天使と悪魔
水無瀬神楽
第1話 誕生
サルタム王国王都メラニアの空に
下弦の月が浮かんだ寒い夜、
皇太子アルモスト・クローデッドと
その妻フローリヤは、息を潜めて
じっとタマゴを見つめていた。
それは2人が1年前に初めて授かった双子のタマゴで、この1年間、2人がずっと大切にしてきたものだった。
コトコトコトコト・・・
タマゴが動き始めた。
ようやく我が子に会える安堵感と、
これから起こることへの緊張感で、
アルモストはいつになくドキドキしていた。
もちろん準備は万全だ。しかし、初めての経験だ、
どんな子が生まれてくるのか楽しみだった。
この大陸には昔は天使だったという、
鳥人類という種族がいる。
彼らの背中には、年頃になると翼のアザの跡が
くっきり浮かぶという。
いや、鳥人類自体は大した問題では無いのだ。
彼らは陽気で気さくな人柄なのだが、時々
その鳥人類から何かのきっかけで悪魔が生まれる。
詳しい経緯は分かっていないが、悪魔は赤い瞳を光らせ人を喰らう。
子供達が赤い瞳だったらどうしよう、そんな可能性
まで考えて、アルモストは身震いした。
コトコトコトコト・・・・・
さっきより激しくタマゴが動く。いよいよか・・・
カタ・・・・
タマゴにヒビが入った。
すかさず妻のフローリヤが2つのタマゴに手を添えて殻から順番に赤ん坊を取り出した。
先に出てきたのは黒い髪に紫色の瞳の男の子、後から銅色の髪の毛に青い瞳の女の子が生まれてきた。
2人は男の子をニヤ、女の子をリズと名付けた。
とりあえず、双子は赤い目では無かった。
アルモストは一安心した。
「次は翼のアザだな。」
というとフローリヤも頷いた。
アルモストはニヤを、フローリヤはリズをそっと裏返しにして背中を見ることにした。
2人の白い背中には翼の跡は無かった。
アルモストはホッとした。
「あなた、この子は黒髪ね。」
とフローリヤに言われて初めてアルモストは
ニヤの髪の毛の色を意識した。
この大陸の人間のほとんどが濃い薄いはあれ、茶褐色の髪の毛に生まれてくる。
それ以外の髪の毛の色はその色に合った属性魔法が
使える生まれながらの才能があると言われている。
「ニヤは暗黒属性か、珍しい。」
黒髪の者など聞いたことがない。
国外でも間違いなく珍しいだろう。
「2人とも大切に育てていこう。」
とアルモストは言って、ニヤとリズが眠っている姿を見て、この2人の未来が明るいことを祈った。
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