第2話 成長
ドーーーン!!
すごい音がして、部屋は煙に包まれた。
5歳のニヤは、びっくりして目を覚ました。
真っ暗だ。
リズと2人で乳母に本を読んでもらって、
そのまま眠りについたところだった。
乳母もリズもどこにいるのか見えない。
ヒュンヒュン・・・
何か丸いものがたくさん飛んでいる。ニヤが目を凝らして見ると、それは黒がかった紫色の魔球だった。
教育係のカザレに魔法を指南してもらい始めたところなので、何と無く分かった。
魔球は紫色の雷のようなものを光らせて、こちらに向かって飛んできた。
「ニヤ様!」
乳母が暗闇から急に現れてニヤを庇った。
乳母は背中に怪我を負ったようだった。
暗闇に目が慣れてくると、リズがいるのも分かった。
「大丈夫か!?」
教育係のカザレが駆け込んできた。
「カザレ様、魔球がニヤ様を!」
「む、これは暗黒魔球?!」
「では、ニヤ様が力に目覚められたのですか?」
「これは厄介な・・・」
この会話を聞きながら、ニヤは少しずつ意識が遠のいていくのを感じていた。
意識が身体から抜け、魔球を扱おうとするかの
ように・・・
「ニヤ!大丈夫!」
ニヤは急に現実に引き戻された。
リズが抱きついてきたのだ。
助かった、そう思った時にはニヤは気を失っていた。
「ニヤ様?!」
「ニヤ?!」
魔球は消え、部屋は元の通り静かになった。
魔球が当たって消失した部分が今までの騒ぎを物語る唯一ののものとなった。
乳母は背中に傷を負っていた。
次の日、王宮は暗黒魔法の話で持ちきりだった。
「黒髪のニヤ王子が目覚めたらしいな。」
「乳母殿に魔球を放ったとか!」
「何と恐ろしい!」
「暗黒属性は悪魔の力なのだろう?そんな者が王宮に居て大丈夫なのか?」
父のアルモストはニヤを庇ってくれて、色々な無責任な噂話から守ってくれたが、それでもニヤには届いた。
乳母は傷が治りすぐ復職したが、ニヤは1日たりとも、乳母の背中の傷を忘れた日は無かった。
これがニヤの1番古い記憶だった。
ニヤとリズは、サルタム国第一王子ダイナス・ニルビナコの娘サーヤと王宮で世の中の仕組みや王国の歴史、
魔法、薬草学、武術などを共に学んで育っていった。3人はとても仲が良く、いつも一緒だった。
3人はカザレから様々なことを学んだ。
「この大陸には、我らがサルタム王国と、東側にわが国の同盟国、ハカリナ女帝が治めるフロイド帝国、西
側にフローリヤ皇太子妃の出身国であるヨーク大公治めるモルク公国が位置しているのは、ご存知ですね?」
とカザレがいうと
「そして南の端に鳥人類たちの楽園エデンがあり、我がサルタム王国の斜め北、王国の者は到達したことが
ないという、高き山のその向こうに悪魔の巣食う国、魔王の治めるデビルズランドがあるのだね?」
とニヤが続けた。
「その通りです。つい先日、エデンの長老ハクナが何者かに毒を盛られ殺害されたとか。
ハクナは代々前世の記憶を持ってタマゴから生まれるので、今エデンの鳥人類たちはもちろん、他の国々の王たちも血まなこになって、そのタマゴを探しているといいます。」
カザレの言葉にリズは
「まあ、怖い。」
と身震いした。
「早く無事にエデンへ帰れるといいですわね。」
「そうですな、ハクナはエデンの宝と言いますし、ハクナが戻らなければ、各国とエデンの関係が変わって
しまうかもしれませんな。
鳥人類たちから悪魔が生まれるという理由で、鳥人類を亡き者にしたい連中も多い世の中ですし、ハクナもタマゴから生まれた時から敵が多くて大変ですね。」
とカザレが言った。
ニヤは13歳になったが、まだ剣術で教育係のカザレに勝ったことが無かった。いつも惜しいところまでいく
のだが、力が足りず跳ね飛ばされてしまう。
今日もニヤがカザレから1本取ろうと試合を申し込んだところだった。
カキーン!! カキーーン!!
剣の打ち合いが始まった。それを見ていたサーヤが、
「ニヤ、最近剣術の上達すごいわねー。」
とリズに言った。
「お兄様は、剣術も魔法も薬草学も歴史も帝王学も、全てダントツトップですものねー。」
とリズは誇らしげ。
「そうね、弱冠13歳にしてね。王国の歴史上最も優れている魔法の使い手で、国の内外から魔法使いが教え
を請いに来るくらいだし、
剣術もこの分だとそろそろ、教育係に勝利した記録、アルモスト叔父様の最年少記録15歳を塗り替えそうね。
さすが将来サルタム王国の王位を継ぐ者だわ。」
サーヤは目を輝かせている。
「あら、将来王位を継ぐのはサーヤ王女ではなくて?」
とリズが冗談ぽく言うと
「リズ、からかうのはやめて。お父様が裏で色々動いているみたいだけれど、私は、次の王位はアルモスト
叔父様が継いで、その跡をニヤが継ぐのが自然なことと思っているわ。」
サーヤは静かに微笑んだ。
カキーーン!!
金属が激しくぶつかる音がして、カザレの剣が折れた。
「一本あったわね。」
サーヤとリズは立ち上がって、ドレスを直した。
「お兄様、遂にやったわね!」
リズが声をかけると、ニヤはカザレが起き上がるのに手を貸した。
「こんなに優秀な王子をお育て出来て、このカザレ、幸せでございます。」
とカザレは会釈した。
「ありがとう、カザレ。全てカザレのお陰だよ。」
「後は、封印の儀式ですな。」
「そうだ、肝心の儀式がまだ残っている。」
「その儀式も今夜、もう少しでございます。」
今夜、ニヤは世界最強と言われる暗黒属性魔法を自ら封印する儀式に臨むことになっていた。
それは、5歳の時に乳母を傷つけてしまった時から13歳になった今日までのニヤの悲願だった。
この黒髪。生まれつき真っ黒なこの髪。
ニヤの黒髪を見て人は、悪魔の属性とされる暗黒属性の力を持つニヤに怯える。
ニヤが何もしていないのに、ただの一言も発していなくても、人はニヤを悪魔を見るような目で見る。
ニヤは人を喰らう悪魔では無い。暗黒属性が最強魔法だと皆怯えるのだ。
手を尽くして暗黒属性の魔法についても調べた。暗黒属性の力は、今夜封印魔法で封印する。
もう2度と人を傷つけるようなことはしない。でも、それでは終わらないのだ。
ニヤがアルモスト・クローデッドの息子だから、皆丁寧で優しいが、この立場でなかったらどうだったのだ
ろうと考えると怖かった。
普通貴族の家の出だったら?王宮に出入り出来ただろうか。多分一目見ただけで、門番さえ王宮へは通してはくれないだろう。
もしも一般の町民だったら?生きていけただろうか。タマゴから生まれた時点で捨てられていただろう。
ニヤはただただ、王子という自分の生まれついての恵まれた環境の凄さを思うばかりだった。
そしていつも庇ってくれている両親に、申し訳ない気持ちと有り難い気持ちで一杯になった。
「お兄様、また何かむずかしいことを考えてらっしゃるのね。」
とリズがニヤの顔を覗き込んだ。
「いや、何でもないよ。」
「髪の毛のことでも考えてらしたの?わたくしにはお見通しですわよ?」
リズはズバリと言った。
「リズは鋭いなぁ。」
とニヤが言うと、リズは得意そうに微笑んだ。
「お兄様には、このリズがおりますから、何の心配もなさらなくて大丈夫ですわよ。」
あの時も暴走を止めてくれたのはリズだった。
でも、いつも隣にリズがいるとは限らない。
ニヤは大きなため息をついた。
ニヤは魔法を、暗黒属性の魔法を調べたくて必死に勉強した。国の内外から人を呼び、最強魔法と呼ばれる
この力を打ち消す方法を探した。
勉強すれば勉強するほど、探せば探すほど、調べれば調べるほど、この力は僕の髪の毛のように僕の奥底に
根付き、僕とは切っても切れないものなのだと知り打ちのめされる結果となった。
そして剣術を、魔法など無くても生きていけるように鍛錬した。暗黒属性など関係ないのだ、魔法などこの
世に必要無いのだと思い、鍛錬すればするほど、自分の中の暗黒属性と睨み合うこととなった。
そして今夜、ようやくその因縁の暗黒属性魔法を封印することとなった。
・・・とはいえ、5歳のあの日以来ニヤは暗黒魔球を発してはいなかった。
自分を律する力の強いニヤは、時に自分に厳しすぎるほどに鍛錬し、その力を完全に閉じ込めていた。
ニヤの父、現国王の第二皇子アルモスト・クローデッドは第一王位継承者だ。
第二王位継承者である第一皇子、ダイナス・ニルナビコとは王都を二分する人気争いを繰り広げている。
そのダイナス叔父の軍勢の言い分のほとんどが、ニヤを王位継承者にするな、というものだった。
今夜の暗黒属性魔法の封印の儀式は、その反対勢に対するデモンストレーションのようなものだった。
「いよいよ今夜だ。」
ニヤは、声に出して言った。アルモストの第一皇子として出来ることは何でもやってきた。
これからもそのつもりだ。それでいいのだと思い、封印の儀式の準備に取り掛かることにした。
そして、事件は起きた・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます