第4話 貴族になろう
情報のとおり、山あいの中にある賊の隠れ家を発見した。
徒歩で侵入し奇襲をかける。総数でいえば賊のほうが多いだろうが、賊は多人数でまとまっておらず散らばっている。各個撃破していけばいい。
一人でいる賊を侵入に気付かれる前に投げ斧で仕留める。気付かれた場合もすばやく皆で囲んで叩きのめす。
そうこうしているうちに異変に気付かれ、部下数名を伴って頭目らしき男が現れた。こいつがラダゴスだろう。
「人んちに踏み込んできて部下を始末してくれたお前らは何者だ?」
「お前が俺たちの妹と弟をさらったと聞いた。二人はどこだ?」
「おいおい、それだけじゃわからんぞ。俺の部下がどれだけガキをさらったと思ってるんだ。まあ、ガキ共のほとんどは南の奴隷市場に送ったが。
身内探しは無駄骨だったな。分かったならさっさと失せろ。それとも決闘でもするか?」
ラダゴスは柄の短い斧を持っている。一対一の戦いだと素早い攻撃をしてくるので防ぎがたい。ゲームであれば決闘してみてもいいと思うが……。
「決闘なんてするか! みんな、攻撃だ!」
こちらが数で優っている。リスクを冒すことはない。みんなでラダゴスと部下を袋叩きにした。
「くそ、こちらの負けだ。降参する。兄弟を取り戻したいのだろう? 俺を生かしてくれるのであれば役に立って見せよう」
「本当だな? もし役に立たなければ殺すからな」
「ああ。だが、必ず俺の助けが必要になるだろう」
ラダゴスが言うには、捕まえた人間に救助が来たときの対策がしっかり決めてあるらしい。集団で武力行使されそうなときはさっさと逃げる算段がしてあるし、少人数なら迎え撃つ準備もしている。
ラダゴスは奴隷商人との連絡方法を持っており、身代金を用意することで捕虜の解放交渉をすることもできるとのこと。
「俺が死んだらあんたの可愛い小鹿たちの運命もそれまでだ。豪勢な駕籠で運んでくれとは言わないが、あまり辛い旅にしてくれるなよ」
ふてぶてしい言い方をするやつだ。だがラダゴスの言うことももっともなことではある。兄弟救出のため役に立ってもらわねばならない。
「どうやらラダゴスたちも大して稼げていなかったようだな」
その後、隠れ家をあさったが期待していたほどの財貨は手に入れられなかった。
だが箱に入った古い青銅の破片が見つかった。
「これがタクテオスが言っていた遺物か。どこぞの貴族に高値で売り付けてみるか」
「そうだな、じゃあ出発するか」
「待て、ムジョー。考えがある。二手に分かれないか?
私は兵とラダゴスを連れ、あの子たちを解放する手立てを探す。だが場合によっては買い取ったほうがあの子たちを危険にさらさずに済むだろう。それなら金をしっかり用意しておく必要がある」
兄弟の安全のために身代金を用意したほうがいいし、実力行使するにしても交渉するにしても戦力が少ないのはまずい。解放のためには準備が必要だ。
「俺に身代金を工面しろと?」
「その通りだ。それでこの遺物が役に立つかもしれぬ。だがこれが大変な価値を持つというのなら所持していることを知られるべきではないな。その上で調査しなければならない。そして貴族の者たちと話すことも必要になるだろう」
たしかに皇帝に関することなら貴族を相手に情報を集めないといけないか。
「そこでお前も貴族に連なる者として振舞うのだ。そうしたほうが情報収集も売却の交渉もうまくいくだろう。ムジョーよ、族姓を決めるのだ」
なるほど、俺に貴族を名乗れと……。うちの家系も遠い親戚に貴族がいたかもしれない。いたということにしよう。
だいたいバタニアの王カラドグからして出自は胡散臭い。策略家でもあるようだがカラドグは個人としての武勇にも優れており、大概のバタニア人は出自など気にせず強者として彼を支持しているようだ。
成り上がってしまえば貴族にもなれるし王様にもなれるのであろう。
ふと、昔日本で読んだ成り上がり系の作品の主人公を思い出した。
「そうだな、では族姓はタイラーということでどうだろう」
「では今後、お前はタイラー家のムジョーだ。お前を探すときはその名で探すからな」
兄に1000デナルを渡された。遺物がモノになるならそれでもいいが、そうでなくとも、どんな手段でもいいから2000デナル以上に増やせと指示された。
……思ったんだが、大金を倍にしろとか、かなり無茶振りではないか?
とまあ、ここまでがゲームではチュートリアルの内容だったな。ここからはプレイヤーの自由に行動できるようになる。遺物の調査をするもしないも自由だし、兄弟救出のクエストも放っておくこともできる。
さて、どうしようか。
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