第4話 死に損ね左之助
新選組副長助勤で、十番隊長をつとめていたのが、原田
その筆頭が、
この左之助には、「死に
生まれ故郷の伊予の松山で、武家の若党をしていた頃、左之助は目上の武士と喧嘩した。
武士は軽輩の左之助をあなどって、ののしった。
「ふんっ、
これを聞いた左之助は、憤然、素っ裸になり、
「侍としてのわが覚悟、見るがよい」
と叫ぶや、脇差を抜いて左腹から右へかけて、一文字にひいた。左之助の腹部からたちまち鮮血が噴く。
喧嘩相手の武士の顔がみるみる
左之助が
「おらおら、待つんだよ。十文字腹を切って、腸をつかみ出して、存分に食らわせてやるからよ」
騒ぎを聞きつけた家中の者が、寄ってたかって左之助をなだめ、ようやくこの切腹劇は幕を閉じたが、以来、「死に損ねの左之助」という
新選組に入隊した左之助は、得意の槍をふるい、数々の修羅場をふんだ。
花街での酒席では、よく切腹の痕のある腹を出して、ぺちゃぺちゃ叩きながら、「俺の腹ァ、金物の味を知ってるんだぜ」
と、威張った。
ある日、左之助は京の刀屋で一振の剣を店主から見せられた。村正だという。
左之助が手にとって
たしかに村正に相違ない。滅多にお目にかかれない
そのような妖剣を佐幕派の新選組隊士が所持していいものか、左之助は一瞬迷ったが、欲しいものは欲しい。
「亭主、値はいかほどか」
左之助が問うと、意外なほど安い。
亭主が言う。
「物打ちから一寸ばかりのところに、傷がありまっしゃろ」
「ふむ、この
「へえ、そこの傷は剣相でいうと、凶穴というらしく、不慮に命を失うそうで……」
「
その後の慶応四年、
江戸へ戻った左之助は、局長の近藤勇と意見の相違をきたし、喧嘩別れ同然に
そこで左之助は永倉新八とともに、旗本の
しかし、その途次、何を思ったのか、左之助は一人江戸へと引き返し、上野の山へと飛び込んだ。幕臣らで結成する
明治元年五月十七日、左之助は大身槍をかざして薩摩軍を迎え撃った。二、三人、串刺しにしたところで、どうしたわけか、槍がけら首から折れた。
目の前から薩摩軍が
左之助は腰の村正を鞘走らせて、
「死に損ねの左之助、ここにあり!」
その瞬間、左之助の眉間を一発の銃弾が撃ち抜いた。
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