第3話 異変

封印の儀式用に支度を整えようと儀式用のメイド服を着込んだメイド2人と部屋に下がったニヤ。


若干緊張しながら、メイドに手伝わせて着替えていると、メイドの1人がニヤの背中をそっと触った。


そして、今度はグイと背中を引っ張られる感覚があった。


そのメイドはもう1人のメイドに何か囁き、そっと部屋を出て行った。


すぐに先程のメイドが、メイド長と共に戻ってきた。ニヤは上半身裸のままだ。


メイド長は、先程のメイドと同じようにニヤの背中を触り、引っ張った。それから、ニヤ付きのメイド2人を下がらせた。



どうしたのだろうとメイド長に理由を聞こうとすると、メイド長の方から、ニヤにしか聞こえないくらいの小さな声で


「王子、恐れながらお背中に羽毛のようなものが生えておいでです。」


と囁いた。その声は、僅かだが震えていた。


羽毛?背中に?


ニヤが驚いた顔をすると、メイド長が大きな鏡を、ニヤに背中が見えるように置いてくれた。


確かに何かふわふわした黒いものが左右1つずつ、両方の肩甲骨辺りに付いている。


「何だろう?取れないのか?」


と思わず口に出していうと、


「はい、生えていると思われます。」


「生えている?」


鳥人類に生まれついた者は、年頃になると背中にアザが浮かぶというが、それだろうか?


「鳥人類のものか?」


メイド長に聞いてみると、


「いえ、アザではございません。噂に聞く鳥人類のアザでは無いかと思われます。」


と言う。


ニヤはメイド長に、メイド2人に口止めをしてもらい、下がらせた。


今度は「黒い」羽毛だ。

呪われているのだろうか。


何か付いているだけかもしれないと思い、自分で手を伸ばして引っ張ってみるが、のりで付けたような物ではなく、引っ張ると身体の芯が引っ張られるようで痛い。


引っ張ってちぎれる物ならちぎってしまいたかったが、羽毛はしっかりと根を張っていた。


ニヤは諦めて上着を着た。


『背中に黒い羽毛が生えている。』


これは、ニヤにとって受け入れ難い事実だった。左右の肩甲骨に1つずつ、まるで鳥人類の背中のアザのようではないか。


僕は鳥人類なのか?


僕が鳥人類だった場合、父上のお立場はどうなるのだ?


何より、家族に与える影響は大きい。

どうしたらいいのだ。


しかし、背中にアザではなく羽根が生えている鳥人類など、聞いたことがない。


歴史上、かつての鳥人類には翼があったというが、もう何世紀も前の話だ。


これはなんなのだ?


考えに耽っていると、誰かが人目を避けてニヤのいる皇太子控えの間に入って来た。


誰だろうと思っていると、なんと、ニヤの父アルモストのことをよく思っていない第一王子ダイナス・ニルビナコだ。


「叔父様、控えの間に何の御用ですか?」


とニヤが言うと、ダイナスは


「もう背中の物は隠してしまったのだな。」


と言ってにやりと笑った。



『背中の物?』


なぜ宿敵であるダイナス叔父様が、今見つかったばかりの背中の羽毛について知っているのだ?


2人のメイドかメイド長が叔父様と通じていたか!!しまった!よりによって叔父様に知られるなんて!!


ダイナスはニヤの目をジロリと見てから


「私だったら、そんなものを背中に付けて皆の前には出れないがな。黒髪で悪魔のニヤ皇太子は厚かましいからな。おお怖い。」

と言って高笑いして部屋を出て行った。


ニヤは、ダイナス叔父様に「悪魔」と言われて、初めて背中の羽毛の怖さを思った。


ダイナス叔父様に知られた今、確かにこんな得体の知れないものを背中に生やして、今まで通り王宮で生きていくわけにはいかない。


「出て行こう」


悩む暇など無かった。

ニヤは、その晩のうちにそっと王宮を出た。


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