第3話  以上?

 マンホールの中の道を歩きながら、何度も問いかけているのに、店長は何も答えてくれないまま、ただ質問の声が空しく宙を舞うだけだ。


「ーーちょっと、聞いてるの?」


 私は声を張り上げた。


「さぁ、つきましたよ?!次の目的地は、ココです!!」


 悪意に満ちた表情を浮かべながら、店長が指を指す。

 どこをどう回らされたのか?暗かったからよく分かっていないが、そこは、先程までのところより少しだけ明るい。

 マンホールの中を歩いていたはずなのに、今度はなぜか芝生の様なところへとたどり着く。

 そこに辿りついた時、目の前にいたはずの店長が、いなくなっている事に私は気づいた。


 あたりを見渡す。だが、店長は見つからない。

 だが、遠くの方に人影が見える。


 ーーあんなところに行ったのね…。隠れても分かるんだから。


 イライラしながら、店長に文句の一つでも言ってやろうと、私はその人影の方へと、歩み寄る。


 ※


「ーーヒィィィ」


 私はまたそんな悲鳴を上げる。

 どうして、そんな声が出たのかと言うと、その人影は全くと言っていいほど動かない。

 いや、動けないと言った方が正しいだろうか?


 一目見て、ほぼ間違いなく、それと分かるような状況だった。  


「死体」だろうか?

 あたり一面が血の海になっている…。


 まさか、ココで私もーー?


 悪い予感が私の心を支配した。それもそのはず。私も先程、店長に撃たれているのだ。

 こうならない保証は何もない。


 突然、オオカミの遠吠えの様な声と共に、死体だろうと思っていたモノが動き出した。


 ーーガァァァァ。  


 それはゆっくりと私に向かって歩いてくる。

 雄叫びの様な声を上げながら…。 


「ーーイヤァァァァ」


 これ以上ないくらいの声で、私は叫んだ。


「ーーお客さま、こちらで以上となります」


 突然、店長が言った。

 どこまで行っていたのか?いなかったはずの店長の声が突然した事により、私は驚きのあまりにシリモチをついた。


 ーー腰が抜けちゃったようだ。まるで、力が入らない…。

 

 ーーは?

 ーー以上?

 ーー何の事?

 

「これからすべてを、ご説明させて頂きます」


 店長が100パーセントの笑顔で言った。

 私はもう驚きすぎて、声も掠れてしまっている。


 これ以上の驚きはもうない、という程、驚いた気がする。 

 心臓が止まりそうだ…。

 実際に止まったら、大変な事だろうが。


「ーーすべてって??」


「これまでの事をお話しします」


 店長が言った。

 そんな時、先程、対応してくれた従業員が言う。


「ーー店長、そろそろですか?」


「あぁ、後はよろしくね」


 店長が若い従業員と、握手をしている。

 話が全く見えないまま、私は首を傾げた。


「それでは従業員として、狭山(さやま)からご説明させて頂きますね」


 声も出さず、私は頷いた。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る