第12話 交易と馬

 リカロンを出立し南西へ向かう。この辺りでは牧畜が多く行われているらしい。ラダゴスの盗賊団を壊滅させる前は気付かなかったが、方々で飼育されている羊や馬を見かけるようになった。

 テヴェア村や訓練場を通り過ぎてさらに行くと南帝国の都市ポロスに到着した。


 リカロンやフィカオンで仕入れていた交易品を市場で売りさばく。ポロスでは交易品の相場が高めのものが多いのだ。


 交易は当然、安いところで買い、高いところで売ることで儲けていく。そのため、旅をするなら交易品の相場について知っておいたほうがいい。穀物10kgあたり5デナル程度なら買い、10デナルを超えてくるなら売りとか、荷役馬なら1頭50デナル程度なら買い、100デナルを超えるなら売りとか。


 街の市場では交易品を売買するほど相場が変動する。品によって変動率は違い、穀物は大量に売買しても変動が少ないが、銀や宝石などは少数の取引でも大きく変動する。需要が関係しているのだろう。


 なめした革や宝石などの加工品は単価が高く、地域による価格差も大きいので少量でも儲かる。

 交易品を仕入れるときは、利益を見込める品で、単価の大きいものから仕入れ、積載量に余裕があれば安いものも仕入れていくというやり方がいいだろう。


 部隊には維持費もかかる。他に稼ぎが少ないなら交易しながら旅をするのが常道だ。



 部隊の人数も50人を越えてきた。人数が多いと部隊の移動に時間がかかるようになる。騎兵ばかりならまだいいが、徒歩の兵が多いとそのぶん移動速度が遅くなる。

 そこで歩兵にも馬に乗ってもらうことにした。歩兵を専門とする者に騎乗戦闘をさせるのは無理だが、ただ移動するだけのための乗馬なら可能だ。乗用馬だけでなく軍馬でも大丈夫。

 騎乗用の馬を歩兵の数だけ買い付けることで部隊の移動速度が上がった。


 ちなみに、俺は騎乗技術が上がり軍馬を扱えるようになったので、念願のアセライの馬に乗り換えている。市販の馬では最も速い馬だ。さらに高能力の馬もいるのだが、結構レアで入手しにくいので、そちらは縁があればと言ったところ。


 馬に乗っている者は騎乗している馬とは別に1頭、徒歩の者は2頭の家畜を引き連れることができる。それ以上となると連れて行くのに手間取り部隊移動が遅くなってしまう。


 兵に日当を払う必要がある以上、交易をするにしても早く移動できるほうが賃金を抑えられるし、交易品の量が多いほうが当然利益も大きくなる。

 理想は、歩兵の数だけ乗用馬を揃え、部隊の人数分だけ荷役馬やラバを揃えたい。そうすれば移動速度を保ちながら最大限の荷物の運搬ができる。


 ちなみに積載量は、人間は30kg、乗用馬は20kg、駄馬は100kg運搬できる。それ以上に荷物を持たせることも可能だが、そのぶん移動速度が落ちることになる。

 歩兵にわざと重い荷物を持たせて行軍することで鍛えるという方法もあるらしい。平時ならそれもありだろうが、常に臨戦態勢の乱世ではその方法はデメリットのほうが大きいように思う。



 馬と移動速度について詳しく述べたが、それは部隊の移動速度は軍事行動の肝心要のキモであるからだ。


 基本的に少数の部隊のほうが移動速度は速いが、馬匹の充実した部隊は少数の敵部隊にも追いついて攻撃を仕掛けることができる。数で勝ち、速さで勝つのだから負けることはない。負けそうなら逃げればいい。戦いを選択できるのだ。


 馬を揃えるためには金がかかる。それだけに馬匹の足りていない部隊がほとんどだ。馬を揃えることで優位に立てる。


 また、部隊の移動速度は、部隊長や仲間の能力でも多少底上げされる。

 俺が担当することにした斥候の偵察スキルも部隊速度を上げることに直結している。斥候は戦場の霧を見通す軍隊の目だ。周囲の情報を正確に把握できれば進軍速度も上がる。偵察スキルを極めると鋭い洞察力を発揮できるようになって格段に部隊速度を上げられるようになるはずだ。


 部隊の移動速度には気を配らなければならない。そうして戦場を選び、勝てる戦いを積み重ねていくことこそ、この世界で成り上がるために必要なことなのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る