第22話 結婚とは
「嫁さんか……」
嫁さんといえば、俺もさっさと結婚したいものだ。日本では非モテで全く恋愛にも結婚にも縁がなかった。
「なんだムジョー、結婚を考えておるのか」
「ん? そうだな」
「せっかくだ、タイラー家の地位を高めるために家柄の良い者を迎え入れてはどうだ?」
「確かに……そうしたいな」
結婚というのは家と家との結びつきを強くするものである。
だから結婚はクランの家長同士で決めることになる。つまり貴族の嫁さんをもらうにはクランの家長に金を積めばいいということだ。身分違いでも金で結婚を認めてもらうことができる。もっと金を稼がないとな。
ちなみに、事前に結婚相手を口説き落としておくと交渉金額が安く済む。お互いのクランの友好関係次第でも金額は変わってくる。
俺も自身の結婚だけでなく、家長として家族の結婚についても考えなければならない。
「そうだ、兄者にも嫁さんを見つけてやらなきゃな」
「私の結婚相手も用意してくれるのか」
「そのつもりだ」
「そ、そうか!」
ニアセンは向こうを向いて去っていった。
ああ……これは期待しているようだな、兄者。じゃあ、頑張って二人分嫁さんを探さないとな!
交易や依頼、募兵、トーナメントをこなしながらバタニアを旅し、カー・バンセスの南東の都市ダングラニスにたどり着いた。
バタニアの中央にはリン・ティワルという巨大な湖が存在する。バタニアの支配域はリン・ティワルを取り囲む形になっている。言ってみれば琵琶湖と滋賀県みたいなものか。
ダングラニスはリン・ティワルの西岸の、その湖を見下ろす岩山の上にある。この地は王位を認める儀式の中心でありバタニアの聖地とされている。
この聖地を領地とする者は、バタニアきっての大物貴族――フェン・ダーンギルのエルゲオンである。彼は先王エリルの弟だ。エリル王の亡きあと、自身が王位を狙える立場にも関わらず、直前にエリル王の養子となっていたカラドグの王位継承をエルゲオンは支持した。
そのエルゲオンの部隊がちょうどダングラニスに出ていったところだったので、追いかけてエルゲオンを訪ねた。
「お前の噂は聞いている。なかなか好感の持てる男のようだ」
俺のことを知っていたらしい。
ペンドレイクの戦いについて尋ねてみる。
バタニアは帝国軍の前衛に対し、待ち伏せで奇襲に成功した。カラドグは最高な勝利をもたらせてくれたとのこと。
エルゲオンは強いカラドグを信奉しているようだ。
その戦いで自分は12人倒したと自慢するばかり。
孫たちも聞き飽きたらしい。俺もだ。
大した情報はなかった。
その後ダングラニスに戻って一晩滞在した。すると朝方にカラドグ王の部隊がダングラニスにやって来た。
彼にもペンドレイクの話を聞きに行く。
「君の名は知っている。勇敢な男だと聞いた。もし君と剣を交わす運命になるならば名誉なことだ」
カラドグは戦闘狂なきらいがある。こういう脳筋志向はバタニア人に好まれるのだろうな。正直、俺はカラドグと戦いたくない。強すぎて普通に負けるから。
そのうえ野心的な策略家で、なんだかんだでバタニアの支配者となってしまったのだから、まぁすごい人物である。
たしか現在39歳で、コレインという年頃の娘もいたはず。カラドグの血を引くだけあって戦士として強者だという噂は聞いている。そういえば結婚相手としてコレインちゃんはゲームで人気あったな。
カラドグにペンドレイクの戦いについて話を聞いた。
「私は忙しい身だが、ペンドレイクの祝福されし戦いの話ならいつでもできるぞ」
先王エリルは非戦派だったが行方不明となり養子の自分が王座に就いた。戦争を求めた民の望みを叶えた。そして帝国との戦いで森での奇襲に成功し大勝利した。
ただ、ちらりと言っていたが、スタルジア人と戦利品についてもめたらしい。
カラドグも勝利を自慢というか喧伝したいようだった。やはり独裁者というのは実績をアピールしないと存在基盤が怪しくなるのだろうか。
スタルジアというのはカルラディア北部の寒冷地にある国だ。バタニアも北の方面でスタルジアと国境を接している。その国境付近では小競り合いは珍しくなく、もとより両国は仲の良い国ではなかった。
バタニアとスタルジアは、ペンドレイクの戦いでは共闘したが、メリディールが言っていたように、むしろ関係は悪くなったようだな。
カラドグは軍馬の調達を依頼したかったらしい。ちょうどバタニアの軍馬を持ち合わせていたのでカラドグに譲った。
この手の依頼は、相場よりもかなり高めに買い取ってくれるし、相手との関係も良くなるので、持ち合わせていればおいしい依頼だ。
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