第26話 バナーロード

 ひたすら脱獄行脚をする日々が続く。修行というのはなかなか大変だ。

 マッチポンプなのだが、捕まえてきて脱獄させた諸侯とは仲良くなっていく。勝っても負けても恨みっこなし、負けて捕虜になるのも致し方なし、だが不衛生で退屈な地下牢からの解放には感謝しかないということか。



 脱獄行脚しながら街でトーナメントが開催されていれば参加していたのだが、スタルジアの都市オモールの闘技場をのぞいてみると、なんと優勝賞品が『ナハサウィ』だった。ナハサウィはアセライの馬のさら上位互換の最高速馬だ。これは欲しい。激闘を制し、ナハサウィを手に入れ、乗り換えた。


 さらにウランジアのサーゴットのトーナメントで、激レアな『バタニアの純血種』が商品になっていた。バタニアの純血種もナハサウィに匹敵する高速馬だ。これも絶対欲しい。このトーナメントでもなんとか激闘を制し、無事バタニアの純血種をゲットできた。

 バタニアの純血種は、最高速はナハサウィにほんの少し劣るが、小回りや反応が良く機動性において上を行く。どちらに乗るか悩んだが、俺はバタニア人でもあることからバタニアの純血種を愛馬とすることにした。


 ナハサウィは予備の馬にする。戦場で馬も死んでしまうことがあるからな。



 転生から1年が過ぎた夏の日、バシリアが男児を出産した。

 息子の名前はペリソールとなった。嫁さんやニアセンたちが考えたのだろう。俺は名前を考えるのが苦手だからノータッチ。認めるだけだ。



 脱獄行脚修行で世界各地をまわるついでにネレッツェスの愚行の調査を進めた。


 ネレッツェスの愚行――ペンドレイクの戦いとは、帝国とバタニア・スタルジア連合が対決した戦いである。帝国はアセライとフーザイトの戦士を傭兵として雇った。ウランジアは帝国側につくはずだったが、裏切ってバタニア・スタルジア側についた。

 結果、帝国軍本隊がスタルジア軍に敗れ、皇帝だったネレッツェスは戦死した。その後どさくさでアニレコスが皇帝となった。


 皆各々ペンドレイクの戦いでの自らの武功を誇るが、言うほど誰も大勝ちはしていないようだ。勝者も敗者も各所で禍根を残した。それは今の混沌とした情勢に繋がっているのだろう。


 調査でわかったのは、どうやらネレッツェスが持っていた『ドラゴンの旗』というものが重要なもので、ペンドレイクの戦いで行方不明になったらしいということである。老オレクがへし折って投げつけてしまったせいだな。

 俺たちが持っている『お宝』が、その旗の一部なのではないかと思われる。


 もっと詳しい話を聞きたければ、エピクロテアにいるイスティアナと、マルナスにいるアルザゴスを訪ねるといいとのこと。

 何かしらついでのときにそれらの街に寄ろう。


 その後いったん調査は置いておいて、さらに脱獄行脚修行を続けた。



 転生から2年が過ぎた夏真っ盛り、エピクロテアに寄りイスティアナを訪ねた。


「それで、どんな要件で来た?」


 イスティアナは五十歳過ぎほどの目つきの鋭い女性だ。俺の訪問にいぶかしげに応対する。


「俺はドラゴンの旗の一部を持っていると思う」


「それは本当か?」


 イスティアナが食いついてきた。そして旗について話し出した。


 曰く、旗の全てのピースが揃ったら旗はとてつもない価値を持つことになるという。旗は『カルラディオスの軍旗』という無敗の伝説を持つレガリアであるとのこと。旗を持つ者はカルラディアの始祖であるカルラディオスの後継者ということになるらしい。


 イスティアナは帝国の密偵組織の長だった。彼女は、帝国の暗部も理解しているが無秩序より悪いものはない、このまま帝国がカルラディアを上手く統治すべきだという。

 帝国は分裂し、衰退しつつある。カルラディアの情勢は今後どうなるかわからない。諸外国が覇権を握る可能性も十二分にある。

 イスティアナは、帝国が再興し、帝国による秩序ある統治を行われることを望んでいる。


「帝国を守るためにその旗を使うつもりなら、私が知っていることを教えよう」


「もちろん、俺は帝国を守るためにこの旗を使うつもりだ」


 俺がそう答えた。

 何を隠そう、俺は古代ローマのファンである。そのローマ帝国に似たカルラディア帝国にも偉大であってほしいと思っているのだ。


 俺の答えにイスティアナは旗の他のピースの在り処を教えてくれた。

 他にも必要なピースがあるが、そちらの在り処は知らないそうだ。そちらはアルザゴスに期待だな。



 イスティアナの情報によると、エピクロテア近くの盗賊のアジトに旗のピースが眠っているらしい。

 盗賊ということで遠慮なくアジトを襲撃したところ、盗賊たちが貯めていたガラクタ混じりの金品の中から旗のピースが見つかった。



 マルナスのアルザゴスも訪ねた。彼は皇帝の親衛隊の隊長だったらしい。年齢は五十歳手前といったところ。

 旗についてはイスティアナと同じようなことを話してくれた。


 違ったのは、アルザゴスは帝国の滅亡を願うということ。

 自分はパライクという帝国に同化された民で、我々の文化を破壊した帝国が繁栄しているなど許せないそうだ。


 パライクの言語は一部の老人しか喋れないものとなるくらい同化が進んでしまっている。アルザゴスも帝国の市民であり帝国軍の指揮官でもあったのに、何をいまさらという気もするのだが。引退後、妄執にとらわれてしまったのか。


「帝国が今回の内戦で存続できないようにしてやることを誓った。そのためにあの旗を手に入れたら、やれることが大いにあるだろう」


 内心全く賛同できないが、賛同してやると情報を提供してくれるはず。


「俺も帝国が滅びるのをこの目で見たい」


 嘘である。まあ現状の帝国を一度ぶっ壊して俺の帝国を創りたい、という意味ではそう嘘でもないか。


 俺の答えにうなづいたアルザゴスは旗のピースの在り処を教えてくれた。

 こちらもマルナスの近くの盗賊のアジトにあるらしい。



 イスティアナのときと同様に盗賊のアジトを襲撃して旗のピースを手に入れることができた。これでカルラディオスの軍旗を完成させることができる。



 アルザゴスに旗を見せてみた。


「あなたは間違いなく、大いなる目的のために天に選ばれた者だ。今ここで新しい伝説が作られようとしている……あなたのことを『バナーロード』と呼ばせてくれ」


 ここでゲームタイトルが出てくるわけだな。だがゲーム内で『バナーロード』と呼ばれるのはこのときだけだったと記憶している。


 それはさておき、これで俺が世界征服を行う正統性もできたというわけだ。


 まあ正直この旗があろうがなかろうが大して変わらないとは思う。世界征服なんて結局力でぶん殴っていくだけだからな。

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