第6話 炎の残り火

 リカロンを出て北東へ向かい、カノプシス村を通り抜けて、ミジード地方へ入った。この辺は北帝国の領域になる。

 ミジード地方には都市ミゼアがあるが、その西の辺りを根城とする『炎の残り火』というカルト集団を探しに行く。


 炎の残り火は、百年ほど前、皇帝を降ろされたダルソスを神聖視し、ダルソスを復活させることでこの世の黄金時代を迎えることができるとかなんとか……というような教義を持っているらしい。当初は単に反乱勢力であったが、その子孫がカルト化していったようだ。


 教義的に色々あるようだが、それだけでは食っていけないので傭兵的な活動もする。特にどこにも雇われていないときは帝国勢力に対して略奪を行っているらしい。


 ミジードの村々で聞き込みをし、炎の残り火の部隊の居場所を割り出すことができた。



 数十人規模の集団を発見した。暗い赤と黒を基調としたローブを着ている。

 集団に近づいてみると誰何される。


「何者だ」


「俺はタイラー家のムジョー。そちらは?」


「私はレウトロス。我々は炎の残り火の教会騎士団だ。我々の噂は知っているだろう? いずれ天は我々と地上の浄化を行う。我々はそれに備えているのだ」


「そちらの教義はいい。『ネレッツェスの愚行』について知っているか?」


「一部の者は1077年のペンドライクの大戦をそう呼ぶな。帝国はフーザイトとアセライを加えた軍で、スタルジア、バタニア、そしてウランジアの連合と戦った。皇帝ネレッツェスはその戦で戦死した。だが勝利した者もさほど好ましい状況にはならなかったようだ」


 他に詳しいことは知らないようだ。


「なるほど……では有り金を全部置いて行ってもらおうか」


「貴様、正気か?」


「降伏するか死ぬかだ」


「……いいだろう。情けは期待するなよ」


 俺は馬を翻らせレウトロスたちから離れる。残り火の集団はこちらにも兵がいると思ったのか整列する。


 炎の残り火の団員は、戒律でもあるのか剣のみを持ち徒歩で戦闘をする。弓などの遠距離武器や盾を持たない。だからこちらが馬に乗って遠距離武器で戦うと一方的に攻撃できる。ゲームでは序盤のカモだった。


 だが目の前の集団には、騎兵が1騎、盾を持った歩兵も数名見て取れた。教団員とは別に雇った兵もいるようだ。


 こちらが単騎だと気付いたか、敵の騎兵が向かってくる。すれ違いざま俺はジャベリンを投げつけると相手の馬の頭部に直撃した。人馬ともにもんどり打って倒れる。地面に倒れている敵騎兵に追撃のジャベリンを叩き込んで確実に仕留める。


 他の敵兵たちが色めき立つ。走ってこちらを取り囲もうとする。俺は馬を駆り、一定の距離を取りながら敵集団に向けてアバウトにジャベリンを投げつける。たまに盾で防がれる音がするが、他の盾を持たない教団員はジャベリンを防ぎようがない。次々に倒れていく。


 ジャベリンは弓矢ほどに大量に持てない。弾数が尽きてしまえばこちらを倒せると踏んだのか雄叫びを上げながら向かってくる。

 俺はジャベリンが尽きると馬を駆って敵集団から離れ、戦場を離脱する。大量に購入したジャベリンを別の場所に用意しておいたのだ。ジャベリンを補充し、再び敵集団のもとへ向かう。


 先ほどの戦闘で投擲や騎乗が上手くなった気がする。同じようにジャベリンを投げたつもりが、先ほどよりも素早く取り出して速く投げつけられるようになり、より早く敵を殲滅していくことができた。

 ゲームでは投擲スキルが75になると『完璧な技術』というパークを取得できた。これは投擲した武器の速度が25%上昇するというものだ。速度が上がるということは飛距離も上がるし、投擲物と敵との相対速度が大きくなって威力も格段に上がるということである。非常に強いパークだ。


 敵はどうしようもないことを悟り逃走に入るが、徒歩では騎兵からは逃げられない。俺は数十人いた教団員を全滅させた。


 大半の教団員は死亡したようだがレウトロスは生きており降伏してきた。彼から6000デナルを奪い取ることができた。これでニアセンから指示された金額を余裕で達成である。


 レウトロスは教団の幹部であり身代金目当てで、捕虜として拘束し連れて行く。


 倒した敵から金品と売れそうな武具等を戦利品として回収する。使用したジャベリンもできるだけ回収した。


 敵もジャベリンを投げ返せばこちらに対抗できたのかもしれないが、ジャベリンにはかえしが付いているので、突き刺さったものを戦闘中すぐに抜くのは難しい。回収するのも結構骨だった。

 ちなみに投げ斧だったら敵に命中したものでも回収しやすく、戦闘中でもすぐに再利用できる。



 戦利品満載の荷役馬と捕虜を連れ、都市ミゼアに向かう。その道中、5人の薄汚い身なりの男たちが立ちふさがった。


「よう、旅人さん。財布は持っているよな。ここを金を払わずに通ろうなんて考えちゃいないよな?」


 追いはぎだ。荷物と捕虜のため移動速度が落ちていたため狙われてしまったようだ。カルラディアにはラダゴス一味だけではなくこういった野盗が多い。

 この程度切り抜けられなくてはこの世界で生きていくのは厳しい。もちろん俺は金なんか払わない。


「かかってくるがいい」


「今日は手を汚すしかなさそうだな!」


 追いはぎたちがそれぞれ獲物を取り出し向かってくる。俺は追いはぎにジャベリンを投げつける。

 距離を取ると、追いはぎたちは石を投げてくる。追いはぎは戦闘能力も装備も貧弱だが、投石してくるぶん炎の残り火よりも厄介である。


 とはいえ5人では問題にならない。残り火との戦闘で騎乗も槍投げも上達している。追いはぎたちは逃げる間もなく次々にジャベリンで地に伏した。


 こういった追いはぎは食いつめた者なので金目のものは持っていない。捕虜としての価値もあまりないので、いちいち戦わずスルーしたいところだ。

 まあ、軍隊で新兵に殺しを覚えさせるのに、こういった賊退治は役立ちそうだな。



 ミゼアに向かっていると、街に入る寸前で仲介人からレウトロスの解放を持ちかけられた。俺は800デナルの身代金をもらい彼を解放した。こういった捕虜の解放交渉は断ると次の交渉の提示金額が上がるので渋るのも手ではある。

 だが一人旅で捕虜を連れ回すのも手間だし、貴族たちほどの身代金を期待できるわけでもないので今回はすぐに解放交渉に応じた。


 こういった捕虜の解放交渉を行う、請け戻し仲介人なる商売人がこの世界には存在する。今回は向こうから来たが、普段は酒場に常駐している。捕虜を買い上げ、その身代金で儲ける商売をしている。


 昔は敗北した者は奴隷となるのが常だったが、奴隷はすぐ逃げようとするし、逃げられないようにするのもコストがかかるため、現在奴隷は実用的ではないとされている。そのため奴隷を扱う者は滅多におらず、ジェロイアのガレー船の漕ぎ手でさえ自由民のほうが好まれるとのこと。ジェロイアというのがどこのことか知らないが、請け戻し仲介人がそう言っていた。


 もし俺が捕まった場合どうすればいいか聞くと、戦いの前にデナルを隠しておいて、捕まったあと忠実な使用人に取りに行かせて身代金を払えばいいとのこと。

 戦いに敗れると、所持していた馬匹や物品の大半は分捕られるものの、隠しておくことによって現金は取られない。身代金を払いたくないなら脱走の機会を待つという手もある。


 まあ、敵を倒して捕虜にしたら酒場の請け戻し仲介人に引き渡せば金になる、ということだけ覚えておけばいいだろう。

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