第2話 三橋くん

「うわっ!!」

「あら、やだ!!友香ちゃん、遅刻になるわよ!!」


私は、とりあえずカバンを背負って、朝ごはん抜きで学校へと向かうため玄関で靴を履きながら母に、『子鬼と河童を頼むね!』と言って自転車に乗った。母が手を振る玄関を遠目に見ながらなんか変だぞ・・・と違和感を覚えたが、とにかく期末テストを受けなくてはいけない方が勝り、自転車でひた走るのだった。


「あーーー。さっきもここ、走ったんだよな~。」


そう、本日2回目の激走である。異世界に飛ばされたあの時も、訳も分からず自転車で学校へ向かっていたのだ。『あたしってば・・・鬼体力!!』そんな事を考えながら走っていたのだが、なんだか体が・・・いや背中が重かった。気のせいだと思いたかったがやはり重い。そうこうしているともう、学校の自転車置き場まで来ていた。


「おい!赤羽友香!」

「ちょっと~!!フルネームで呼び捨ては、止めてって言ってんでしょ!!三橋くん。」

「んなことより、背中にガキ連れて学校来るやつがいんのかよ!」

「えっ?えーーーー!!。」


背中のカバンを下ろしてみたら、カバンの口からひょっこり顔を出している子鬼とたぬきちが窮屈そうに入っていた。

「ひーーーー!!ばっ・・・か、子鬼ーーーーいつ入ったんだよ?ったくもう。」


『どうやって入ったんだよ・・・。』三橋君の目は、そう語っているが今はそれどころではない。


「ここは、じょこだ?ゆか?」

「おっ名前覚えたのか?子鬼。」

「うん!」

「てっそんな場合じゃなかったーーー!!。」


キーンコーンカーンコーン・・・予鈴が鳴り始めて三橋くんが私を呼んだ。


「おい!とにかく教室いくぞ!!」


私は、子鬼の入ったカバンを背負いなおし『うっ重い・・・。』教室へとダッシュして、大急ぎでとドアを開けた。予鈴は丁度、鳴り終わったばかりだ。


「セーフ!!」


ガコン。頭に軽い衝撃がと思ったら、担任に後ろから出席簿で頭をこつかれた。


「痛っ!!」

「何が、セーフだーーー。馬鹿もん。予鈴なり終わってんだろう?早く席に着け赤羽。三橋!!」

「はーーーーい。」

「うっす。」


ズキズキするじゃないかと頭を撫でながら席に向かって、ふと気づいた。

『見えてない???三橋くんは、・・・見えてる。』

隣に立ってる三橋くんに目をやると子鬼に手を振っている。

『ってことは、見えてる人と見えてない人がこの教室に混ざっているの?』


「えーーーーー!!!ややこしいーーーーーー!!」


ガコン。また、頭の上に出席簿が落ちてきた。


「赤羽・・・お前だよ。ややこしいのは!遅刻して、叫ぶんじゃない!!早く席に着け、全く。何回も言わせるなよ。三橋ーーーお前もだぞ。」


『ゔゔ~朝から2度も・・・。おバカな頭がより一層・・・になるじゃないか。なんてこった。』と思いながらも辺りを見回しながら席に着いた。どうも、見えてそうなのは、三橋くんぐらいのようだ。席について、子鬼の入ったカバンを下ろして、コソコソと子鬼に言った。


「いいか~静かにしてるんだぞ。」


子鬼はコクリと頷いて、机の上から降りると窓の外を眺め始めた。

『あー窓際の後ろ・・・最高の席で良かった・・・。しかも、見えてる三橋くんが隣で良かった。だって、絶対にこの状況は、独り言を話す変な奴になるじゃないか・・・。』

頭の中は、もう、期末テストどころじゃない・・・。どうやって、この状況を打開するかでいっぱいだった。


担任がテスト用紙を配布し始めたとき三橋くんがシャーペンでツンツンしてきた。


「何?」

「いや、何じゃねーよ。角の生えたガキ連れてきて普通にしてんなよ。」

「てか?なんで見えてんの?ほかの人見えてないのに・・・。」

「いや、俺もびっくりしてんだよ。みんな見えてると思ったのにさ・・・。さっきの担任の態度で見えてないの分かって・・・引いたわ、俺。」


三橋くんとの秘密の共有に、ちょっと変な安心感が芽生えたその時だった。コソコソと会話しているのがばれて、気づけば担任が席の前で仁王立ちしているではないか。そして、怒りを抑えながら、出席簿の角で机をコンコンと机を叩きながら言った。


「お前らなーーー。テスト終わったら職員室に呼ばれたいのか?」


二人揃って、立って謝り、クラスメートに冷やかされ・・・『最悪だ~。』と思いながらもう一度、席に着いたその時だった。窓の外をたぬきちにも見せよう子鬼が抱っこするのが見えた。


『あっ』私

『あっ』三橋くん


「おちたじょ・・・たぬきち~」


『じゃないだろ~!!!!!どうする?どうする?ここ、3階なんですけど~!!!たぬきちーーーーー。DIEしちゃったのかーーーーー???』


頭の中はもう、破裂しそうだった。とにかく・・・うるうるしながら、三橋くんに目で合図を送る。三橋くんも目が点になっていた。


『どうするんだよ!!!赤羽!!!』

『どうするって、言われてもーーー。』


あー泣けてきた涙が出そう・・・。そんな私を他所に、子鬼は、トコトコとやって来て、袖を引っ張る。


「ゆか。たぬきちおちたじょ。むかえにいくじょ。」

「むかえにいくじょじゃないよ・・・・・落としたんだぞーーー。もう、たぬきちは・・・」

「うん。おちたじょ。」


『赤羽!!どうすんだよ!!たぬき』


三橋くんもパニックだし、私も机に突っ伏して、泣きそうになったが、とにかくたぬきちがどうなったか確認しなくてはいけない・・・。そう、思った時だった。























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る