本当の魔女④
――痛ぅぅうっ……
小さく声が漏れる。ふとももの肉が突っ張っり、足に力を入れる都度に痛みが走る。しかし激痛ではない。かろうじて我慢出来る痛み。おそるおそる立ち上がるとフュテュールは、一歩ずつ摺り足だが歩き始める。
「あまり無理しないで、ゆっくりでいい。でも、大分状態も良くなったみたいね」
マティが肩を貸している。そして樫の枝を加工した支え杖をフュテュールにと手渡した。三日前、一昨日と、日を増す毎に回復しているのが分かる。昨日は所用があり様子を見に来れなかった。しかしもう大丈夫だろう。マティも一安心していた。
「よかった。マティ様、今日も来てくれないのかと不安だったんです……」
思わず本音が漏れる。マティ程の高位修士の者、忙しいのは分かっている。本来ならばフュテュールなどに構っていられるような身分の者ではない。それは理解している。それでも、たった一人で丸一日、この部屋の中で寝ていた時は極度の不安に陥っていた。いろいろと考え込んでしまう。
「ごめんね。ねぇ、私が肩を貸すから外に出ましょう。フュテュール、貴女に見てもらいたいものがある」
見せたいもの?
マティの誘いに一瞬だが戸惑っていた。ほんの少しだが胸がどくんと高鳴る。嫌な予感がした。しかしそれは言わなかった。そんな事よりも外に出れるのが嬉しい。
丸々、一週間近くもフュテュールは床に伏せていた。ほとんど寝たきりだ。マティとてつきっきりで看病していたわけではない。私がいない時は絶対に一人で外に出てはならない。そう彼女はマティから厳命されていた。そしてその約束は守っていた。
――っ――、眩っ!……
小窓から差し込む光とそれは違う。燦々と輝き、照りつける陽光と、砂ぼこりを巻き上げて走り去っていく風に目をしばたたかせている。久しぶりに見た降り注ぐ太陽の光に心が踊る。
特に匂いが懐かしさすら感じた。強烈な薬品臭の立ち込める室内の匂いに嗅ぎ慣れていたのだ。誰もが気にも止めない風が運ぶ季節花の匂いが懐かしくすら思える。
「それほど遠くない、ゆっくりでいいから……」
肩を支えながら歩いてくれているマティの少し荒い吐息までもが鮮明に聞こえる。華奢なのだ、小柄で細身なフュテュールよりもさらに一回り小さい。身長もである。この小さな体のどこから、あの化け物じみた審問官達とやりあう力が出てくるのか本当に不思議だった。そのマティに体半分を預ける格好で、ゆっくりと歩き出すフュテュール。
そっと後ろを振り返った。自分が今まで寝ていた小屋を見る。小さな小屋だった。小高い丘の上にぽつんと一軒、寂しそうに建っている。眼下の道にはせわしなく歩く人々が見える。やがて合流する。そして数分ほど歩いた頃に気付いていた。
誰もが同じ方向に向かって歩いて行く――
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