第11話 アイラを口説こう
道すがら盗賊を狩りながら再びリカロンへやってきた。
街の中枢の城のような建物へ向かう。そこは行政府、統治者の屋敷、砦といった機能を一緒くたにした、日本でいう天守のような建物だ。天守にはダンジョンも備えられている。ここでいうダンジョンはRPGなどのモンスターが出てくる迷宮という意味ではなく、元来の意味である地下牢のことだ。
俺は南帝国の傭兵となっているので問題なく天守に入城できる。通常は関係者以外立ち入り禁止である。まあ部外者でも門番に賄賂を渡せば入れるようだが。
リカロンは、ラガエアのクラン――ペスロス家の直轄地だけあって、天守にペスロス家の人間が滞在していることもままある。
訪ねてみると、ちょうどラガエアの娘アイラが滞在していた。アイラも部隊を率いていて補給のためか、たまたまリカロンに寄っていたようだ。
アイラはアレニコスとラガエアの子だ。先帝の唯一の直系である。
皇帝は元老院が選定して任じるとされているが、外国勢力に近い南部では、王は世襲されるもので皇帝もかくあるべきだという意識が強い。
だから現在アイラは南帝国において時期皇帝に最も近い位置にいる。
だがアイラは、街の酒場で騒いだり、剣闘士試合に自ら出場したりと皇女としては問題児だと言われている。いわば脳筋女戦士。軍人として有能と言えるが支配者としては……。
女よりも男のほうが支配者にふさわしいという考え方が主流であるから、アイラの伴侶となる者が実質的に次期支配者になるのかもしれない。
そんなアイラと知己を得る機会があるのだ。アプローチしてみようではないか。
「貴様はだれだ?」
高圧的な口調の女性が話しかけてきた。少し浅黒い肌の二十歳ほどと見える背の高い美女だ。彼女がアイラだろう。
「私はタイラー家のムジョーと申します」
「私は帝国の歴史の中で最も高名な一族、ペスロス家のアイラだ。我々が倒してきた野蛮人と勝ち取った栄光に並べる者はいない」
なかなかの口上だな。先帝アレニコスが凋落しつつあった帝国において、諸外国との戦争に勝ち、帝国の権勢を盛り返したのは事実だ。アニレコスは帝国民から熱狂的に支持された皇帝だった。
「ムジョー……聞き覚えがあるぞ。この辺りで奴隷狩りをしていた賊を討ち滅ぼし、帝国に仇なす異教徒集団を撃破した新進の傭兵だとか」
「私のことがアイラ様にまで聞き及んでいたとは……光栄です」
「見どころのある男のようだな。敵と果敢に戦い、私に逆らわずにいればきっと上手くやっていけるだろう」
自分の下につくなら出世させてやるぞ、ということか。傭兵なったときも感じたが、この時世、どこも戦える者を欲しているのだろう。
「私は皇帝の娘だ。もし私が皇帝の息子だったならすべての元老院議員たちが我先にと競って私に忠誠を誓おうとしていただろう。いつの日か、私は奴らの前に立ち奴らを跪かせてみせる」
なるほど、アイラには『自分が男だったならば』というコンプレックスがあるようだ。そのせいでなおさら戦闘バカになってしまったのかもしれない。それでいて野心も満々、と。
「ラガエア様がアイラ様の伴侶となる者を探しているとお聞きしました」
「そういった申し出については検討している。焦って決めることでもないがな」
「私こそあなたの崇拝者なのです。私は結婚相手として立候補いたします」
「フッ……おもしろい。だが私がそんな事を考えるようになるには、お前はよほど出世する必要があるぞ。
そうだな、もう少しお前のことを知る必要がある。旅の話を聞かせてくれないか」
アイラは旅や戦いのことを聞きたがった。なぜ賊や異教徒と戦ったのか? どうやって勝利したのか? といったことを。
俺はこの世の残酷さの嘆きつつ、理不尽に対抗するためにも大金を稼ぎたい、成り上がりたいという野心を隠さずに、これまでの事を多少盛りながらアイラに話した。
「うむ、その気概やよし」
なんか好感触もらえたようである。この調子で話を盛り上げよう。
「旅路の間、興味深い人物はいたか? 信頼できる味方とか強い敵とか、興味深い人々がいたのではないか?」
強者といえば俺の中ではバタニアの上級王カラドグである。彼を筆頭にバタニアの強者たちの話をした。ニアセン兄者も入れておいた。
今、心を許せるのは兄弟たちだけだ。わずかな銅貨を求めて裏切るような奴もいる。ガルターのような奴もいるしな。真に信頼できる少数の選りすぐりの仲間と一緒にいたほうがいい。
そのような教訓を盛り込みながら強者や仲間の話をした。
「なるほど……信頼するものは少数に絞っておくべきとな。お前の言うことは正しいのかもしれない」
お、感銘を受けているようだぞ。
「お前はいずれ大成するかもしれないな。……仮にお前が権力を手に入れたとしよう。その時、お前は何をする?」
権力を握ったら、か……。
「他にも倒すべき相手は数多くいますが、私はカラドグを打ち負かしたいです」
「最強の男とも言われるカラドグを倒したいと? いいではないか!」
なにやらご満悦のようである。
「いいぞ、なかなか考え方が似ているところがあるようだな。次に会った時にもっと話をしよう」
これは……結婚相手の候補として認められたのかもしれないな。もし次の機会にもうまく口説くことができたならば、アイラとの結婚が現実味を帯びてきそうだ。
多少の身分違いは金で解決できるからな。皇帝だ、上級王だと言っても、金を用意できる奴がえらいのだ。
皇帝への道は決して遠くない。
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