第25話 嫁
俺は前世からの念願だった結婚を果たした。結婚の相手バシリアは、セスタダイム城に滞在しているということだったので、そこへ迎えに来た。
「あなたがムジョーですか。ラガエアは、私たちの相性がいいと思っているようです」
俺もバシリアも、お互い顔も知らずに結婚となった。バシリアは、貴族の結婚とはそういうものだとして粛々と受け入れていた。
バリシアは思慮深く冷たい印象を受ける女性だった。なんというかまあこの世界の一般的な貴族女性という感じだ。容姿は美人というほどでもなく、見る角度によっては可愛いかも、といったところ。だが俺としてはそのモブっさが魅力的に感じる。もともと俺は美人より普通っぽい子が好みなのだ。
それでは今日からタイラー家の将来のためにも夜の営みに精を出すとしよう!
なお、妊活は部隊が移動しているときはできず、どこかに滞在していないと行えないぞ。
バシリアは戦装束としてヒョウ皮を肩掛けに纏うらしい。彼女が特段珍しいわけでもない。頭に熊とか狼のような猛獣の被り物をする者もいる。
さすがに貴族なだけあって鎧兜などの装備品は高級だった。だが彼女は戦闘能力が高いわけではないので、それらの装備品はクランメンバーで使わせてもらうことにした。
特に防具は、補給官に就いている部隊の要のニアセンに装備させた。
防御力が高いほど戦死しにくい。嫁の代わりはどうとでもなるが兄者の代わりはいない。部隊運営のためにもクラン拡大のためにも兄者を死なせるわけにはいかないのだ。
専門職に就いている仲間にも防具は良い物を装備させたいところ。専門スキルを持つ者はどこの世界でも貴重だ。死なれては困る。
小金が溜まってきたので、ぼちぼち脱獄行脚修行を開始した。
戦争している国の前線の拠点には捕虜となっている諸侯がいる可能性が高い。脱獄させる囚人を探すのに、適当にアタリをつけて探すこともできなくもないが、もっといい方法がある。
傭兵の身なら戦況や外交状況を知るついでに、所属国や敵国が誰をどこに収監しているかという情報にアクセスすることができるのだ。
そこで南帝国の傭兵契約を解除し、他の国と傭兵契約する。ただ、近くに脱獄させられる捕虜がいないか、収容状況を知るためだけに。
そして戦争が終わるなどして新たな脱獄が難しくなったら、また他の国へ行って傭兵契約して情報を集め、脱獄行脚修行する。
傭兵契約を解除したところで将来もらえるはずのプールされていた報酬が手に入らなくなるだけで、他にお咎めなどはない。プール金が残っていない状況なら鞍替えに全くデメリットはないのである。傭兵の身分なら節操なしにバンバン鞍替えできるというわけだ。
これが正式に国に臣従する貴族となっていると簡単には抜けられないが。
カルラディアに転生したときは夏が始まったばかりの季節だった。バリシアとの結婚したときには冬に入っており雪の中を旅していたが、今日新年を迎え春となった。傭兵稼業と脱獄行脚修行で部隊の強化や己の鍛錬、人脈作りに勤しむ日々をおくっている。
人々からの依頼をこなすこともある。以前もやったことのある税の代理徴収の依頼でスタルジアの村に滞在していたところ、バシリアの妊娠が判明した。
順当にいけば、この子がタイラー家の跡継ぎとなるのだろう。
「うむ、とてもめでたいことだ! ところでムジョー……何か忘れていないか?」
「ん?」
「ほれ、その……私の嫁の話とか」
「……ああ」
忘れていたわけではない。忙しくて後回しにしていただけだ。
徴収を終え、集めた税を納めるべく依頼主の所領の都市オモールに向かう。
するとちょうどその依頼主であるスタルジア貴族――クロヴィングのオレクがやってきた。オレクは、クロヴィングの別部隊と共に、オモール近郊で海賊の一団を追い込んでいるところだった。
海賊も常に船で活動しているわけではなく、拠点近くの土地で無法行為を行うこともある。
海賊船との海上戦とかは厄介そうではあるが、俺たちは陸上専門なので関わることはない。
陸上で活動する海賊とはやり合うこともあるが、陸に上がったカッパみたいなものだ。大して強くはない。銛を投げてくるのが少々危険ではあるが。
オレクの海賊退治に加勢して好感度稼ぎする。その後集めた税を直接オレクに納めた。
ちなみに依頼を受ける際にオレクにペンドレイクの戦いの話も聞いておいた。
なんでも、オレクの父である老オレクのおかげでスタルジアが勝利したが、そのとき老オレクはネレッツェスの遺体から『ドラゴンの旗』を奪い取ったらしい。
「幼かったラヴァンガド王子が旗に触れようとしてね、父はそれを膝で折ってラヴァンガド王子に投げ、『ガキのオモチャじゃない』と言い放ったんだ。あぁ……あの日は! とてもとてもいい日だったよ」
それはさておき、兄者にせっつかれているからな、オレクのところに結婚相手が誰かいないだろうか? 聞いてみよう。
「ああ、シガの結婚相手がいるといいんだが……」
「ではそれで」
「よし、決まりだ!」
兄者、嫁さんゲットだぜ!
オモールに滞在していたシガをタイラー家に迎え入れた。
「なあムジョー、なにか思っていたのとは違うのだが……」
俺の隣にいるニアセンがつぶやく。
やってきたのは熊の頭の被り物をかぶった四十過ぎのアスリート系脳筋女戦士だった。
「ムジョーか! フリントルグ城では世話になったな!」
何のことだ? と思ったが、どうやらフリントルグ城で捕虜となっていたシガを俺が脱獄させたことがあったらしい。すでにかなりの数の諸侯を脱獄させてきたので俺は覚えていなかった。
「お主がニアセンか! なかなか強そうな男じゃないか! 私のような行きそびれ、よくぞもらってくれたな、がはは!」
シガ姉さんはニアセンと結婚できて嬉しそうだ。
「お主のところは戦士を欲しているのだろう? 私に任せるがいい」
シガ姉さんの実力を見てみたところ、すっごい強かった。特に機動力――徒歩戦闘での俊敏さがすごい。シガ姉さん、カラドグより強いかもしれない。
妊娠は年齢が若いほどしやすい。結婚できるようになる18歳のときが最も妊娠しやすい。40を過ぎるとかなり妊娠しにくくなる。だから結婚相手を選ぶときは年齢も重要な要素となる。シガ姉さんは41歳だった。
シガ姉さんが装備していた超高級な貴族の弓や鎧兜をバシリアのときと同じく他のクランメンバーに使わせてもらう。弓はニアセンに渡した。それらの高級装備は買おうとすると、ものすごく高い。ある意味結婚はそういった高級な装備品目当てなところもある。
シガ姉さんには軽装の装備になってもらった。さっさと戦死してくれることを期待――いや、そのたぐいまれなる身体能力を活かしてもらうためだ。
「ムジョー、シガは最前線を望んでいる。そうだろう?」
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