第5話 仙人ふたたび 2
「ただいま~。お母さん、河童さんと大丈夫だった?」
玄関ドアを開けながら母に声を掛けて、上がっていく。三橋くんは、私の後について、普通に家に上がってきた。
「ちわ~っす。」
「いや、なんで?自分家に帰んないの?三橋くん。」
「だって、河童もいるんだろ?気になるじゃん。ほら。それに、久しぶりだしな~っと・・・・5年の時以来だっけ?」
§
三橋くんは、6年の終わりまで隣の家に住んでいた。
§
母がパタパタと奥から出てきて、三橋くんを見て驚いて声を掛けた。
「あら?もしかして・・・圭太君?」
「あっはい。久しぶりっっす。」
「ま~。あの頃、友香より背が低いぐらいだったのに身長いくつ?」
「185っっす。」
「高いわね~うちのパパに分けてあげたいわ・・・ふふふ。まあ、どうぞどうぞ。お昼食べてって良いわよ。昔を思い出すわね~。」
「あっざ~すっ。」
「いや・・・帰れよ・・・。」
私は、肘でつつきながら三橋くんに言ったが意に介さなかった。
「んだよ。とにかく河童だ。」
小競り合いをしながら、リビングへ入った私たちを待ち受けていたのは、口をあんぐり開けてしまう様なそんな光景だった。
『あれ!!』私
『あれ!!』三橋くん
『だよね?』私
『だよな?』三橋くん
『せ・ん・に・ん!!』私
『せ・ん・に・ん!!』三橋くん
仙人は、優雅に母から茶をもらって啜りながら、こっちを向いて手を挙げた。
「ふぉふぉふぉ、美味いの~この茶は~。ママン殿。良き葉じゃ~どこ産かの?」
「静岡よ~。仙人様。」
当たり前の様に振る舞う母に呆れる私だが、母は動じていない。
「いやいや・・・お母さん、なんで、ややこしいのを増やしてるの?」
「や~ね~。ママンが増やしたんじゃないわよ。・・・気が付いたら~いたんだから。河童さんが仙人様だって言うから、お茶でもと思って。」
頭痛がしてきた・・・自分が普通に感じるよ。
「それとママンは、止めてと言ってるでしょ!お母さん。」
「良いじゃない。昔は、ママンって呼んでくれたのに~。」
「それより、河童さんはどこ?」
「え~っと、あそこよ。」
母の指さす方向には、へんてこなものを皿の上に乗せ、子供用プールで水に浸かって呆ける河童さんが私の方を向いていた。
「河童さんとお買い物に行きたかったんだけど、ちょうどいい子供服が無くって・・・。そしたら、水に浸かりたいっていうから。プール出してあげたのよ。早く、服を揃えてあげなくちゃね~。あっ子鬼ちゃんのも。虎パンだけだしね。ふふふ。」
私たち親子の会話を他所に・・・三橋くんは、河童を見つけるや否や傍まで走って行って、まじまじと河童を見つめて言い放った。
「うわっ。まじ河童!!感動だわ~。」
その言動は、河童さんを十分たじろがせた。
河童さんは、プールから飛び出して仙人の後ろに隠れて三橋くんを見ながら自分が見える人間が増えたことに困惑していた。
「な・・・なんだ・・・なんだこいつ。また、見えるやつが増えた。」
そんな河童さんと仙人のもとへ子鬼が駆け寄って話しかける。
「かっぱー。せんにん。ゆかとあそんできたじょ・・・たぬきちおちたじょ。せんにん、たぬきちひろったじょ~。な~?せんにん。」
仙人さんはこくこく頷いてニッコリ笑うだけだ。
「何言ってんだ!子鬼~!!おまえ、勝手についていって、なんかあったらどうするんだーーー!!」
子鬼は、訳が分からずキョトンとして小首を傾げながら河童を見つめた。
「かっぱー。いきたかったか?ふくろは、かっぱは、はいれないじょ~。」
「ちがうちがうちがーーーう。いくかーーー!!」
子鬼は、河童の気持ちが分からなくて、小首を傾げたまま、母に抱っこを迫りにトコトコと駆け寄った。
「だっこ。」
「はいはい。だっこね。」
ほっぺをすりすりしながら子鬼を抱っこした母は、満面の笑顔で言う。
「さっお昼ご飯にしましょう。子鬼ちゃん!!」
「こおにじゃないじょ~おにだじょ~。」
「そうね~。」
和やかに過ぎようとするその場を私が割いて、仙人にどういうことなのかを聞こうと振り返ると仙人は忽然と姿を消していた。
「せ、ん、に、んめ~察知して逃げたなーーー!!どこ行ったーーー???仙人!!」
そんな叫びを無視して、母は、昼ご飯を用意し、三橋くんは、当り前の様にテーブルについて『まあまあ落ち着いて、ご飯食べよう!!』と私を呼んだのだった。
『落ち着けるかーーー!!』ともう一度叫んだけど無駄だった・・・。
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