第20話 メリディール

 オルティシアの西にガロントール城、北西にスラクトラ城という西帝国の拠点がある。それらの支配圏の村で兵の供出で補充しながらサーゴットへ向かった。


 サーゴット到着後、隊商から分捕った戦利品を売りさばく。だいぶ儲かった。


 酒場で勇敢な何某というウランジア人騎兵を雇う。本当に勇敢かどうかは知れない。騎兵隊の小隊長として働いてもらう。


 サーゴットは東側で西帝国と国境を接しているが、北はバタニアと接している。そこで、サーゴットから北上しバタニアへ行ってみることにした。兵をもっと集めたいのだが、バタニアの強力な弓兵を雇えるかもしれないからだ。



 途中、西帝国の隊商を狩ったり、依頼をこなしたりしながらバタニアの都市ペン・カノックへ来た。


 ペン・カノックの天守にペンドライクの大戦に参戦した諸侯がいるという情報が入った。門番に500デナルほどの賄賂を渡し通させてもらう。

 天守の中で当該の人物メリディールに会うことができた。


「初めて見る顔だな」


「私はムジョーです」


「私はバタニアの古くより続く一族、フェン・ウヴェインのメリディール。カー・バンセスの領主だ。

 君の名は知らないが、それは重要ではない。偉大な血筋を持って生まれるより、それを創り出す方が名誉なことだ」


 カー・バンセスはここからさらに北のバタニアの都市だな。

 メリディールはバタニアの大物貴族だが、自分の血筋を自慢しておいてそれは重要じゃないとのたまうとは……、嫌味なのか自分の血筋にコンプレックスでもあるのか。

 まあいい。聞きたいことを聞くだけだ。


「ペンドレイクの大戦について聞かせてください」


「彼の戦いか……カラドグ王の偉大なる勝利に対して、誰がその輝きを汚すようなことを言うだろうか」


 メリディールはネレッツェスの愚行といわれるペンドレイクの戦いについて、いろいろ語ってくれた。ちなみにペンドレイクはバタニアの北部にある地域だ。その辺から先が帰属のあいまいな土地となっている。


 非戦派だったバタニアの前王エリルは狩りの最中に姿を消し、カラドグが王になった。カラドグがバタニアを皆が待ち望んだ戦争へ導いた。

 カラドグは帝国軍との戦いで待ち伏せを計画し見事に成功させた。だが帝国の本体と戦ったのはスタルジアで、有名な騎兵隊――カタフラクトを相手にしたのはウランジアだった。最高の栄光を手にできたのはバタニアではない。

 スタルジア人もウランジア人もバタニアのことをますます嫌うようになった。帝国は壊滅状態といっていい。あの戦いでバタニアが手に入れたものは何もないとメリディールは言う。


「戦争には何かしら目的があるべきなのだ。だがどうやら同胞の中でも、私の考えは少数派のようだ」


 多数のバタニア人はカラドグを盲目的に支持しているが、メリディールではそうではないらしい。


 このようにペンドレイクの戦いに関わった諸侯を訪ねて話を聞くと、ネレッツェスの愚行の調査が進む。『お宝』についてもわかってくるはずだ。



「ありがとう……ところであなたが何か問題を抱えて手助けを求めていると聞きましたが?」


「ああ、今年は出征していることが多かったからな、領地を回って地代や税を集めることがまだできていない。君を私の代理の公式な徴収人として任命することができる。興味はあるか?」


 メリディールが領有する村を訪れ税を回収してこいという依頼だ。全額でなくていい。本当に困って支払えない民もいるだろうから。規定の額をメリディールに納め、それ以上に回収できた分はこちらのものとしていいとのこと。


 まあ特に急ぎの用事もない。バタニアを回って兵の補充や交易をするのもいいだろう。依頼をこなせばこの貴族との関係も良くなるしな。


「いいでしょう。あなたの村に行って地代を回収してきます」


「よし、今からあなたは私の代理だ。村人には礼儀正しく行動するように。だが支払いを渋る場合には、武力を行使する権限がある」



 ペン・カノックを出立し、さらに北へ向かい、カー・バンセスの周りの村々を巡り、税の取り立てを行う。


「こんな地代や税の取り立ては違法だ!」

「税金を払う余裕がない。作物を支払いの代わりにできないか」

「不作や盗賊の襲撃で苦しめられた世帯は支払いを免除してくれ」


 それぞれの村で税の支払いを渋られる。そういう場合、武力行使し無理やり取りたてることもできるし、いくらか妥協して減免することもできるが、一番良いのはその時点で取り立てを中断してさっさと引き上げることである。

 こうすると本来の半額も取り立てられないが、村人たちは感謝し、こちらに友好的になる。そうなると兵を募りやすくなるし、仮にこの地域を領有することになったら、築いた友好関係が治安に貢献してくれるはずだ。


 いずれ俺は世界征服するつもりだからな、地域からの支持はあったほうがいい。このような地道な行為が後々の支配体制に響いてくる……かもしれない。将来どこを領地とするかわからないから訪れた先の方々で友好関係を築いていくつもりだ。

 まあ隊商狩りでアセライの商人からは滅法嫌われているが、アセライを自分の領地とすることはないと思うので問題ない。


 メリディールが要求する金額もそこまで大きいものではない。なんなら赤字でも構わないのだ。それよりも村人や領主の貴族との関係が良くなることのほうが大きい。

 それに最後まで税の取り立てようとすると結構時間をくってしまうしな。


 全ての村を回り終えた。メリディールに歳入金を直接納めに行ってもいいが、カー・バンセスに行って家令に渡すほうが早いだろうと判断し、そうする。


 ちなみに家令に渡す場合は、村を回っていなくても規定額を家令に渡すことで依頼を完了とすることができる。金は完全にこちらの持ち出しとなるが、他にやることができた場合など、時間が惜しい場合にはそうするのもありだろう。

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