第19話 持っている物を全てよこせ
南帝国の軍団がアセライ軍に手酷く敗戦したとの噂が耳に入った。一度の敗戦でどうこうなるものでもないが、嫌な予感がする。
隊商との戦闘で兵が減ったのでオルティシアの近隣の村々を巡り兵を募る。依頼も軽くこなせるものはこなしている。そうすると村人が協力的になって兵集めがしやすくなる。
「ムジョーの旦那、大変だ!」
情報収集をさせていた丘野ネリックが慌ててやってきた。
「どうした?」
「西のガリオスが南に宣戦布告した!」
「なんだと!?」
先の敗戦で一時的に兵力が落ちた南帝国に対し、西帝国が好機と見たのだろう。だが、西帝国はバタニアと戦争しているのではなかったか。
程なく追報が来る。
「西とバタニアが和平したようだぜ」
「ガリオスは和平のめどが立っていたようだな。ムジョーよ、オルティシアを拠点として使えなくなったがどうする?」
「ここまで来たんだ。とりあえずもう少し隊商を狩る。せっかくだ、もっと兵を集めよう」
西帝国を敵対状態になったことで、西帝国領の村で兵員の供出を強要することができる。こちらの戦力が圧倒していれば無抵抗で応じてくれるが、抵抗されて村の民兵と戦闘になることもある。まあだいたい問題なく勝てる。
略奪され村を焼かれることに比べれば許容できるのだろう、戦争中の兵の供出強要では村長たちとの関係は悪化しない。
平時だと村を統治している国と戦争になるし、村人や領主からもひどく嫌われる。
「旦那、戦利品はウランジアのサーゴットでさばいたらいいんじゃねえか?」
そういえば丘野ネリックはウランジア人だったな。
ウランジアはオルティシアから西の方面にある王国だ。大陸西部の沿岸一帯を領土としている。
サーゴットは西帝国やバタニアとの国境に接するウランジアの玄関とでも言うべき都市である。そのような立地なので戦略的要衝である。
ウランジアはスタルジアと戦争中のはず。南帝国とは戦っていないので交易などは自由にできる。ネリックの言うとおり隊商を狩ったらサーゴットに行くか。
兵を補充をし部隊が70人を超えてきたところで再びリシア海峡へ向かう。今度も30人ほどの隊商を追い詰め恐喝する。やはり降伏しないため一戦交えることになった。
前回と同様に布陣し待ち受けさせ、俺が単騎で敵騎兵を翻弄する。前回よりも敵騎兵の数は少ない。こちらの陣に辿り着く前にジャベリンで数を減らすも、数騎に突っ込まれ被害が出る。
弓騎兵が2騎、こちらの陣の周囲を回りながら攻撃してくる。俺はそいつらを追いかけジャベリンで仕留めた。
敵騎兵は数を減らし残り1騎となったようだ。他は弓兵主体の歩兵のみ。
「残りの騎兵は俺が倒す! お前たちは敵歩兵にかかれ! 総員突撃!」
俺は突撃命令を出したあと、敵騎兵と接敵するのに少々時間がかかったが難なく倒す。
そうして戻ってみると敵歩兵は蹴散らされ、追撃戦も終わりかけているところだった。
「よし、一人だけ逃せ」
逃げる隊商の護衛兵を追いかけていた兵たちにそう俺は命じ追撃を終了させた。
損害を確認してみると、こちらは13人戦死。……結構死んだな。うち10人は新兵だった。
新兵は盾を持たず軽装なのだが、突撃命令を出したあと、他の兵よりも身軽なぶん新兵たちが先行してしまい敵弓兵の射撃をもろに食らってしまったようだ。
盾を持っていれば弓矢はほとんど防げる。歩兵は今後、盾持ちと盾無し兵に小隊を分けたほうがいいかもしれない。
まあ新兵の補充は村々でいくらでもできる。兵は畑で採れるようなものだ。
だから多少の損害は気にしなくていい。
さすがに専門技術を持った仲間や家族が戦死してしまうと痛いが。
敵を一人だけ残したのにはワケがある。
隊商を全滅させても有り金全部を分捕ることはできない。俺が捕虜となった場合の話と同様で、隊商も戦闘前に金品を隠してしまうのだ。
そこで一人逃してやると、そいつは隠した金品を回収しようとするはず。それを追跡したあと改めて恐喝を行えばいい。
「こ、今度は何の用だ?」
「お前が持っている物を全てよこせ」
「あんたとは戦えない。降伏する。頼むから攻撃しないでくれ。欲しい物を持っていけばいい」
こうして隊商が隠していたものも全部巻き上げることができた。金は1万デナル奪うことができ、交易品やそれを運ぶ馬匹も手に入れることができた。
「これはまたえらく儲かったな、ムジョー」
「だろう? 本当はこれをもっと続けたかったんだがなぁ」
西帝国が敵となったため、ここら一帯が敵地となり、戦利品の売却や補給ができなくなったうえに西帝国の部隊から攻撃される恐れも出てきた。
そのため、アセライの隊商をもう一狩りしたあと、サーゴットへ向かった。
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