリックや学者のダシュワルのような、配下として雇っていた者が1名戦死した。まあ専門の役職の者ではなかったためそう問題はない。補充が多少面倒なくらいだ。
大軍を指揮するような立場になると、金と時間と兵を、リターンとコストを考えて効率よく使っていこうとする。兵も数字でしかなくなってくる。そういうものである。いちいち味方の戦死を嘆くこともなくなってくる。
ラゲタの陥落を見た西の防衛軍は交戦することなく引き返していった。
西の防衛軍が離れたあと、都市ラゲタの領主を選定する会議が行われた。再び候補者となった俺は全力で根回しを行い、再び半数の支持を受けた。今度こそタイラー家の領地を獲得できると思っていた。
だがしかし、再びカラドグが多数決を覆してラゲタを我が物にした。
「おのれカラドグめ……許さんぞ」
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