第7話 丘野ネリック

 ミゼアの酒場で雇えそうな人間で気の利いたやつがいないか探し、一人の男に目星を付けた。


「え? じゃあ、おまえは誰だ?」


「私はムジョー。あなたの身の上を聞かせてほしい」


「俺は丘のネリック。ウランジアの北西部出身だ。そこはスタルジアやバタニアの軍団がいつ襲撃してくるかわからない土地だ。土地の者はみな武装し、誇りある男たちだった。安全な南部の農奴とは訳が違う」


 ウランジアとスタルジアとバタニアの国境付近は係争地となっていて、その近くの村々は略奪を受けることがよくある。こいつと俺の故郷は国は違えど距離的に近いのかもしれないな。


「その中でも父はひときわ自尊心が高かったようで、領主の家令に侮蔑されたとき、すぐさま土地を離れ、人のいない丘の上に家族を引っ越させた。母は熱病で死んだが、俺と妹と父は10年間そこで細々と暮らした。父が他の人間にへつらわなくていいように。そしてある日、父が吹雪の中で行方不明となった」


「悲劇だな。心中お察しする」


「すべて終わった時、俺は友達が欲しかったし、ワインも飲みたかったし、若い女の姿も恋しかった。そのためなら何でもする勢いだった。だから妹と里に降りた。妹は良い夫を見つけた。俺は狩猟の案内人や部隊の斥候として良い仕事を得られるようになった。今はフリーだから仕事があるなら話し合おう」


「私はとあるバタニアの貴族の傍流にある者だ。これから傭兵団を立ち上げる。従者となる者を雇いたい」


「へえ? 貴族ねえ……」


 ネリックは俺を値踏みするように見てくる。


「俺を雇おうってのなら、前金で500デナル払えるか?」


「ああ」


 テーブルの上にデナルを置く。


「お、きっぷがいいな! いいだろう。ムジョーの旦那に乗った!」


 俺が貴族を騙って成り上がろうとしているのを察していそうだ。


 身の上から『丘の~』と呼ばれていたようだが、日本の名字みたいだな。いっそ俺はそんな感じで彼を呼ぼう、丘野ネリックと。


 こうして丘野ネリックを仲間にした。俺の一番の配下だな。

 彼は偵察・索敵の能力が高いようだ。これから立ち上げる部隊の斥候担当として活躍してもらおう……と思ったが、斥候は自分で担当しようと思う。

 偵察スキルを鍛えていくと部隊のリーダーとして役に立つ能力を得られる。斥候は仲間に任せるのが基本だが、自分の狡猾性が高いと思うのであれば自ら斥候をやるのも手だ。

 まあ丘野ネリックには俺の手足となって働いてもらおう。


 部隊運営には斥候以外にも補給官、軍医、技術者といった役職があり、いずれはそれぞれ対応する専門スキルを持った者を据えていきたい。


 さて、妹弟の身代金の用意はできたし、貴族らしく振舞うための従者役の者も雇った。ニアセンもやっているだろうが、こちらも兵を集めたい。差し当たって20人ほど。



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丘のネリックのような、酒場で雇って仲間にした放浪者をゲーム中ではコンパニオンと称します。

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