第21話 脱獄チャレンジ

 カー・バンセスのダンジョンにウルフスキンの何某かが囚われているらしい。


 ウルフスキンというのは、炎の残り火と同じような、犯罪者と傭兵の間くらいの存在の小規模クランだ。各地に様々な小規模クランが存在するが、地元の支配勢力と敵対していることが多い。

 ウルフスキンもバタニアと抗争しているようで、この囚人はうっかり捕まってしまったんだろう。


 賄賂を渡せばダンジョンと呼ばれる地下牢に潜り込むことができ、衛兵を倒しながら囚人を出口まで連れ出して脱獄させることが可能だ。複数人の衛兵と戦わなければならないので成功させるのはなかなか難しい。俺がゲームでプレイしていたときは、個人的に『脱獄チャレンジ』と呼んでいた。


 縁もゆかりもない囚人でも俺は積極的に脱獄チャレンジを行っていくつもりだ。

 メリットとして、脱獄成功時に囚人となっていた者からの好感度の上昇することと、悪行の技術とでもいうようなものを鍛えることができるからだ。その能力はゲーム中では邪心スキルとなっていた。


 いつか国を持ったとき、ウルフスキンなどの小規模クランは傭兵として雇えるので、関係は良好なほうがいい。敵対したときも関係が良好だと自領の村を襲撃されなくなる可能性が高まる。なんだかんだといろんな人物とコネを作っておくことは重要なのだ。


 邪心スキルが高いと盗賊を雇用して戦力とするのが上手くなったり、取引スキルとは別にあくどい取引が上手くなったりといろいろあるが、一番の効果は敵部隊を倒したときの戦利品をより多く奪えるようになることだと思う。

 どんな立場になっても金は大事だ。カルラディアで金を稼ぐ最もポピュラーな方法は戦利品の獲得である。その戦利品の獲得量が多くなるというのだから、邪心スキルの恩恵は大きい。


 邪心スキルは隊商への恐喝、捕虜の売却、賄賂の供与、盗賊の雇用などでも経験を得られるが、ドカンと大きく経験値を得られるのが脱獄成功時なのだ。失敗しても結構な経験になる。


 脱獄チャレンジを行うにしても囚人がいないと始まらない。

 そこで傭兵となり敵部隊を撃破して指揮官を捕虜にし、ダンジョンに収監する。そして傭兵契約を解除し、自ら捕らえた人間を脱獄させる。これを個人的に『脱獄マッチポンプ』と言っていた。


 一度脱獄チャレンジすると警戒が厳重になり、その地では数日経たないと脱獄チャレンジできない。そのため複数人捕虜を手に入れたら一人ずつ各地のダンジョンにぶち込んでいって、最後の収監が終わったあと傭兵契約を解除し、折り返し脱獄させていく。このようにして邪心スキルを鍛えていく方法を個人的に『脱獄行脚修行』と呼んでいた。


 俺は邪心スキルを極めるべく、いずれ脱獄行脚修行を行うつもりだ。



 今回はたまたまだが囚人を見つけたので脱獄チャレンジすることに。

 衛兵に賄賂を使い、地下牢に潜り込んだ。

 この賄賂の額はかなり高額だ。大物貴族になるほどさらに高くなる。脱獄行脚修行をするなら資金に余裕が必要だ。金を貯めたい。


 囚人の前まではすんなりたどり着ける。賄賂の見返りはあくまで侵入の手引きだけで、囚人を連れ出すのは自分でどうにかしなければならない。


 俺は街中用の装備だ。街では盾や鎧兜は装備できず、武器も限られた物しか装備できない。囚人は着の身着のままで、小さな木槌を持たせている。それらの装備で地下奥深くから二人で出口まで向かう。


 通路はせまく、衛兵をやり過ごすのは不可能だ。衛兵がいたらできるだけ不意をついて倒していきたい。ちょっとだけ潜入ステルスアクションゲームな気分だ。


 牢の場所からスロープ状の通路を上がった先の小部屋に早速バタニア人の衛兵が一人いた。

 こちらを向いていないので投げナイフで先制攻撃する。投げナイフでは一撃で倒すのは難しい。投げナイフを受けた衛兵が剣を振りかぶってこちらに向かってくる。

 もう一投するも投げナイフはかわされた。俺は両手剣に切り替え衛兵を攻撃する。素早く二撃入れ倒すことができた。


 街中やダンジョンでは盾を持ち込めないから両手剣が強い。両手で扱うので片手剣よりも振りが速いし威力も大きい。

 衛兵は、盾と遠距離武器は持ってないが、それ以外は実戦装備なので防御力も攻撃力も高い。脱獄での戦闘は装備的に不利なので、こちらの実力が問われることになる。


 次に出てきた衛兵は重装備で固くダメージが通りにくい。……ちょっと持ってきた剣がなまくらすぎた。衛兵を倒し切るのに手数がかかり、こちらも少なくないダメージを負ってしまった。


 その次の敵は小部屋の出入り口で待ち受け、相手が武器を振り回せない位置取りをして戦うことで完封して倒した。


 出口まで最後の通路というところで、衛兵2人と出くわした。投げナイフを二投するも意に介さず突っ込んできて横並びに2対2の戦いとなった。

 衛兵たちは俺の攻撃を無視して2人で囚人を先に切り伏せてしまった。直後に俺も1人を倒し、最後に1対1となったが、そこで負けてしまった。


 初の脱獄チャレンジは失敗に終わったが、この経験は邪心スキルの糧になったはずだ。



 囚人だったウルフスキンの男は死んでしまったとのこと。俺は一旦捕らえられたが、安くない賄賂のおかげか、そのまま外に追い出されただけで済む。


 ダンジョンは不衛生で、手当てもろくに受けられないのだろう。脱獄中に囚人が殺傷武器で倒された場合、確実に死亡するようだ。打撃武器で倒されるぶんには死なないが、衛兵のほとんどは殺傷武器で攻撃してくる。

 戦場で倒されても高級な防具で身を固めた貴族は滅多に戦死しないが、脱獄中だとあっさり死んでしまうものだ。


 ……逆に死んでもらいたい人物がいたら脱獄中に後ろから投げナイフをヘッドショットすればいい。そろそろ王様に退位してもらいたいときとか、新しい嫁さんが欲しいときとか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る