第18話 壊れたテレビ3
鍵を開けて扉を開けると玄関口でぶんたが座って待っていた。居間で寝転がっているか、そうでなければ出かけているものかと思っていた。珍しい。
テレビを持ってきてくれた弘人を家の中に招き、居間へと促す。足元にいるぶんたに気付くと、弘人は表情を緩めた。
「ぶんたはこれがよほど気になるみたいだな」
つかず離れずの距離感でゆっくりとやや前を歩くぶんた。こちらが一歩進めば同じぶんだけ進み、足を止めればぶんたも止まる。
「早くついてこい、って言われているみたいで面白いな」
可愛いやつめ。そう言って弘人はずんずんと居間に進んでいく。
一方で私はというと弘人とは違う捉え方をしていた。
「なんか、ちょっといつものぶんたらしくないかな。いつもは何か買って帰ると一目散に寄ってきて匂いを嗅ごうとするからさ」
ちらちらとこちらを振り返って、近寄りたいけど近寄らないという仕草をしている。
「あまり俺はぶんたから好かれていないみたいだしな。仕方ないよ」
弘人は自嘲気味に笑った。
居間で腰をおろすと、弘人は箱を開封していく。何か手伝おうかと声をかけても、明美はゆっくりしていてくれていいよと弘人がいうものだから、お言葉に甘えることにした。お茶を入れて座ると、ぶんたがすっと私の膝の上に乗ってくる。特に何も言わずに弘人の方を見れるように丸くなったので、二人で一緒に弘人の作業を見守る形となった。
どこから開けるんだこれ、と悪戦苦闘しながら何とか包んでいた段ボールを脇に追いやり、中から出てきたケーブルと説明書を確認していく。
弘人は機械音痴という訳でもないけれども、特別機械に詳しいという訳でもない。出てきたケーブルを手に取ってみては、テレビの裏側を覗いて「これはこっちか。いや違うな」と独り言を言いながら格闘していく。普段のスマートな姿とはまた違う手間取っている感じもなんだか新鮮で、どこか可笑しさを感じさせる。頬が緩んでしまった。
20分ほど格闘の末、テレビに映像が映るとようやく弘人はお茶に手を出して一息ついた。
「ぶんた、いつ来ても明美にべったりだよな」
膝で丸まっているぶんたを見て弘人がいう。
「いい加減、俺にも懐いてくれとは言わないから頭撫でるくらい許してほしいものなんだけどな」
「来た時のこと気にしてた?」
「いや、別にそんな深刻ってわけじゃないんだ。ちょっとくらい心開いて話でもできればいいのになって思うんだけどな」
なぁ、ぶんた。ニコリと笑う弘人とじっと見つめるぶんた。返事すらされない無言の間に嫌気がさしたのか、弘人は深くため息をついて頬杖をついた。
「ぶんたは明美の事だけが大好きなんだろうな。とりつく島もないよ。なんか人見知りの明美の弟とかそんな感じがするよ。本当、家族みたいだ」
「家族だよ。ぶんたと私は」
短い耳も柔らかな毛並みもぷっくりとしたおなかも。全てが愛おしい。静かに流れる日々が私にとっても、ぶんたにとってもきっと幸せなんだろう。
だから願わくば。そう思って言葉をつづけた。
「こうやって一緒に過ごしていくのが私達の幸せだから。なんでもない日も三人で暮らしていけるといいな」
「そうだな」
弘人が短く、でも力強く答えてくれた。
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