第5話
私の仕事は基本的に土日祝が休日なわけだが、先日、休日出勤したために珍しく平日に休みがもらえた。
かといって特にすることはない。
ぶらぶらするかな・・・。
そう思って窓の外を見てみると、雨。
しかも豪雨だったので、これはもしかしたら通り雨かと思い、少し待ってから家を出ることにした。
案の定、雨はすぐに止み、今までが嘘のように晴れ上がっていた。
で、考えた末、出かけた先は三条。
そこに行けば賑やかな場所だし虚しさをごまかせる気がした。
地下鉄を乗り継ぎやっと地上へ出る。
すると驚いたことにその青く晴れ上がった空には虹が架かっていたのだ。
こんなにきれいにかかった虹は久々に見た。ていうか、京都に来て以来、初めて見た虹かもしれない。
「・・・Over the Rainbow・・・。」
思わず私は呟く。
そして真っ先に思い付いたのが神戸だった。
「神戸も見てるかな・・・。」
そう思うと居てもたってもいられなくなり、せっかく地上に出たのだが、また地下に潜って地下鉄に乗り四条駅を目指した。
電車を降りて目指したのは神戸のマンション。
馬鹿みたいだけれど、どうしても虹のことを神戸に伝えたかった。
エレベーターを降り、神戸の部屋に向かう。確かこっちだったな。そう思った時、怒鳴り声が聞こえた。
私はそっと物陰から声のする方を覗いてみる。
「かん・・べ?」
神戸と、背の高い女性が口論している、そして次の瞬間女性は神戸を殴った。
おいおいこれはまずいんじゃない?
私は思わず飛び出て二人を止めに入った。
「何しているのですか!?」
「なに?」
「熊谷!?」
すると女性は、笑いながら言う。
「やだ、新しい女?まぁいいわ、今日のところは帰ってあげる。」
「ちょ、まってよ!!」
私が追いかけようとすると、神戸は私を引っ張った。
「いい・・・もういいから!!」
「神戸・・・でも!!」
「あの人は・・・私と、付き合ってる人だから・・・いい。」
「え・・・!?」
その場で真相を聞く間もなく、私は神戸の部屋に押し込まれた。
「で、聞きたいことは・・・?」
私がいろいろ詮索する前に神戸に先に言われてしまう。
聞きたいことと言われても。
色々ありすぎてわからない。女性が神戸を殴って、その人は神戸と付き合ってて。普通突っ込みどころ多すぎでしょ。
それを察したのか、神戸がため息をつき、口を開いた。
「じゃ、私から説明する。私は同性愛者で、あの人は彼女で、DV受けている。それだけ。納得したなら帰って。」
ちょっと待ってよ、余計納得できないじゃない!!私は焦って神戸に問いただした。
「どこから突っ込んでいいかわかんないよ!!同性の彼女はひとまず置いておいて、暴力はだめでしょ!そんな人別れなよ!!」
「別れられない・・・。」
「はぁ!?神戸、Sっぽい顔してMなの!?それでいいの!!」
「うるさい!!あの人は・・・私の作る料理美味しいって言ってくれたのよ!!」
ますます分からない。
「なんなのよ、そんなの私だって美味しいって言ったじゃない!!」
すると、神戸は私の胸ぐらをつかんだ。引っ叩くの!?そう思ったけど、次の瞬間神戸は信じがたい行動をした。
私に・・・キスしたのだった。
「・・・こういうことしても、あの人は私を認めてくれたから。認めてくれた初めての人だから。」
「・・・神戸・・・。」
「貴女は違うでしょ!?さっさと帰ってよ!!」
言葉もなく、座り込んでいると無理やり引っ張られ家から追い出された。
無理やり家に入れたり追い出したり・・・なんなのよ。
なんなのよ・・・。
本当に。
空を見ると虹はもう消えていた。
自宅に帰り、今日あったことを振り返る。そんなこといつもしない私だけど、今日はちょっと情報量が多すぎた。
神戸は女性が好きで、彼女がいて、その人から暴力受けていて・・・。
あと・・・神戸にキスされた・・・。
まぁ、これは・・・そんなに嫌な気はしなかったけど・・・って!!
落ち着け私。
私は、深呼吸をした。
確かに神戸とは最近話すようになった仲で、あまり深くかかわるのもどうかと思う。だが、放っておけない。
神戸の笑った顔や、今日の悲しそうな顔、いろいろ頭によぎって・・・最後に、
「・・・何もないよ。私の知っている錦の向こうは・・・。ただ暗いだけ。」
という神戸の言葉が思い出された。
何もない。私もそう思うよ。
でも・・・。
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