第23話 家出2
ぶんた探しは振り出しに戻ってしまった。昨日探したところをまたしらみつぶしに歩き回るけど、昨日の収穫がなかったように今日も大した収穫はなかった。歩いても歩いてもただただ時間ばかりが過ぎていく。無力感に押しつぶされてついに動くことが嫌になってしまった。
近所の公園まで戻ってくるとベンチに腰を掛けて座った。昨日と同じようにどんよりとした空が今日も続いている。風は静かで穏やかなのが余計に鬱屈な気分にさせた。焦らせるものがないというのも、それはそれで困る。
ふと、隣に誰かが座った気配がした。視線を向けると、そこにはお婆さんが座っていた。買い物帰りなのだろうか、レジ袋を手下げて重そうにベンチの脇へと置いている。
「ぶんたちゃんと話すのもいいけど、お姉さんと話すのもいいものよね」
こんにちは。素敵な笑顔を今日も引き連れて、お婆さんは私に挨拶をしてきた。突然のことに素っ頓狂な声が出てしまい、お婆さんの笑顔を余計に増やしてしまった。
「どうしたの、何か悩み事」
覗き込むようにお婆さんが視線を合わせてくる。皺だらけの顔でも眼力は強く、何か見透かされているような気持になった。
「いえ」
大した事はない。そう切り返せばそこで終わるのに、中々この口はその先の言葉をつづけようとしない。本当に大したことないことならここまで私は悩んでいないのに。
大したことなのだ。私にとってぶんたとは。
「ぶんたが家出したんです。昨日、やっと見つけたのに、威嚇されちゃって。また今日様子見に行ったら、いなくて」
ポツリと漏らすように、静かに話す。
「お腹空かせていないかなって、ご飯だけ置いてきたんです。でも、昨日の様子から見ると、多分手を付けてくれないんだろうなって感じているんです」
自虐気味に笑って見せるけど、頬がどうもひきつっている気がする。お婆さんは何も言わずに、うんうんと相槌をうって聞いてくれる。
「私はいつ、ぶんたの気持ちを見失ってしまったんだろうって後悔ばかりしているんです」
ふつふつと、悲しみが湧いてくる。私のもとにぶんたはもう帰ってこないのだろうか。もう、二度とあのぷっくりしたおしりも、ふわりとした毛並みも、少し折れ曲がった耳も、金色のビー玉のような目も見れないのだろうか。悲しさに押しつぶされた時にそっと隣に寄り添ってくれたあの暖かさも二度と感じれないのだろうか。
いらない不安が心を押しつぶそうとする。誰かに聞いてほしい。心が叫んでいた。
今なら、もう、言ってしまってもいいのかもしれない。
「ごめんなさい。私、変なこと言いますね」
そう一言断りを入れてついに話した。弘人にも言ってないその一言を。
「私、ぶんたと話すことができるんです」
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